最終話 永久
私とタナトスは、深層心理から脱出した後、そのまま天界の保護監察官に連れられて、今、天界の裁きの門に来ている。
え、何でって?
それはですね……。裁かれちゃうんです。
悪いことをしたから……。
よくよく考えると、私が霊体の頃から、ずっと成仏せずに存在していたこと自体も違法滞在という形になるし、それだけではなく、私の身体に淫夢魔の美夢を依り代にしたのも、どうやら違法だったらしい。
いやぁ、よくよく考えればこんなこと繰り返されたら、天界はそういう悪いことを考えている連中で溢れちゃうものね……。
「と、いうわけで、タナトスと相沢美琴の両名に関する裁きを行わなければならない」
とはいえ、目の前にいるのがプロミスさんというのが、何だかなぁ……。
非公開の裁判所で行われていることからして、私たちの権利とやらも守られているのだろう。
「ひとつ質問をしてもいいだろうか?」
「どうぞ、タナトスくん」
「これを有耶無耶にしたら、どうなるんだ?」
「有耶無耶にできるわけないだろ!? だって、前代未聞のことが起こっているんだぞ!」
「まあ、それは分かっている」
「いや、分かっちゃいないよ! 今回の件に関しては監査部だけの問題じゃない! 天界すべてで問題になっているんだよ!」
「ええっ!? どういうことなの!? プロミスさん!?」
「まず、相沢さんが犯した内容については分かっているかな?」
「えっと、長期間の天界への滞在?」
「それと?」
「それと……ああ、美夢を依り代として、成仏できなくなったわね!」
「うん、それと?」
「え……? 他に?」
「浮遊霊の無許可に誘導」
「あ、それもダメだったんだ……」
「当然だろ!」
うう……。なかなか厳しいなぁ……。
これはやっぱり追放されるパターンなんだろうか……。
その後、ネチネチとプロミスさんから話を聞かされた上で、今日は解放された。
私は久々に学校の屋上に来ている。
何だか、タナトスとも顔を合わせる気にもなれない。
助けてくれたあと、お礼を言ったり、一緒に食事をしたりということはあったけれど、ヒュノプスが仕掛けてくることがなかったという点からも、こちらも霊力を使用する機会がそうなかったのだ。
おかげで、あのエロいキスをするだけで、霊力に関しては事足りている状態だ。
「どうしよう……。やっぱり追放されるのかなぁ……」
「何か悩み事?」
「え? うん………て、友理奈!? どうして普通に話しかけてるの!?」
「いや、姿は見えてないけれど、声は私レベルの人間には丸聞こえのモノだったから……」
これはいけない……。
霊能者の類の人には聞こえるように、声に出して話をしてしまっていたということか……。
もう、完全にダメじゃん、私。
「うんっとね。私、このままいくと追放されちゃうかも……」
「どうして?」
「いや、そもそも死んだ人が天界に存在し続けるのが、違法なんだけど……」
「まあ、そりゃ仏式でも49日で旅立つものね……」
「そうなのよ……。でも、私はずっと居続けているのよね」
「そうだよね……。じゃあ、いっそのことタナトスさんと結婚しちゃえば?」
「え!? 結婚!?」
「そう! だって、確かタナトスさんの兄弟のヒュノプスさんは結婚していたはずよ」
そうなの!?
あんな若く見えるのに!?
「結婚かぁ……。で、でも、恥ずかしいよぉ……」
「またぁ……。もうエッチもしているんだし、問題ないでしょ!」
「え!? で、でも……」
「美琴、勇気を出さなきゃダメな時なのよ……、今が」
私は友理奈の気迫に押されて、思わずうなずいてしまった。
やっぱり、今しかないよね……。
再び、私とタナトスは天界の裁きの門にある裁判所に呼び出された。
この一週間、タナトスとあまり話をすることもなかった。
もちろん、キスはしたけど、エッチなことは一切なかった。
何だか拍子抜けするくらい何もしてこなかった……。
も、もしかして、私を女として見てない!?
ちょっと嫌われてるのかな……。ああ、今日、誓おうと思っていたのに、何だか勘違い女みたいじゃない!?
「では、今日が最終審判となるわけだが、相沢美琴……。何か言いたいことはないか?」
「え!? 私ですか!?」
「ああ、だってお前とタナトスのことを話しているのに、大抵、お前は話をきいているだけだろ。そもそも、今回の話をしていて思うのが、お前の意思がないんだが……」
プロミスさんからそう言われて、私は初めて席から立ち上がった。
やっぱり、この場で私は言った方が良いのだろうか……。
「私は……、もう一人になりたくない……。死ぬ前からずっとすべてを失い続けて、本当に寂しかった。でも、周りにそれを出したくなくて、家でだけ落ち込んでいた。誰にも頼ることが出来ずに辛い思いしかできなかった。周りから変に思われるのが怖かったから、気持ちを噛み殺して、ずっと笑顔でい続けた。結果として、それをヒュノプスに上手く利用されちゃったんだけれどね……。でもね、死んでからはタナトスとずっと一緒にいて、翔和に対して仕返しをしつつ、生きていくことが楽しかった。もちろん、翔和に対して仕返しをするのは格別に楽しかったんだけど、それ以上にタナトスと一緒にいることが何よりも嬉しかったし、死んだ私が言うのは変かもしれないけれど、すごく一緒にいるとリラックスできる存在だった。プロミスさんが、入力し直しちゃって『恋愛関係』として、霊力の共有を行ったりするようになったけれど、それも私にとっては何だか、初めてで嬉しかった……」
私はプロミスさんの方を見据えた。
もう、覚悟はできている。
「私はタナトスとの結婚を望みます!」
私の声が裁判所に響き、一瞬の静寂の後―――、
「「ええぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?」」
タナトスとプロミスさんが叫んだ。
ええっ!? そんなに驚かれること!?
「お前、天界でこれまでに例のないことをしたうえで、まだこの上例外を積み上げる気か!?」
「え!? そんなに凄いことなの!?」
「当り前だろうが! 美琴、お前の発言は俺の人生にも影響するんだぞ!」
「そ、そうよ! 前例がなければ作ればいいじゃない! それに、私はそれだけタナトスのことが好きなの! 大好きなの! 一緒にいたいの! だから、前例なんて無視して、私を成仏できないのならば、私はタナトスと結婚して、タナトスのお嫁さんになりたいの!」
「お、お前、そんな無茶な……」
タナトスは私が啖呵を切ったことに驚きを隠せない様子だ。
プロミスさんはやれやれと頭を掻いている。
ふふふ! 言ってやった! さあ、どう出る、天界の役人どもよ!(もはや悪役のノリ)
「タナトス……。この女は凄い女だな……」
「まあ、俺が言うのもなんだが、凄い奴だと思う……」
「あと、実はお前には、裁判が始まってから美琴との距離を置けと言っていたよな?」
「ああ、霊力共有のためにキスはしたけどな……」
「構わないよ……。もう、この際だ、あれは別の意味があったんだよ……」
「ん? どういうことだ?」
「はぁ……。お前も、このお嬢ちゃんも気づいていないようだから、言っとくわ……」
「正直言うと、結婚という解決案も出されるかもしれないと、昨日、八伏のお稲荷様から提案があって、それが出されたら即時了承するように言われていて、書類上の処理は水面下で動いていたんだよ……」
「はぁ!? それは初耳だぞ!」
「そりゃそうじゃん。今言ったんだから……。あと、本当に落ち着いて聞いて欲しいんだが、タナトス、このお嬢ちゃん、妊娠してるんだよ………」
「「……え……」」
妊娠って何?
えっと、どういうこと? 子どもの私には分からないんだけど……。
て、妊娠ですって―――――っ!?
「何だと!? 誰の子どもだよ!」
「いや、タナトス、突っ込むところはそこ!?」
思わず私はツッコミを入れてしまった。
「そりゃ、お前の子どもだよ……。だから、近づいたら、性欲の強いお前はすぐにお嬢ちゃんを襲っちゃうから、ちょっと距離を取らせたんだよ。安定期をちゃんと迎えないとさすがに流産の恐れもあるからな……。で、一応、俺たちの方でも妊娠が確認できてから、お前たちに何も言わずに監視はしてきた。悪魔が生まれたら困るからな……。だが、確認したけれど、良質な霊気は感じるが、悪魔が生まれてくることはなさそうだ。だから、見逃すことにしたんだ」
「い、いや、ちょっと待ってくれ。に、妊娠ってできるのか!?」
タナトスは私の方を見ながら訊いてくるが、私が知るわけない。
それにどのタイミングのが……て、きっと三日三晩のときのだろうな……。
つまり、私にとっては初めてであんなにもヤラれちゃったから、妊娠したのだろう。
うう、一生の不覚……って死んでるけど。
「そもそもお嬢ちゃんは、今は淫夢魔の身体を依り代にしているだろう? だから、美夢の身体がちゃんと生殖本能を持っているからな。そこに、性欲本能が強いタナトスとしちゃったとなれば、まあ、自ずと出来るのは時間の問題だったという気がしないでもない……。それにお嬢ちゃんも好きモノみたいで結構、身体重ねてたみたいだし」
「うわ! 天界にセックスまで監視されてるの!? 全然平和な恋人同士の営みじゃないわ、それは!」
「うう……。ならば俺も覚悟を決める時だな……。美琴と結婚するよ」
「……ありがとう! タナトス!」
私は前例のない過去をすべて覆して、死神と霊体(淫夢魔)で結婚することになった。
あれ? ところで、妊娠している子どもって……。
そういえば美鼓姉ちゃんがお腹の方に消えて行ったけれど………。
私はふと不安な気持ちになる……。
が、生まれるまで分からないから、今は考えることを止めにした。
1年後――――。
タナトスは業務に向かおうとする。
私は子どもを抱きながら、玄関までタナトスをお見送りしに出て来る。
「いってらっしゃい、タナトス」
と、私はキスをする。
んちゅ……くちゅちゅぱ………んふぅ………
「もう! 朝からエッチなキスして来る……」
「霊力が足りなくなってるんじゃないかと思ってな」
「足りてるわよ!」
生まれた子どもは美鼓姉ちゃんそっくりな美しい女の子だった。
まさか、高校生で子持ちになるとは思ってもいなかったけれどね……。
タナトスは、子どもをそっと撫でて、
「じゃあ、行ってくるよ、美鼓」
そう言うと、出て行った。
今、私は一人じゃない。
自分のことを大切に思ってくれる人が傍にいる。それに大事な家族も出来た。
けれど、これほどまでの残虐に家族全員の殺害を犯したうえで、全ての事件の犯人も分からずに、捕まることなく飄々と生きているアイツは、何だか間違っている、と私は思う。
だから私は、これからもアイツの残りの人生を一緒に生きてやろうと思う。
翔和とともにね――――。
【終幕】
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