第17話 対話

 友理奈は放課後、思い切ったことをしてきた。

 その日は、クラスメイトも早々と帰路につき、友理奈はその部屋で自習をしていた。

 友理奈はペンを置くと、席から立ち上がる。

 そして、振り向きざまにこういってきた———。


「ねえ、美琴ちゃん、そこにいるの?」


 きっと、私以外の誰かが、この友理奈を見かけたら、すぐにでも医務室に連れていきたくなったかもしれない。心のカウンセリングを受けさせたほうが良いかもしれない。


「分かっているんだよ。そこにいるの。ねえ、お話ししない?」


 私は突然のことでたじろいでしまう。

 だって、そりゃそうだろう。これまで私は自分を霊力の力で具現化しないと、生きている人々の前に姿を現すこともできなかったし、それに気づいてもらうということすら難しかった。

 それが何も見せていない状況で私に気づくなんて……。


「ね、ねえ、どうする? タナトス?」

「あの女はお前にとって有害な女なのか?」

「いいえ、むしろ高校入学してすぐにできたお友達って感じかな」

「そうか。お前にとって信用できる人間であるならば、今残っている霊力量で通信くらいはできるんじゃないのか?」

「あ、そっか。別に声さえ聞かせてあげれば本人は安心することが出来るか……」


 友理奈はというと、私からの返事がないものの、そこにいるんだという認識だけはあるみたいで、まだ私の方を見たままだ。

 まあ、やるしかない。

 私は念じて、友理奈の意識に糸電話を繋げるような意識を持つ。

 そうすることで繋がった者と話が出来るのである、


「……これで聞こえるかしら?」

「あっ! 美琴ちゃん!? 美琴ちゃんの声だ!!」


 友理奈は顔に一気に赤みを帯び、興奮したようにはしゃぐ。

 と、同時にボロボロと目から涙がこぼれ落ちる。


「ちょ、ちょっと……? どうしたの?」

「ご、ごめんね! わ、私さ、美琴ちゃんの声を聞けたのが嬉しすぎて……」

「そうだよね……。こうやって声だけでも話せるのは嬉しいかな……」

「私も美琴ちゃんがいなくなってから、色々と周りの環境が変わっちゃったよ」

「そうなんだ……」

「うん。美琴ちゃんが亡くなって最初のころは、また引き籠りみたいな感じになっちゃっていたんだけど、クラスの子たちがそんな私を昼ごはんに誘ってくれてね。そこからその子たちと趣味とか色々合うようになって、今じゃあ、本当に仲良くなれたよ」

「えー、なんか嫉妬しちゃうなぁ……」

「ええ!? そんなつもりじゃないんだよ!」

「分かってるって、冗談よ、冗談」

「もう! 姿や顔が分からないから、冗談通じないよ!」

「あ、そうなんだ」

「それよりも、どうして死んじゃったのさ! 交通事故なんて美琴ちゃんらしくないんだけど」


 何だ、その死亡原因に『らしくない』という言葉は……。


「……あはは、私、殺されちゃったのよ」

「あ、やっぱり?」

「……え?……」


 時々、友理奈は理解を超える発言をしてくることがある。

 私にはどうして、私が殺されたことが『やっぱり』なのだろうか?


「ちなみに犯人は神林さんじゃない?」


 友理奈はニヤリと笑いながら、私に言い放つ。

 私は「え…」という言葉を漏らし、そのまま無言になってしまう。


「ちょっと! 無言にならないでよ……! 私は姿が見えてないってさっきから言い続けているでしょ!」

「……あ、ゴメンゴメン! いきなり当たりを引いちゃったから……。でも、何でそう思ったの?」

「まあ、私、巫女の一族だからさ。そういう霊的なもの見えるのよ。て、それは置いておいて。神林さん、ずっと黒い気配が背後から立ち上っているのが見えていたからさぁ……」

「もしかして、夜蜘蛛の存在を知ってたの?」

「あ、あれって蜘蛛か何かの妖怪?」

「まあ、近いけれど、あれは使役霊ってやつみたい」

「ああ、それは私の専門だから分かるよ。で、その夜蜘蛛に殺されたの?」

「うん。そうなの……」

「まあ、私もまだ一人前じゃないから、それほどはっきりと見えるわけではないのよ。モヤモヤってした感じくらいしか見えないからなぁ……」

「そうなんだ……。まあ、私も―――」


 そう言おうとした瞬間に、私の頭の中にはタナトスとの熱い抱擁。濃厚なキス。そして、メス堕ち……と私の霊的な成長過程(!?)がすべて蘇る。

 いや、いらない! これ蘇らなくていいから、本当に―――!

 顔を赤らめてしまう。

 良かった。友理奈にははっきりとした姿が見えなくて……。

 見られていたら、私が何を思い出していたのかをすぐにサーチングしようとしてくるだろうから。


「私もどうかしたの?」

「死んでから色々あって、ようやくこうやって話をすることが出来るようになったからね」

「そうなんだ。美琴ちゃんもそっちで成長してるんだね。私も頑張らなきゃ!」

「まあ、私は友理奈には、自分の人生を幸せに過ごしてもらえるのが嬉しいかな」

「そうだけど、今、美琴ちゃんと一緒にいられることは嬉しいから、美琴ちゃんのために頑張りたいかな!」

「……ありがとう……。友理奈……」


 私はそっと友理奈を抱きしめる。

 きっと、彼女には分からないだろうけれど……。


「もう、感覚が掴めないんだから、抱きつかれても何だか損だよ!」

「え!? 抱きついたことも分かるの!?」

「だから、モヤモヤっとした感じでね。実態がないんだよね……」

「そっか……」


 何だかいい方法があれば良いのに……。

 私はそう頭を悩ませていると、タナトスが傍に寄ってきて、


「美琴、そろそろ時間だぞ」

「あ、そうなんだ。友理奈、そろそろお別れの時間なんだ。私の体内の霊力量が無くなりつつあるから」

「分かった! それは仕方ないね。でね、一つ、お願い聞いて欲しいの」

「ん? どうしたの?」

「私ね、直接美琴に会いたいの!」

「え? で、でも……」


 私がタナトスの方に向くと、タナトスは首を横に振る。


「そもそも霊体と生きている人間が、直接会うことは認められていない。霊体が生きている人間を殺害したり、連れて行くとかあったりするからな」

「だよねぇ……」

「でも、可能なはずだよ。私のお祖父ちゃんが昔、死者との通信を行ったのを知っている。それが何度か違う人間と……。ということはあれは、偶然ではないと思うの……」

「そうなの?」

「うん。でね、私、お祖父ちゃんにどうしてそんなことができるのか、訊いたことがあるの。そうしたら、お祖父ちゃんが新月の日にだけ可能なんだって。月の出ている日はあの世から監視されているからできないけれど、新月の日はその監視の目を潜り抜けることが出来るって」

「え!? そ、そんなことできるの!?」


 タナトスも深く考え込んでいることから言うと、表立った方法ではないのだろう。


「た、確かに天界のシステムは、太陽と月を利用した監視システムを導入しているんだが、確かに新月ならば誤魔化せることは可能かもしれない……」


 となれば、次の新月の夜に設定をするしかない。


「じゃあ、次の新月の夜に会うことにしましょう」

「分かった! じゃあ、楽しみにしておくわね!」


 友理奈は最高の笑顔で、私の方を見ながらそういうと、サムズアップしてくれた。

 それにしても、友理奈が巫女の血を引くものだったなんて……。

 私の周りに起こる現象って本当に色々とありすぎて、もう、驚けなくなってきちゃったなぁ……。





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