第16話 直感

 相沢美琴ちゃんがどんな子だったか?

 私、片岡友理奈にとって、高校で初めて仲良くしてくれた子。

 気さくに話しかけてくれた子。

 今、クラスメイトのみんなと仲良くできているのは、美琴ちゃんがいたからだ。

 うん。それ以外の理由が見当たらない。

 でも、あの日、私は美琴ちゃんが死んだことをしらなかった。

 翌日になって、私はスマートフォンのLINEのグループでクラスの子から連絡があって、初めて知った。


『昨日、美琴、交通事故で亡くなったんだって』

『え!?マジ?』

『翔和が一緒にいたらしいんだけど』

『ニュースでもやってたな。あれ、美琴だったの!?』

『駅前が騒然としてたのってそれだったんだ』

『今日、朝は緊急集会だってさ』

『そりゃそうよね。生徒が一人死んでるんだもんね』


 私はそのトーク画面を見つつ、脳細胞がフリーズしてしまった。

 昨日まで普通に話せていた子が突如、今日はいなくなっているってそんなことがあるだろうか。

 私はこれまでそんなことを経験したことはなかった。

 だからこそ、この現状が受け入れられるはずもなく、怖かった。

 いつしか、目じりからは大粒の涙が溢れ出してくる。


「友理奈、遅れるわよ———て、どうしたの!? そんなに泣いて……」

「美琴ちゃんが死んじゃった……」

「ええっ!? 美琴ってあなたが高校入学してすぐに仲良くなった子? どうして?」

「交通事故だって……」

「もしかして、昨日の夜のニュースでやってた駅前の?」

「うん。そうらしいの……。ねえ、どうしよう……。お母さん……」


 私は美琴ちゃんの喪失感から何もやりたい気力が沸き起こることはなかった。

 その日、お母さんが先生と相談して、私は結局休むことにした。

 今日は夜にはお通夜があり、明日には葬儀が営まれることになっていた。

 私は明日の葬儀まで、休むことにした。




 結局、葬儀には出られたものの、美琴ちゃんとの最後のお別れの時に、私は堪えられなくなってしまう。

 棺桶を摑みながら、わーわーと言いながら泣いた。

 その時、私は本当の意味で、美琴ちゃんとのお別れなんだと悟った。

 ただ、ひとつ不穏な気配を感じながら……。


「ねえねえ、神林さんって美琴の大親友なんでしょ? 何だか、話しかけにくいよね……」

「そうよねぇ……。今もあそこで一人になられているものね……」


 私はクラスメイトの会話を聞いて、神林さんの方を見る。

 彼女は顔を俯くようにしながら、葬儀場の入口あたりに立っていた。

 周囲から見れば、なんら可笑しくないもない。

 一般の人から見れば————。

 でも、私の目には違うものに見えた。

 神林さんの背後から立ち上るような黒い霞に対して、興味を持ち、目を凝らす。

 その霞は少しずつ膨れ上がり、蜘蛛のような形になる。

 な、何なの!? あれは……。

 とてもグロテスクな動きと闇の深そうなあの力は何……?

 私の家は、昔から神社を取り仕切る一族で、特に私の家は白蛇を祀る一族であった。

 だから、私も霊感は鋭いようで、嫌な予感がしたりすると、たいていは避けてきた。

 なにか、悪いことが災いとして降りかかると感じていたからこそ。

 その関係で、神林さんの黒い霞のようなものを見ることができたのかと思う。

 それ以来、私は神林さんの影を見張るようになってしまっていた。




 私は市が運営する霊園の中央の建物で線香を備える。

 それほど立派なものではないが、花束も用意してきた。

 私は美琴が亡くなった日には必ず月命日として、お参りにやって来る。

 お母さんはそこまでしなくてもいい、と言ってくれるものの、私は大事な友だからこそ、こうしてお参りしてあげたいのだ。

 美琴ちゃんにはご両親がいない。だから、埋葬されたのも共同墓地だった。

 壁にはズラリと名前が彫られたネームプレートが貼り付けられている。

 その中のひとつに『相沢美琴』の名前がある。

 私はお参りのあと、必ずそのネームプレートをそっと撫でて、墓地を後にする。

 はぁ……。


「会えることなら、もう一度会いたいよ……、美琴ちゃん」


 私はそんな無理難題な独り言をつぶやき、霊園をあとにした。




 美琴ちゃんが亡くなってからも、別に学校が無くなるわけでもなく、普通の日常はすぐに戻ってくる。

 私の高校生活は、美琴ちゃんという大きな存在がぽっかりと穴の開いた状態で、そのまま続くことになった。

 周囲のクラスメイトも私が美琴ちゃんと仲が良かったこともあってか、少しずつ初めての子たちも話しかけてくれるようになり、私は以前よりもクラスメイトとの付き合いが多くなってきたような気がする。

 それに最近、神林さん以外にも何だか、別の気配を感じるようになっていた。

 と、言っても危険が迫ってくるようなものには思えなかったので、私はそのままにしていた。

 けれども、明らかに何者かに見られているようなそんな気配であることは間違いなかった。

 私はある日の放課後、思い切ったことをしてみた。

 その日は、クラスメイトも早々と帰路につき、私は確認したいことをするべく、その部屋で自習をしていた。

 だって、その気配がずっとしているのだから。

 私はペンを置くと、席から立ち上がる。

 そして、振り向きざまにこういった———。


「ねえ、美琴ちゃん、そこにいるの?」


 きっと、私以外の誰かが、この私を見かけたら、すぐにでも医務室に連れていかれたかもしれない。心のカウンセリングを受けさせられたかもしれない。

 安心してほしい。私は至ってまともだと自負している。

 おかしければ、親も気づいていることだから……。


「分かっているんだよ。そこにいるの。ねえ、お話ししない?」




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