第3話 昇天
私がトラックに無残に轢き殺されてから、もう1か月が悠に過ぎた。
その間、特に何かあったわけではないが、私は常に翔和を見張るような生活をしていた。
学校のクラスメイトも少しずつ落ち着きを取り戻し、友理奈も私が亡くなったときに支えてくれた他のクラスメイトと仲良くなり、少しずついつもの柔らかい笑みを出せるようになって来ていた。
本当によかった。
友理奈は私にとって高校に入学して初めての友だちだったし、何かあるとすぐに私を頼ってくるような子だったから、私が亡くなった後、心を病んでしまうのではないかと不安になっていた。
「いつも通りの友理奈に戻りつつあるのは嬉しいな……」
私が友理奈を見下ろすように言うと、友理奈は私の方を振り返る。
え………!? み、見えてないよね………?
「どうしたの? 友理奈?」
「え? あ、うん。何でもないよ!」
クラスメイトに声を掛けられ、笑顔で友達の方に向き直る。
「もしかして、友理奈って霊感が強かったりする?」
「その可能性は否定できないな」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」
突如、私の後ろから声がして、心臓が飛び出しそうになる。
いや、死んでるんだけどね。
振り返ると、そこには執事服を召した銀髪の男性が立っていた。
身長は170センチほどはあるだろうか。私が見上げなくてはならないくらい大きい。
整った顔立ちで、そう、これはイケメン男子を口説き落としているハーレム系ゲームの攻略対象者に近い。
てか、カッコよすぎるでしょ!?
私は思わずイケメン男子の顔が近くて、恥ずかしくなり顔を真っ赤にしてしまう。
イケメン男子は私の顎を右手でクイッと軽く持ち上げられる。
ふえぇっ!?
「相沢美琴で間違いないかい?」
「あ、はい……♡」
し、しまった! 急にメス声出してしまっている自分がいる!?
恥ずかしいし、気持ち悪いぞ、私!
「俺の名前はタナトス……。お前を天界につれてくるように頼まれた。お前専属の執行人だ」
「へ?」
私は突如、夢のようなイケメン男子のイケボにメス堕ちしかけていたが、タナトスの言葉で現実に引き戻された。
「ちょっと待って!? 私をどこに連れて行くって?」
「ん? 天界だ……。だって、もうすぐ君が亡くなってから49日が経過するだろう? 私はその執行官……つまり死神と言ったところか」
あ、そうか!
この世との繋がりを絶たれる日が迫っていたのか!?
「て、何で仏教の考え方に死神が関係しているのよ!」
「あ~、それはお前たち人間が勝手に決めた話だろう? そもそも死者の世界に仏教もキリスト教もない。あるのは霊体とそれを次の世界に移送するというだけの話だ」
「あ、そうなんですか……。て、それは困るんですけど!」
「ん? どうしてだ?」
「いや、あの、私、アイツに……神林翔和に殺害されたんですけれど、その理由が分からなくて、それを知りたいんです……。それにどうしても翔和が許せないの……」
「
「あ、いえ、殺す気は無いです。むしろ、その逆で――」
「ほう。じゃあ、何がしたいんだ?」
「恐怖を味わいながら、ずっと私の本来あるべきだった人生分を翔和と一緒に生きたいの……」
タナトスは私の目をじっと見てくる。
私が嘘をついているとでも思っているのだろうか。
しばらくして、タナトスは私の頭を撫でて、
「死んだ衝撃で頭がおかしくなったのか? それは可哀想に……」
「慈悲なんていらないんだから! それに私の頭は至って正常よ!」
「いや、正常な女が怨恨で殺害した相手を呪い続けるとか……しかも、殺さずに生かし続けるとか粘着質の極みみたいな虐めは、普通誰もしないだろうが……」
「まあ、死神にとったらそうかもしれない。でも、私には大親友だったのよ……。そんな大親友に裏切られたんだもの……。少しはおかしくなるわ」
「……そうか。まあ、深い事情はおいおい訊くとして、美琴の言いたいことは分かった。じゃあ、それが終わるまでは
「え? あ、うん……。そんなことできるの?」
「まあ、俺は死神の中でもエリートだから、書類をちょちょいと書き換えればそういうことが不可能じゃないってこと。ただ、こちらのルールに従ってもらわないといけない」
ゴクリ……。死神の提案するルールって何よ。
まさか、魂を喰わせろとか……?
私の不安を他所に、私の目の前にブレスレットが差し出される。
「まずはこのブレスレットを付けてもらおうかな。このブレスレットは付けたもの同士がペアになって、相手に思念を送ることが出来る。それに身勝手な行動をした場合は、私の方から美琴の方に嫌がらせをすることができる」
「い、嫌がらせ?」
「うん。痛いこととかね」
「うえぇ……」
つまり、孫悟空の「
いや、むしろ思念まで送れるということはもっと悪質の様な気がしてならない。
「これを付けていれば、美琴は俺のものなんだから、他の死神は手を出せないよ」
「いや、俺のものって……。私、タナトスさんのモノになった気は無いんですけれど」
「うーん。つれないなぁ……。折角、これから運命を共有するというのに……」
すっと私の間合いに入ってきて、そのイケメンを私の目の前に……いや横を通り過ぎ、耳に息を吹きかけてくる。
「ふひゃぁ!? て、何するんですか!?」
私が慌てふためくのを見て、何が可笑しいのか分からないが、上品に笑うイケメン執事なタナトス。
こ、コイツ、もうすでに私を持て遊び始めている。
私はタナトスの手からブレスレットを奪い取ると、左手に着ける。
装着すると、私の腕のサイズにきゅっと縮まり、フオッとピンク色の光を放つ。
すると共鳴するようにタナトスのブレスレット(私のが子機だとすると、差し詰め、あれが親機ね……)も青白く光る。
「これで契約は受理されたね。めでたく、美琴は俺のものになったわけだ」
「いや、だから……。て、もういいです。言うだけ無駄な気がしてきた……」
「ふむ。良い心がけだね」
「ところで、早速、訊いてもいい?」
「答えられることならね」
「私が翔和に対して、何か気づかせるためには何が必要なの?」
「ん? ちょっと言っている意味が分からないなぁ……。もう少し詳しく言ってもらっていいかな?」
私は亡くなった日に、翔和の近くで渾身の力(怒り)で叫んだところ、超常現象が翔和に起こったことを説明した。
ただ、それ以降何をしようとしても、翔和は気づいてくれることすらなかったのだ。
ということは超常現象を発生させるためには、何かしらの発動条件があるということになる。
その説明を聞いたタナトスは、ニコリと微笑み、
「それは霊力が不足しているからだよ」
と、事もなげに教えてくれた。
霊力とは、何なんだ!?
「そもそも美琴の世界で言う超常現象と言うのは、霊体が現世に生きる人間との交流を行っていることを指しているのだろう? となると、それは霊的現象と言った方が良いと思う。俺らが起こした行動は人間からしたら、すべてが超常現象になるだろうからね……」
「そっか……。そう言われたら確かにそうよね」
「で、その霊的現象を発生させるためには、当然発動する霊体の霊力量によって起こる自称、そして伝わる度合いが大きく異なってくる」
「じゃ、私の今は霊力が不足しているってことなのね?」
「まあ、そういうことだな」
「じゃあ、その霊力ってどうやって私は手に入れれるの? どうやったら補充できるの?」
「まあ、自然に吸収するのを待っているのもありだけど……、手っ取り早い方法は死神からの【直接的接触】によって手に入れることだろうな……」
「ちょ、直接的接触!?」
な、何なの、それ!?
いや、つまり、死神との皮膚の接触ってことよね?
も、もしかして―――!? いや! 私、初めてもまだなんだけど!?
や、ヤバいよ……。考えるだけで心臓がドクドクと高鳴ってくる。
「あ、あの…それってキスとかですか?」
「まあ、それも接触方法のひとつだな」
うわぁ………。
私ってば、彼氏いない歴=年齢という隠れオタク少女だったわけよ。
告白も何度かあったけど、アニメとかゲームに出て来るイケメンの方が優しいし、煩わしくもないから、ずっと断ってきた。
で、今、目の前にいる理想的なイケメンの死神にキスをするということになるの!?
ど、どうしよう………。
でも、霊力を手に入れないと、翔和に気づかせることはできない!
ええい! こうなったら、勢いも大事よ! やってやるわよ!
「た、タナトスさん!」
「ん? どうした?」
「わ、私とキスをして、霊力を分けて頂戴!!」
私は人生で初めて、クソ恥ずかしいセリフで、死神に対してキスをお願いしてしまったのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――
作品をお読みいただきありがとうございます!
少しでもいいな、続きが読みたいな、と思っていただけたなら、ブクマよろしくお願いいたします。
評価もお待ちしております。
コメントやレビューを書いていただくと作者、泣いて喜びます!
―――――――――――――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます