第14話 回顧
私はすでにタナトスと共に過去に『回顧』している。
この『回顧』という技術は本当に面白い。
死神が所有している端末に、詳細な日付けデータを入力すると術者の霊力を使って、その場所に飛ぶことができるのである。
ただし、これは万能な技術ではなく、あくまでも術者の霊力次第ということだ。
だから、霊力保有量が不足していたら、それほど昔に戻ることもできないし、飛んだあとの滞在時間もそれほど多くない。
いわば、時間魔法のようなものなのだけれど、タナトスが上位死神であるからこそ使用できるようで、たとえば、翔和が先日まで使役していたような『夜蜘蛛』ならば当然ながら使うことはできない。
それに非力なサポートだと、時間の狭間に取り残されたりするなど、霊体そのものにも危険が及ぶ恐れのあるかなり危険なものらしい。
まあ、私の場合はサポートもタナトスが万全を期した状態でしてくれているし、霊力保有量に関しても、先日の……タナトスとのエッチで飛躍的にアップすることができたみたい……。
そりゃ、朝まで……5回もしちゃえば、それくらいの大幅なレベルアップも可能になるってものよね……。
いや、思い出すと本当に恥ずかしい……。それに実は私は指でイカされたあと、記憶が飛んだのよね……。
そのあとのことはタナトスから詳細に語られて、私は翌日の丸一日をアジトにしているラブホテルのベッドの上で悶絶していたのだ……。
そ、そりゃ、タナトスは沢渡裕也くんそっくりだから、私もちょ~~~~~~っぴり興奮しちゃったのは事実だけれど、意識が飛ぶほどまでヤッちゃうとは……。
いや、それに私が意識飛んでるのに、エッチを普通はしまくるか!?
エロ死神なタナトスにその辺を突っ込むと、「美琴の中が気持ちよかったから、つい……」と私が赤面してしまうことをさらりと言ってしまいやがった。
ニヤニヤしながら言っていたから、冗談なのか本気なのかすら分からない。
「……おい、美琴、何を考え事をしているんだ? お前の霊力を使っているのだから、時間を無駄にすることはできないぞ」
「あ、そうだった……。ごめんごめん!」
私はそんなエロ死神くんは今はそれはそれは凛々しいお顔で私に指示を出してくる。
「ほら、あそこが美琴の事故現場だ」
「あ、まだ私が生きてる」
「そうだ……。事故の起こる1分前の状態から見れるようにした。ただ、今から起こる事柄に一切の干渉は許されない。もしも、ここでお前が自分を助けた場合、整合性が取れなくなって、美琴の存在そのものが消えてしまう可能性が大きい」
「分かってる……。ここで起きることはすべて受け止めなきゃいけないってことでしょ? その気持ちの準備はあなたとエッチするよりも先に覚悟はできてたわよ」
「エッチの方は覚悟の割には、かなり攻めてたし、完全にメスになってたような気がするが……」
「思い出させなくていいから! そ、そんなこと言うならば、もうさせてあげないんだから!」
「あ、ごめん……。美琴はこれまでで最高の女だから……」
てか、どうしてコイツってこんな恥ずかしいことを事も無げに言えるのかしら……。
聞かされている私の身になれってーの!
「さあ、あと20秒だ……。お前と神林が横断歩道で待っているが、俺にしてみれば違和感の塊だな……」
タナトスは意味深なことを言い出すが、敢えて今は触れずに見ておこう。
私が自身どのようにして亡くなったのかを見れる機会なのだから……。
私とタナトスは交差点の中央に浮遊するようにしつつ、見下ろしている。
10、9、8、7、6、5、4———
残り3秒となる瞬間に私(本体)は腕時計を見る。
———2、1———!!
私は背中から強い力で弾き飛ばされ、大きく目を見開く!
瞬間に右側から走ってきた2トントラックに私は轢かれる。
と、同時に運悪く車体の下に引きずり込まれ、私は頭部と胴体が引き千切られ、急制動で止められたトラックの車体下部から私の首だけが転がり出てくる。
「……ううぉぇ……」
私はその現状に思わず嗚咽を漏らす。
転がり出てきた自分の頭部は生気を失った瞳が力なく開いたままになっている。
断面からは頭部に残された血液が垂れ流れている。
もっと酷いのは、車体下部に残された私の胴体だ。
胴体からは首の動脈からドクドクと血が流れ出て、血だまりができ始めている。
覚悟はしていた———。
自身の死を見ることに対する覚悟は———。
でも、私は悲鳴こそ上げないまでも、両瞳からは涙が溢れ出し、いつの間にか頬を伝っていた。
自分の死の瞬間を見るのって、こんなにも辛いことなんだ……。
私は息が弾み、抑えが利かなくなっていた。
タナトスは私の前に立ち塞がるようにして、私を抱きしめてくれた。
今見ていることを忘れることはできないし、なかったことにすることはできない。
だが、今、この瞬間だけ目を背けることくらい許してほしい。
私は少しの間呆けていたが、落ち着きを取り戻す。
「ごめんね。もう、大丈夫だから……」
私の下の方に広がる『回顧』の世界は警察が慌ただしく現場検証を進めている。
その場にいる翔和は当然、警察から事情聴取をされる人として話を訊かされている。
そんなシーンどうでもいい。
私にとっては、まずはどうやって殺されたかということ……。
「ねえ、タナトス。もう一度、殺されるシーンまで戻して。私、目の前で見てみたいの!」
私の力強い決断に対して、タナトスは無言で頷いて時間を指定し始める。
目の前の景色がぐらりと崩れた瞬間に、また、平穏な交差点に戻る。
私は生きていたころの私の目の前まで近づく。
たとえ、法律上は事故で処理されたとしても、きっとどこかに私を殺そうとした証拠があるはず。
そして、再びその瞬間は訪れる。
10、9、8、7、6、5、4———
残り3秒となる瞬間に私(本体)は腕時計を見る。
———2、1———!!
私は背中から強い力で弾き飛ばされ、大きく目を見開く!
瞬間に右側から走ってきた2トントラックに私は轢かれる。
「翔和が私に触れていない!?」
そう。私は今、目の前で起こった出来事に衝撃が走る。
翔和は私を突き飛ばしたりしていない。
それどころか、私の周囲にいた人は誰も私に触れていない。
しかし、私は何か強い衝撃に弾き飛ばされるように、車道に飛び出してしまっていた。
その後は見なくても分かる。
「タナトス、これって……?」
「僅かだが、霊力の痕跡に気づけたよ……」
「え……。てことは……」
「どうやら、神林は美琴に対して、直接手を下したのではなく、使役霊にさせたのかもしれない」
「使役霊ってことは……、『夜蜘蛛』!?」
「ああ、そういうことになるな……」
とはいえ、この間、夜蜘蛛に関しては、翔和から切り離して黒い塵となって消えたはずだ。
タナトスは嫌な予感がすると言い出し、現世に急いで戻ることにした。
タナトスの嫌な予感は的中した。
私たちが翔和の家に戻ると、翔和は再び禍々しい形の腕輪を左手に付けていた。
その腕輪は以前にも見覚えのあるものだった。
夜蜘蛛への霊力供給装置の役割を果たしている腕輪だ。
「やはりこの間、消したのは本体ではなかったというのだろうか……」
「え……。でも、この間に夜蜘蛛は消したはずじゃないの?」
「ああ、確かに切り離した……。手ごたえはあった。だが、あれは影の方だったのかもしれない……。いや、もしくは………」
タナトスは口元を押さえ、言い淀んでしまう。
「明らかに今、神林に憑いている夜蜘蛛のほうが強いと感じる……。となると、こちらが本体そのもの……か」
「じゃあ、前の方法は通じないってこと?」
「ああ、どうやら退魔師に一杯食わされたようだな。神林にも少しだけだが表情に余裕があるように感じる。アイツも知らされていなかったのかもしれないな……」
夜蜘蛛は2体いたってことか……。
じゃあ、ますます面倒なことになりそうじゃない。
翔和と夜蜘蛛と退魔師———。
この裏でいったいどんな取り引きが交わされているというの?
私は翔和の周囲に沸き起こる黒い霞を眺めつつ、その時は歯ぎしりをするしか他なかった。
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