第21話 新月

 ……ちゅぱ……くちゅ……れろ…ちゅぱ……


「……ねえ、もう、霊力の完全回復で来てると思うんだけどぉ……なぁっ♡」

「いや、まだ完璧じゃないと思うな……」

「……てか、毎回、キスの仕方が……ふぁ♡ エッチになってきているような気がするんだけど……んっ♡」


 いきなりイチャツキやがってと思われたかもしれないけれど、これは違う。

 断じて違う。

 私たちにとってはこれは儀式的な行事。

 決して、私はこれに乗じて自慰行為など行ってなどいないんだから!

 どうしても、エロ死神がキスをするときに私の敏感な部位を触ってくるのがいけないのだ。

 私はそれに抗おうと身体をひねったりするのだが、やはり相手は男性……しかも、私よりも背丈も大きいので、腕で優しく包まれるように抱きしめられるともう逃げられない。

 はい。私、メス堕ち確定でーす。

 もうね、このエロ死神の何が凄いって、ほんの短い付き合いしかしてないはずなのに、私の性感帯はすべて理解したらしいし、私の心の内を読めるのか、どういう言葉をどういうタイミングでかけたら喜ぶのかすら分かっていやがる。

 しかも、どこで学んできたのか、女性向けハーレム系ソシャゲ「True of LOVE ~私立薔薇園学園高等部~」の沢渡裕也くんのセリフと仕草を全てマスターしているという最強の存在。

 私はそんな男に抗うだけ無駄なんだよねぇ……。

 そ、それにこの間は……シちゃったしね………。

 ということで、最近の霊力補給はどう見ても、愛し合っている図ではなく、私が一方的に凌辱されている図にしか見えない状態なのだ……。

 エロゲーだったら、ここがひとつのヌきどころですよ……てな感じだ。

 え? もうちょっと女々しく喘げって? 嫌よ。どうせ、私はそういう対象には見てもらえないんだから……。

 と、まあ、そんなこんなしているうちに私への凌辱、もとい霊力補給が完了する。


「おおっ! 今日もたくさんたくさん!」

「まあ、たくさん注ぎ込んだからな!」

「だから、言葉に気を付けてよね!」

「いや、そのままだから、どう気をつければいいのか分からんのだが……」


 と、いうやり取りまでがテンプレのようなものだ。

 そして、今日は待ちに待った『新月』だ。

 いよいよ、友理奈の前に姿を見せつつ、話が出来る日だ。




 時計の針はちょうど0時を迎えようとしていた。

 私とタナトスは友理奈の家にお邪魔している。

 いつ見てもピンクを基調とした部屋のつくりには凄いとさえ感じさせてくれる。

 人形を集めることが好きで、今でも可愛い人形が部屋に飾られている。

 暦的にも日取りがよく、今日は土曜日ということで明日も休みなので、友理奈が遅くまで起きていても問題ない。

 友理奈はすでに部屋で待ってくれていた。


「あ? 美琴、来たのね?」


 やっぱり私の存在に気づくように振り返って、私がいる方向を見つつ声を掛けてくる。


「ねえ、本当に友理奈って凄くない?」

「まあな。これは本当に巫女だな……」

「じゃあ、時間もあれだから、早速始めるね」


 私が言うと、タナトスはコクリと頷く。

 私は『念糸』を友理奈の頭に差し込む。もちろん、痛みなど感じることはない。

 あとは私が念じることで、普通に会話をすることができる。


「お久しぶり。友理奈……」

「あ、美琴ちゃん! やっと話してくれたね。少し前から来てるのは気づいていたのよ」

「あはは……、さすがは巫女ね。私たちの存在に気付いているなんて」

「まだまだ半人前の巫女だけどね」


 巫女の一人前になると何ができるのだろうか。

 私は密かに考えてしまいそうになる。


「あのね。姿を見せるには暗闇でないと無理なの……。だから、部屋の灯りを消してもらえるかな……」

「うん。いいよ。確かに部屋の灯りが零れていたら、親も心配しちゃうからね」


 そう言って、友理奈はドア付近のスイッチを押して、部屋の灯りを消してくれる。

 さあ、ついにご対面ね………友理奈―――。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 私は美琴ちゃんに言われるがまま、部屋の灯りを消す。

 真っ暗闇の部屋を振り返ると、そこには————。

 ぼんやりと浮かび上がる光に包まれるようにたたずむ美琴ちゃんの姿があった。

 まるで蘇ってきたかのように、うっすらと光り輝く姿は、まるで霊的な存在であるかのような美しさすら感じた。


「ああ! 美琴ちゃん!」


 私は居ても立っても居られなくなり、美琴ちゃんに駆け寄って抱きしめようとする。

 が、その瞬間にするりと身体をすり抜けてしまった。


「あー、ごめんね。友理奈……。私、姿見で姿は出せても、そっちからは触れることができないのよ」

「なるほどねぇ……。そちらにはそちらの事情っていうのがあるのね」

「まあ、そういうことなの……。ちなみに、私から友理奈は触れるんだけどね」


 と、言って腕を引っ張ってあげる。


「うわっ! 私の意志に反して腕が引っ張られている! これって踏切とか池とかで引っ張られるようにしに追い込まれるやつと一緒ね……」

「あはは……。その言い方だと、私が悪霊みたいじゃない」

「まあ、美琴ちゃんは悪霊だとは思えないけれどね~」

「そういってもらえると嬉しいわ」

「ところで、さっきから美琴ちゃんの横にいるのは誰? あ、もしかして、あっちの世界で見つけた彼氏さんとか!?」

「えっ!? ち、違うよ! 死んでから彼氏なんて作れないわよ! 成仏するだけの日々なんだから……」

「怪しいなぁ~。結構イケメン……てか、この顔は美琴ちゃんが好きだったソシャゲの———」

「あああっ! 別に今、そんな話をする必要ないから。彼は死神のタナトス。私が成仏するまで見守ってくれる死神さんなの」

「へぇ~、死神は初めて見たかも……。よろしくね。タナトスさん」

「ああ、よろしく頼む」


 どうしてそこで流し目で友理奈に声かけてるのよ!

 やっぱり、タナトスはおっぱいが大きい方が好きなのかな……。

 何だろう、このムカムカは……。て、何でムカムカしてんのよ! 私は……。そもそも関係ないじゃない!


「で、今日は姿を見たいだけに呼び出したわけじゃないんでしょう?」

「そうよ。美琴ちゃん。私はね、本当のことを知りたいと思ったの。美琴ちゃんが突然、車道に飛び出して、事故に遭うなんておかしな話しじゃない? それに……まあ、これは美琴ちゃんの話を聞いてからにしようかな……」

「ん? どうかしたの?」

「少し、私も気になっていることがあったの。だけど、美琴ちゃんの話を聞かせてもらったら、ある程度のピースが埋まるかもしれないから」

「ふーん。なるほど……。じゃあ、私の死の真実を今から送るね……。目を閉じて、友理奈」


 私は『念糸』を使って、友理奈の脳内に『回顧』で見た映像が流れ込んでいく。

 映像を脳内で見終えた後の友理奈の反応は、まあ、一言でいうとゲンナリとしていた。


「よくもまあ、これを自分でも見ようと思ったわね……」

「だって、私だって誰に殺されたかすら知りたいもの」

「で、神林さんがやったって分かったのね?」

「え? さっきの映像だけで分かるの?」

「いや、だって、美琴ちゃん、神林さんから伸びる黒い影に押された瞬間に車道に、飛び出してるじゃないの。てことは、神林さん本人か、その意思に従うモノが美琴ちゃんを車道に突き飛ばしたってことになるじゃない」

「友理奈って本当に巫女さんなのね……」

「いや、逆に疑いすぎでしょ!? 私がそんなにフワフワしてた!?」

「あ、信じてないというよりも、巫女さんって神社にいる新年のアルバイトしか知らないから……」

「あれと一緒にしないで……。こっちは悪霊払いとかしている本物だから……」


 巫女に本物も偽物もいるんだという愚問をここで投げかけると、私たちそのものをお祓いされてしまうかもしれないと思って、私は何も突っ込まないでいた。


「最近、神林さんの近くから不穏な影が見え隠れしてて、ちょっと距離を置いていたのよね。まあ、もともと仲が良いわけじゃないから、バレてはいないみたいだけど……」

「まあ、それならば、その状態はそのまま続けたほうが良いと思うわ……。あれを本気にさせたら絶対に友理奈は殺される」

「それは分かってる。だから、私も部屋に追いかけていないの……。で、美琴ちゃんは成仏せずに何をしようと思っているの? まさか、彼氏とイチャラブ“性”活?」

「そんなわけないでしょ。私はどうしても翔和に殺される理由が分からないの。私が何かをしたって翔和は言ってるんだけれど、私自身は何をしたか覚えがないんだもの……。あとは、翔和が私を忘れないようにしてあげるの」

「まあ、日々霊的な嫌がらせをすれば、忘れられなくなるだろうね」

「そんな身も蓋もなく言わないでよ! 私はどちらにしても深刻な問題なんだから!」

「そう怒らないでよ。できる限り、私も協力してあげるからさ、美琴ちゃん」

「ありがとう! 助かるわ、友理奈!」


 手こそ取りあうことはできないけれど、友理奈は私に微笑みを返してくれる。

 私も両手を合わせて、感謝の念を送る。


「ところでもう少し時間はいけそうなの?」

「え? うん。まだ大丈夫だよ」

「じゃあ、もう少しの間話さない? 女子トーク」

「え? この私が? いやいやぁ、色男連れて歩いてるんだから、きっと何かあったんでしょ? どこまで行っちゃったのか、教えてもらうわよ!」

「ひぃっ!? 本気で止めて?」

「ん? 美琴と何をしたか言えばいいのか?」

「タナトスは黙ってて! これは私のプライバシーの問題なんだから!」

「うーん。そうやって隠すってことは怪しいなぁ……。徹底的に聞いてあげるんだからね。悲鳴を挙げても無駄よ。誰にも聞こえないんだから……」


 そりゃごもっともだ。

 私は言い逃れることなく、すべてを友理奈の前で白状させられることとなった。

 しかも、タナトスが余計なことを言いまくって、もはや私は針の筵状態になったのである。

 本当にトホホだよ……。




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作品をお読みいただきありがとうございます!

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