第20話 驚愕

 私はもう腰が立たなくなって、ベッドに横たわっている。

 いや、もうね……。すごかった。

 具体的な話はしないけれど、今の私の身体がそう伝えてきているのだから間違いない。

 私は今、ボーッとしている。

 それだけで察してほしい。

淫夢魔の美夢は多分、事が始まってすぐに憑依から出て消えたんだと思う。

 どうやら、それ相応に気持ちよかったのだろうか……。それとも久々に元カレとイチャイチャ出来てよかったのだろうか……。

 私はそんなことを思いながら、起こせない身体をタナトスに預けたままになる。

 こうしている間も私とタナトスの間には、契約による架け橋が出来上がっている関係で、霊力が流れ込んでいる……。

 いや、最近の話で言うと、霊力の共有がなされているということか……。

 何だか変な感じである。

 ついこの間まで、私はどこにでもいる隠れアニメオタクな女子高生だった。

 それが友人に殺害されることになって、本来であればそのまま成仏するであったはずが、タナトスというエロ死神に出会うことで、大きく人生が変わった。

 これまでとは違うものが見えるようになり、違うものと戦うようになった……。

 そして—————。

 私はチラリとタナトスの顔を見る。

 タナトスはここ数時間、目を覚ましてすらくれない。

 私って何だかすごくはしたない子としたんじゃないかしら……。

 し、しかも、私、美夢が最初から抜け出ていたってことは……、あ、あの大喜びしていたのは、私の意志………。

 私は凄く恥ずかしくなってしまい、両手で顔を覆ってしまう。

 お願い……あれは美夢がしたってことにしておいて……。

 て、無理か。美夢が怒ってきそう……。

 私は力なくゴロリと横に転がるようにタナトスから下りると、ちょうど目の前にタナトスの横顔がくる。

 天井を向くように目を閉じている姿を見て、私は息をのんだ。


「本当に整った顔よね……」


 私、この人のことどう思っているんだろう……。

 何だか、いつもいてるし、お互い信頼してこれていると思う。

 それは以前、出会ったころに比べると本当に変われたと思う。

 じゃあ、私は彼にとってどういう存在なんだろう。

 単なる成仏を待つ死者と同じなんだろうか……。

 それとも、前に私の前で一度言われた『奴隷』なんだろうか……。

 でも、そんな奴隷に助けられちゃダメだよ……死神さん。

 じゃあ、どうして私は彼を救いたいと思うのだろう……。


「……私は、彼のことが好き……」


 ふと言葉になって口から出てきたものに、私は改めて恥ずかしくなってしまう。

 私が死神に恋をしたってこと? いや、そんなことは………。


「……ないとは言い切れない……?」


 私は深く考えることは止めにした。

 私がタナトスのことを好きの対象として見ている。

 それだけでいいじゃないか。

 タナトスが私のことをどう思っていても……。私はそれでもいいのだから……。

 私は掛布団を自身に掛けると、そのまま眠ることにした。




 目を覚ますと、私は翡翠のような瞳と視線が交わり、思わず固まってしまう。

 顔を背けようにも、その瞬間にタナトスの手が私の頬を触れてくる。


「ちょ、ちょっと!?」


 そっとタナトスは私の唇に自分の唇を重ねてくる。

 きっと寝覚めのキスだったのだろう。

 私は何かと色々恥ずかしくなってしまう。

 そのあと、私は彼に回復した経緯を説明する。

 すると、タナトスは私の頭を撫でた。


「ありがとう……美琴……」

「え……!? いや、私は別にそんな……」

「そんなことはない……。そもそもあの淫夢魔も淫夢魔だ! わざわざ美琴の身体を乗っ取らなくても、自分の身体のまま吸い出すことくらいできたはずなのに!」

「ええっ!? そうだったの!?」

「ああ、そうだぞ。アイツ、上位魔族になるから、本体がそのままあるし、別に死んだわけではないからお前の霊体を借りる必要もない。そのまま行為を行えば、それだけで吸わせたわけだ」

「て、ことは……」

「ああ、単に俺のモノを美琴に飲ませようとした美夢の悪戯心ってところだろうな」


 あの淫夢魔めぇ……。

 私にあんなことさせておいてタダで済むと思うなよぉ!!


「体内に飲み込まれたんだけど、私の身体に悪影響は無いよね?」

「まあ、すでに何時間も経過しているんだろう? それで何も症状が出ていないということはあまり深く考えなくてもいいのかもしれないな……。俺があの毒にやられてからはかなりの速さで毒素が回ったくらいだからな……」

「じゃあ、あんまり気にしないでおくわ……」


 私はまたひとつ気にしつつ生活しなければならないことができたようだ……。


「とにかく、タナトスが無事で良かったわ。殺されちゃったら、私が野垂れ死にしちゃうもの」

「ま、俺はお前とさらなる強い結びつきを得たから、これからは霊力の共有がさらに効率的に出来るようになるから、殺されることはさらになくなるな」

「———————!?」


 さ、さらなる強い結びつき……。

 それって、つまり、あの……交わった結果ってことだよね……。

 私が顔を真っ赤にしていることなど気にも留めず、


「それに美琴の霊力保有量も莫大に増えたから、この間、女の子から提案された実態を見せながら話をすることも出来るようになったと思うぞ」

「本当!? じゃあ、本当に新月の夜に実現できるんだね!」

「ああ、方法はこれまで教えてきた方法と同じでいいし、たぶん、少ない霊力で出来るようにもなったから、より長く話せるな」

「そっか! それはありがたいことね!」

「そうだ。こうやって能力アップしたのは、俺とセ———」

「あー! 言わなくていいから! てか、絶対に言うな! それよりも、私の身体そのものが触れるレベルまでなればいいのになぁ……」

「まあ、向こうから触れることは難しいことかもしれないが、相手を触れることは可能にはなるぞ……。そのくらいの霊力保有量があれば……」

「そうなんだ! じゃあ、触れてあげられるんだね!」

「ああ。と、言っても、せいぜい頭を撫でるとかしかできない。握手しても相手は何も感じないからな……」


 それまた変なシステムではあるけれど、向こうからの干渉は無理ってことか……。


「あ、もしてかして、よく踏切で線路に引っ張り込まれるのって、地縛霊が怨念で力が増してて、そういうことするとか?」

「おおっ! 感がいいな! まさにその通りだ。とはいえ、美琴は生きてる人間をこっちの世界に引っ張り出したいとは思わないよな?」

「するわけないでしょ! 友理奈にはもっと楽しく生きてほしいもの!」

「それを聞いて安心した。じゃあ、今一度新月までに『姿見』が出来るようにしておいたほうが良いな。あれはだいぶ前にして以来、お前は使ってないだろう?」

「あー、確かにそういわれたらそうかも! 新月まではまだ2日あるから練習しておかないとね!」

「あと、そろそろ服着たほうが良いんじゃないか?」

「へぇっ!?」


 私は掛布団の中を覗く。

 そこには一糸まとわぬ私の身体とその視界に見切れてくるタナトスの身体……も全裸じゃない……。


「まあ、俺をもう一度抱きしめたいならいいぞ」

「いえ、また必要な時にそうさせてもらいます!」


 私はそう言い捨てると、ベッドから起きて普段の制服姿となった。

 まったく、私も悪かったけれど、隙あれば私の裸を見ようとしてくるんだから……。このエロ死神は……!

 本当に、私はコイツのことなんか好きなのかしら———?




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作品をお読みいただきありがとうございます!

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