第22話 蜘蛛
友理奈と一緒に話をした新月の日から2日が経過した。
確かに新月の日は天界の監視システムが甘いのか、私たちが起こした行為に対して、何もお咎めはなかった。
友理奈も普段の生活が再び始まった。
もちろん、私を翔和が殺したということ、さらにそれは翔和に憑りついている守護霊の夜蜘蛛によるものと話をしたわけだから、意識せずに生活するというのは難しことだろう。
何しろ、友理奈は巫女の力を引き継いでいるものだから、見えるわけだから……。
まあ、そうはいっても普段の生活を送りつつ、友理奈には良き協力者として、何か翔和の弱点の様なものが分かればいいのだけれど……。
私とタナトスは相変わらず翔和の近くを浮遊している。
ある程度の距離を置いておき、かつ殺気立ったりしなければ、夜蜘蛛は私たちに攻撃を仕掛けてこようとはしない。
無駄な力を使わないでおこうと考えているのだろうか。
それとも、一応、ヤツの中にも警戒する間合いの様なものがあって、それより中に入ってくるものに対しては攻撃を仕掛けてくるのかもしれない。
「何ともご都合主義な蜘蛛よねぇ……」
「そう言うな。ああ見えて、力だけは間違いなく強いんだからな」
「でも、本当に翔和にあれが憑いているのは問題よね。私たちが好きな時に霊的現象を引き起こせないんだもの」
「まあ、そうだな」
「いっそのこと、前みたいに切り離して駆除するってことはできないの?」
そう。以前、私とタナトスが『霊力の共有』が可能になった後、直接的接触をしている状況下で、タナトスの力を使えば、守護霊を使役者と切り離すことが出来たのだ。
それで一度目の夜蜘蛛との対決は何とか勝利を得たわけ。
使役者から切り離された夜蜘蛛は、砂のように崩れ落ちて藻屑のように消えて行った。
あれを再度行えば、切り離すことが可能かもしれない。
私のタナトスに対する提案は、その経験からであった。
しかし、タナトスは首を横に振り、
「それは無理だろうな……」
「え? 何でよ? 使役者と守護霊を切り離すことは、タナトスの新たな能力なんでしょう?」
「まあ、確かにあの能力は使うことが出来る。が、今の夜蜘蛛には無理だ」
「そうなの?」
「ああ、今の夜蜘蛛はそもそも以前のものに比べると、力が数段に上がっているのは見ての通りだ。それにこれまでの契約よりも強い結びつきが行われているようだな」
「てことは、やっぱりあの夜蜘蛛はオリジナルってことなのかな?」
「まあ、そう思って間違いないと思う」
「じゃあ、何かしらの方法で契約を断つという方法は難しいみたいね……」
「まあ、物理的にってなると近づくと以前にも増して攻撃力も増していやがるからな……」
「うーん。断てないのなら、存在そのものを消せればいいんだけどなぁ……」
存在そのものを消すにはどうしたらいいんだろう。
守護霊と言っても夜蜘蛛ってどちらかというと悪魔とか妖怪みたいな類のものにしか見えないんだよね……。
ああいう邪気をはらんだ黒き存在に対しては、僧侶とかが浄化魔法の白い光を放って、攻撃するってのが異世界ファンタジーでは定番中の定番。
ん―――? 浄化魔法?
「そっかー!」
「ん? どうかしたのか? 美琴」
「私、名案を閃いちゃったかも!」
「美琴の名案というのが若干不安を煽るものだが、聞くくらいは問題ないだろう……」
「私のこと、どれだけ信頼してないのよ……」
私はぷぅーと頬を膨らませる。
もう、教えてやんねーぞ!
「あのね。私が読んでいた異世界ファンタジーの小説ではね、ああいう妖怪の様な魔物に対しては、僧侶が浄化魔法で攻撃するというのがセオリーなのよ! つまり、相手そのものを浄化してしまえば、消すことが出来るんじゃないかしら!」
「浄化……。なるほどな……。夜蜘蛛は使役霊と言っても、容姿から言えば日本の古来から伝えられてきた妖怪の類と捉えられなくもないな」
「でしょ? だから、アイツそのものを浄化すればいいんじゃないかなって」
「一考の余地はありそうだな」
「でしょ?」
「で、その僧侶とやらはどこにいるんだ?」
「うーん……。私に知り合いにそういう人物はいないかなぁ……。僧侶っていうのは……」
「やはり、行き当たりばったりか……」
「もう! そうやってすぐに私のことをバカにする! 絶対にどこかにいるんだから!」
私はその場で地団太を踏んで、タナトスに対してアッカンベーをする。
どっかにいないかなぁ……。妖怪を浄化できるような人って……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
美琴ちゃん……、私ね、意識するなって言われてるけれど、ここまで近くにいると意識しないわけにはいかないよぉ……。
私、片岡友理奈の前の席は、先日の席替えで神林さんになった。
最初は黒い
しかも、この至近距離は私には霊気(妖気というべきなのかしら……)による寒気も感じるし、ぼんやりとしていた形が以前よりもくっきりと見えるような気がしないでもない。
そういえば、この間美琴ちゃんと出会った後から、街の中にいる浮遊霊などの類のものも見えるようになってきてしまった。
ああいう霊的なものへの接触を行うと、自身の霊感というか霊的な力もアップしてくるということなのだろうか。
それは私の力が上がってくるということだから良いことでもあるんだろうけれど、気持ち的には緊張感が半端なく高まってきているのも事実ではある。
何だか、あり得ないくらいに怖い―――。
あくまでも目を合わせないように……。
そうだ! 神林さんの前の黒板を見るように少し私が横にずれれば問題ない。
そっと私が前を見ようとすると、神林さんの靄がくっきりと形になり、私の前に現れる。
ぎょろりとしたその目玉が。
「――――――!?!?!?」
ん――――――――――――――――――っ!?!?!?
ちょっと待って!? 怖すぎでしょ!?
今、目が合った? 合ったよね? てか、怖すぎてちょっと漏らしちゃったかも!?
私はそのまま目を逸らすように、机に伏す。
「先生! 片岡さんが体調悪そうですー」
「あら、そうなの? じゃあ、保健室に行く?」
「あ、では保健室に少し行ってもいいですか?」
「構いませんよ。少し休みなさい。また、今日の内容はきちんと教えてあげますから」
「……ありがとうございます……」
私は保健室に向かうことにする。立ち上がった瞬間―――。
「先生、私が付いて行ってあげても構いませんか?」
と、神林さんが付き添いを立候補する。
な、何で!? 何でよりによって、神林さんなの!?
「あら、神林さん良いの?」
「はい」
いや、私は良くないです! もしかして、気づかれちゃってる?
私が夜蜘蛛の存在に気づいたことを気づいているのかしら……!?
神林さんは私の手をとり、そのまま保健室に連れて行ってくれることになった。
保健室に入ると、今日は保健の先生は休みらしく、同時にベッドも使われていなかった。
いやぁ……、他の子がいたほうが私としては安心できたんだけどなぁ……。
まあ、それよりも何かあったときに巻き込まれる子がいない方が良いと考えるべきか……。
どちらにしても、私は何も見ていないというスタンス……。
私はそっと保健室のベッドに横たわる。
と、なぜか神林さんはその横のパイプ椅子に座る。
「……あ、もう大丈夫だから、先に教室戻ってくれてもいいよ、神林さん」
「そう? でも、私は少し問題があるの……」
「問題?」
「ええ……。片岡さんって巫女の血を引いている家系なんですってね」
「まあ、ウチのお祖母ちゃんがね……。私にもその血は流れてるかもしれないけれど、そんな立派なこと何もできないよ……」
「そう。じゃあ、どうして私の使役霊を見ちゃったの?」
「え?」
あくまでもここでは白を切る!
でないと、私、殺されちゃうかもしれないじゃない!
「あら? 見えてなかったの? おかしいわね……。ウチの子が見たって教えてくれているんだけれど……」
「もう、何言ってるの? 神林さん、私は何のことを言っているのか分からないんだけど……」
私はアハハと乾いた笑いをする。
もう、バレているような気がしないでもない。
「そう。分かったわ。じゃあ、今のはなかったことにして……」
神林さんがそう言った瞬間―――。
神林さんの背中から黒いオーラをまとった甲殻物が私のいた場所を貫いていた。
私は間一髪、ベッドから転がり落ちる。むっちゃ痛いよぉ……。
「あれ? 見えてるじゃない?」
し、しまった――――――――――っ!?!?!?
でも、あんなのに串刺しされたら、普通の人間でも精気を吸い取られて、全身に脱力感が押し寄せるはずだ。
特に巫女の血を引く私にとったら、それ以上に痛みなども感じてしまう。
それはさすがに困る!
けど、同時にそれは神林さんの守護霊が見えていることを暴露することに繋がる。
悪いけど、自分の身体のほうが大事だから……。
「片岡さん……。やっぱり、巫女の力、持ってるんじゃないですか……?」
神林さんはベッド二台を隔てた向こう側でニヤリと私に意味深な笑みを浮かべて問うてきた。
私は刹那、自分の死を予感した―――。
これは本気でヤバイ、と。
―――――――――――――――――――――――――――――
作品をお読みいただきありがとうございます!
少しでもいいな、続きが読みたいな、と思っていただけたなら、ブクマよろしくお願いいたします。
評価もお待ちしております。
コメントやレビューを書いていただくと作者、泣いて喜びます!
―――――――――――――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます