第24話 媒体
私はうっすらと目を開ける。
突然、射し込んでくる光に私は眩しさを隠せない。
順応するには少し時間がかかるような光の強さにも思えた。
少しずつ目を大人しくさせていくと、そこには私が生前ハマっていた女性向けハーレム系ソシャゲ「True of LOVE ~私立薔薇園学園高等部~」の沢渡裕也くんが私の方を優しく見ている。
あ、そっか……。
ついに私、成仏しちゃったんだ……。
つまり、私の悲願であった翔和の一生を見続ける、ということは不可能になったわけか。
何だか、残念な気持ちが大きいけれど、友理奈が巫女として覚醒してくれたのだから、今後は翔和を抑え込むのは彼女にお役目をバトンパスするのもありかもしれない。
私はふと自分の身体を見ると、一糸まとわぬ姿で薄い一枚の白い布を掛布団のように纏っている。
て、何だか恥ずかしくない!?
まあ、別にもうすでに成仏しているのだから、どうでもいいか……、そんなこと。
小さいことなんか気にしていられないものね。
眩しい光と思っていた光も、時間が経てば優しい光に思えるようになり、そんな光に包まれて、成仏できるなんて本当に幸せなのかもしれない。
あんな残念な死に方をしていたにもかかわらず、こんな優しく旅立てせてくれるなんて、何だか嬉しくなってしまう……。
でも、最後に、裕也くんにキスをしたい―――。
「……ねえ、キスしてもいいかな……?」
目の前の沢渡裕也くんは、何も言わずにそのままコクリと頷く。
そして、私をそっと抱き寄せてくれ、そのまま二人の唇は重なり合う。
あぁ、幸せ……。
これで私、本当にこの世界からも消えちゃうんだ……。
ああ♡ 裕也くんったら、舌まで絡めてきて、エッチなキスして来るんだ……!
そう。こうやってキスしていると、何だか、身体の中にちょろちょろと流れ込んでくる……。
ああ、気持ちいい―――――ん?
ちょろちょろと流れ込んでくる……?
私は慌てて、唇を剥がすように離れる。
口の周りにはいやらしく唾液でべっとりだ。
目の前で不思議そうな顔をしている沢渡裕也くんに対して、私は声を掛ける。
「ねえ、私って成仏したの?」
すると、裕也くんは両手で私の頬を挟み込んだあと、最高の笑顔を私に向けつつ、
「いいや、成仏はしてないよ」
そう言って、再び、私の唇を塞がれた。
ちょ、ちょ、ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?
私、成仏したと思っていたんだけど、ああっ♡ 何だか激しく霊力が流れ込んでくる!
霊力が溢れちゃってるぅぅぅぅぅっ!!
ビクッ、ビクッ、ビクンッ!
私は小さく身体を震わせてそのまま硬直してしまう。
あー、イっちゃったわ………。
ようやく、タナトスのキスから解放された私はタナトスを憤慨した猫のように睨みつける。
「……どうして言ってくれないのよ!」
「いや、言う前に勝手に自分の世界に入って、キスしてきたのはどこの女だよ……」
「……あ、あれは……ほら、目の前に推しキャラがいて、成仏したと思ったらお別れのキスするじゃない!」
「おい、その感覚はお前だけだと思うぞ……。きっと、お前の友人の片岡だっけ? アイツに訊いてみろ……。ドン引きされるぞ」
うえぇぇぇ……。マジかよ……。
私がやった行為ってそこまで周囲が引いちゃえるレベルなのか!?
ちょっと、自重した方が良いのかもしれないなぁ……。
「でも、私、成仏してないってことは助かったってこと?」
「あ、形状崩壊はおさまった……と言っても、まあ成仏寸前まで行ったんだがな……」
「え? そうなの?」
「ああ、あの時、お前は霊力の使い過ぎによる形状崩壊が始まった。ものすごいスピードで砂になっていったよ。だから、俺が霊力の膜で美琴を丸ごと取り込んで、天界からの防御壁のようなものを作った。ただ、俺も天界の人間だから、形状崩壊そのものを食い止めることはできない。できたのは、その進行速度を遅らせるということだ……」
「じゃあ、ゆっくりとしたスピードで形状崩壊が徐々に進んでいたってことね?」
「ああ。つまり、お前の霊体を維持することは、あのままでは無理だったんだ」
「そうなんだ……。じゃあ、どうして今、こうやって私は維持していられるの?」
私は自分の四肢を確認する。
これまで通り、霊体で生活していたのとまったく何不自由ないような状態だ。
「それを実現するには別の媒体が必要になったんだ。まあ、簡単に言えば、器の交換という感じだな」
「え? でも、そうだとすると、私のために新しく別の媒体を用意してくれたってこと?」
「まあ、そういうことだ。都合よく相性の良さそうな別の媒体を見つけた後、お前の霊体の核ごと憑依させたんだ。すると、形状が美琴自身に変化していったというわけだ」
「そうなんだ! あ、でも、じゃあ、私の媒体になってくれた何かには悪いことをしたよね……」
「まあ、そうでもなかったぞ。この話を投げたら、媒体は喜んで提供してくれたくらいだからな……」
「そうなんだ……。変わった方もいるのね……」
「で、そのあと、霊力が空っぽだった器に霊力を3日間かけて注ぎ込んだんだよ……。俺も命がけだったんだぜ!」
「そ、そうなんだ! ありがとう、タナトス……。でも、さすがタナトスだね。私を抱きしめるだけでそんなに霊力を移すことが出来るなんて……」
「いや、3日間、エッチしまくったんだが……」
「え。」
私は今わかる。顔が引きつっていることを。
記憶のない間に3日間も、タナトスに好きなようにエッチされていただと!?
あのタナトスが私を貫いて、3日間も霊力を注ぎ込まれただなんて……。
思わず想像してしまい、私は目が泳ぎ、顔を真っ赤にしてしまう。
「最初はあまり反応がなかったんだが、2日目になると反応が出てきて、声も出すようになってきたんだよ。で、3日目にもなると、もうお互い獣だったな……。いやぁ、昨日の夜は忘れられない夜になったよ……」
「私は記憶にすらないから、忘れることすらできない夜になってしまったじゃないのよ!」
「ええっ!? 何で怒ってるの!? そのおかげで今のお前がいてられるというのに!?」
「そ、そうかもしれないけれど、どうして私を3日間も抱き続けられるのよ!? どういう精力しているの!?」
「……いや、普通に美琴の喘ぐ姿可愛かったし、し終えた後、そんなお前を見るとまた、シたくなっちゃって……」
「照れながら言うな! 私がもっと恥ずかしくなるでしょうが! あ、あと、さらっと可愛いとか言わないでよ……。そういうのズルいから……」
「あ、でも、溢れるくらい注いだ意味があったぜ!」
「言葉遣いに注意して!」
「ああ、すまないすまない。美琴のレベルが大きく上昇することに成功した!」
「え!? 本当!?」
タナトスがいうには、別の媒体に移したとはいえ、霊体の自己保存能力によって、これまでと同じ形状の身体を維持することが出来るようになった。
また、新たな媒体のおかげで、霊力をそれほど多く使わなくても、実態を相手に見せることが出来るようになった。
そして、最大の不安材料であった成仏に関しては、媒体が霊体よりも安定したものに変わったことで媒体そのものが破壊されない限り、行われなくなった。
「そっかぁ! じゃあ、これで心置きなく、これまで以上に行動することが出来るってことね!」
「ああ、そうだぞ……。まあ、たまに副反応が出たりするかもしれないが、それは出たときに俺でも対処できることだから安心しろ」
「え? 副反応があるの?」
まさか、熱が出たりとか、鈍い頭痛とかみたいなワクチン接種のようなものがあったりするのだろうか……。
私は心配するが、出たときのお楽しみと笑って冗談を言ってくる。
ということは、それくらいのレベルで耐えれるものなんだろうか……。
まあ、タナトスのニヤニヤと私をエロい目で見てくるのが不安材料ではあるけれど、まずはこうやって身体を手に入れれたのだから、良しとするか……。
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