第25話 再会
「……すごいわ……。本当にすごい……」
私は両手の平を見つめる。
これまでよりも鮮明に霊力が漲っていることがわかる。
「すごく溢れ出ている……」
「いや、美琴の股からはそういったものは漏れ出てはないぞ……」
バキィッ!!!
私はとにかく殴っておくことにする。
そんなもん溢れ出てくるわけないでしょ!
昨日の間に綺麗にお風呂入って、全部洗ったわ!
だ、だってヌメヌメして変な感触がずっと私の股からしていたのだから。
それだけで終われば良いのだけれど、話を全部聞いちゃったものだから、私は脳の思考が一時的に停止してしまう。
―――恥ずかしい。
―――三日三晩のエッチな行為。
―――しかも、三日目は私自ら淫れていただなんて。
私はあれ以来、タナトスときちんと目を合わせることができないでいる。
だって、私が淫れていたなんて、タナトスにとっては幻滅したんじゃないかしら。
そう思ってしまったから。
普段からはこんなガサツな私だけど、エッチに関してはせいぜい出版物で見たことがあるくらいしか経験値というものがない。
だから、ある意味清楚といって問題なかったはずだった。
でも、このエロ死神から出会って以来、その辺の知識は大幅に増えた。
まずは霊力補給のキス。これがどエロかった。
―――ファーストキスで舌入れられて、そのままイカされるなんてありえないでしょ……。
もう一段階ステップアップしたときに、愛撫されて気持ちよくなってしまった。
―――同時に複数の箇所を攻めて来るなんてズルい!
さらなるステップアップとしてついに、一つに交わった。
―――私ってば、サキュバスの力を借りたと言っても、あっさりと一つになっちゃったもんなぁ……。
そして、三日三晩のエッチ。
―――いや、もう私って単なる淫乱なメスなんじゃないからしら……。
そう思い始めて以来、そう言う女のことをどう思っているのか気になってしまい、私はタナトスと顔を合わせられないでいるのだ。
考え過ぎかなぁ……。
「何をそんなに怒っているんだ……。生理でも来たのか?」
「いや、もう一回殴ろうか? 死んでる私に生理があるわけないでしょ? おかげであの苦痛から解放されて最高の気分よ」
「そうか……。じゃあ、なんでイライラしている……?」
「べ、別にイライラしているわけなんじゃないんだけど……。そのタナトスは、エッチしていた私を見て、幻滅したりした?」
ええい! もう直球で訊いてやる!
タナトスは私の前で少し悩むような素振りをする。
え、やっぱり幻滅したんだろうか……。
「いや、お前とのエッチは何ていうか、特別な感じがする気が最近になってから思えるようになってきてな……。俺もお前としているとその萎えないというか……」
「……えええぇぇぇぇぇっ!?!?!?」
何だ、その告白は!?
私とのエッチが特別だと―――!?
いや、私の脳細胞よ、仕事してくれ。理解に追いついちゃくれてねぇ……。
「あ、あの……それは……」
「まあ、美琴とのエッチがこれまでで一番気持ちいいし、もっとしたいって気持ちにさせられちゃうんだよな!」
いや、そこ爽やかに言われても、リアクションに困るわ。
つまり、タナトスは別に私のことを幻滅したりしておらず、むしろ私とのエッチをもっとしたい、と。
いや、それはそれで色々と問題があるから私としては、ある意味で距離を取りたいとは思うけれど、幻滅されていないのであれば、まあ、いいか。
「あ、そうなんだ……。あはは……。でも、人前ではそんなこと絶対に言わないでね……。恥ずかしくて死にそうだから……」
「まあ、美琴はすでに死んでいるけどな……」
いや、そう言う意味じゃなくて、メタが崩壊するってことだよ!
コイツ、冗談で言ってるのか本気で言ってるのか理解できねーよ。
今日は新月の日。
つまり、前に友理奈に会ってからちょうど一か月が経った。
友理奈を助けてからも何度か「念糸」で会話をすることがあったが、直接会って話すのは、久々になる。
前回同様に日付が変わるころに友理奈の家に向かい、電気を消してもらう。
すると前回同様に青白い光で発光しているような感じで私の姿が浮かび上がる。
「久しぶりね! 友理奈」
「元気に復活出来ていて、安心したよ、美琴。それとタナトスさんもいつも美琴を見守ってくれてありがとう」
「まあ、これが俺の仕事だからな」
ん? 何だか違和感を感じたけど、ま、いっか。
私は咄嗟に、友理奈を抱きしめてしまう!
「本当に友理奈が死ななくて良かったよ~!」
「み、美琴ちゃん! そんな急に抱きしめないでよ! 痛いじゃない!」
「だって、友理奈が死んじゃったら、私、死にきれないよ」
「いやいや、美琴ちゃんは本当に死んでるんだから……。て、何で美琴ちゃんの身体を私が触れられているの!?」
「……ん? おおっ! 本当だ! 今までそんなことできなかったのに何で出来るようになってるの!?」
私がタナトスの方を見ると、タナトスは首を傾げつつ、
「これはあくまでも仮説なんだが、美琴が霊体から新たな媒体に核を移したことによって、その媒体による影響が出ているのかもしれない。だから、以前では霊体として触れることが出来なかった生きている人間に対しての接触も可能になったのかもしれない」
「でも、そうなった場合、新月である必要ってあるのかしら……」
「天界から監視されているという状況から言うと、その抜け道を通るならば、間違いなく新月を狙った方が良いに決まっている。ただ、一度どこかで実験はしてみたいとは思うがな……」
「まあ、見つかって怒られたら大変だから、積極的にはしない方が良いってことだね」
「そういうことだな」
「分かったわ。一応、新月の時くらいにしておく」
「月イチの女子会&報告会って感じで楽しみにしておくよ、私も」
ああ、なんて友理奈は良い子なんだろう……。
そう言えば、あんなことがあった後なのだから、友理奈の身に何か問題は起きていないのだろうか。
「ねえ、友理奈が覚醒していこう、何かあったりした?」
「うーん。私の身体の中には何も起こっていないっていうのが本当のところかな?」
「そうなんだ……。じゃあ、あれ以来何かが起こったということはないのね?」
「うん。ないかなぁ……。まあ、変わったと言えば神林さんかな」
「え? 翔和のやつ、また何かしでかしでかしたの?」
私がそう言うと、友理奈は頭を横に振り、
「むしろ、その逆って感じね。今日までは凄く大人しかったし、今、神林さん、私の前の席なんだけど、あれ以降、逆に私に対して怯えているって感じかな……」
「あれ? そうなんだ。何だか、翔和らしくないというか……」
「まあ、神林さんのことを、美琴ちゃんがどう思っているのかは知らないけれど、やぱり守護霊を失った後は、私のことを怖がっちゃうのかもしれないよね。だって、一応、私を殺そうとしたわけだし、私が何かを言えば、本人が真っ先に美琴ちゃんを殺したということもバレちゃうしね」
「てことは、今は様子見の段階って考えているのかもね」
「でも、このままで終わるとは思っていないでしょ? ならば、私たちも今の間にできることをしておいたほうが得策だと思うの」
「まあ、確かに片山殿の言うとおりだな。今の間に、二つ目の回顧をした方がいい」
「そうね。霊力も上がったんだから、攻められる可能性が低い今のほうがいいわね」
「じゃあさ、この部屋でやらない? 私もあれ以来色々と勉強しててね。結界も張れるようになったの。だから、私が美琴ちゃんの身を守るよ。その間に、その回顧っていうのをしたらどうかな?」
友理奈はあの日を境に変わったみたいだ。何より、積極的になっていた。
私はそんな友理奈に手を差し出す。
「こちらからも願ってもない助け船だわ! 友理奈、本当にありがとう!」
こうして、友理奈は私に手助けをしてくれることとなった。
本当は友理奈を巻き込みたくないとずっと思っていた。
でも、こうやって彼女も巫女としての力を取り戻すことが出来て、そして、徐々にその力を使いこなそうとしつつある。
私からの感謝の言葉を聞いて、彼女は満面の笑みを浮かべたのであった。
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