第1話 殺害
私、
何度目かのアラームを聞いて、スマートフォンの画面をチェックし、時間を見ていつも驚いてベッドから飛び起きる。
新体操の如くアクロバティックな動きで寝間着を脱ぎ捨て、下着、カッターシャツ、そして学校指定のブレザー、スカートを身にまとっていく。黒のロングソックスを履けば、高校に行くための戦闘服が完全に装備された状態となる。
昨晩の間に作り置いておいた弁当を冷蔵庫から取り出し、弁当袋に入れ、鞄の奥に入れる。
お茶はいつも通り、水出し。
これまたアルバイト先で廃棄寸前のものを店長が激安にしてくれる。
さすがに無料ということにはいかず、購入させられるが、9割引きという破格だから文句も言えない。
昼食類を一切合切、鞄の底に詰める。
時計を見て、さらに慌てて、棚から食パンを1枚取り出して、マーガリンとジャムを半々に雑に塗りたくり、半分に折りたたんでそのまま口に
冷蔵庫から牛乳の卸売りをしている親戚からいつも分けてもらっている紙パックの牛乳を鞄にヒョイと入れると、そのまま肩から下げ、ローファーを履く。
ドアを勢いよく開けて、駅に向かって陸上選手顔負けのスピードで駆け抜けていった。
これが私のモーニングルーティンだ。
いつも変わらぬ生活だった———。
あの日を迎えるまでは———。
予鈴のチャイムと同時に教室に駆け込む。
先生はまだ来ていない。つまり、セーフ!
「ふぅ! 今日も間に合った~!」
「美琴っていつもローファーでありえないスピードで走ってるよね~」
クラスメイトの片岡友理奈からいつものように額の汗を拭ってもらう。
友理奈とはここ私立千早学園高校に入学して初めて仲の良くなったクラスメイトの一人だ。ゆるふわっぽいショートで少し内巻きのくせっ毛のある感じ。まあ、良くも悪くも昭和のアイドルみたいなヘアスタイルだったりする。
私は息を弾ませながら、
「まぁね! その辺の陸上選手よりも速いから!」
「ホントそれ。陸上部の顧問がいつも職員室から見てるんだよねぇ~。そのうち、声掛けられんじゃないの?」
「あははは……。もう、声掛けられちゃってるよ」
「あ、やっぱり?」
「うん。インターハイに出場できるレベルで凄いんだってさ~」
「それマ? 入ればいいじゃん!」
「いや、そもそも自分でやりたいでもない競技に出るのも変だし、それに私はいつも遅刻しないようにするために走っているだけであって、陸上選手になりたくて走ってるわけではないのだよ!」
「まあ、どちらにしても変わってるわね」
「あ、
突如、話に割り込んできたのは黒のセミロング。少し冷めたような表情をしているのが
素っ気ない感じがするのは否めないけど、彼女なりに私のことを理解してくれている大親友と言ってもいい存在だ。
「美琴、また走ってきたの? そのうち、車に轢かれちゃうわよ?」
「あはは……。ごめん! これからはちゃんと気を付けるからさ!」
「もうこれで中学校の頃から含めると300回を優に超えてるわよ」
「翔和はいつも厳しいなぁ~」
「本当だね! でも、ずっと見て来たからこその優しさみたいなもんじゃないの?」
友理奈は腕組みをしながら、うんうんと頷きながら言ってくる。
私は上目遣いのような仕草で翔和を見つめる。
翔和は一瞬、頬を赤らめるが、視線を逸らし、
「あんたはいつもだらしないから私がきちんと面倒見てあげてるだけでしょ? 勘違いしないでよ」
「もう! ため息交じりに言わなくてもいいじゃないのよ! それとも、今のってツンデレ? ねえねえ?」
「どうして、あなたにツンデレなんかしなきゃいけないのよ……。するなら、好意のある異性の方にするわ」
「あら? 美琴、フラれちゃった?」
友理奈はなんだか楽しそうにこちらを見てニヤついてくる。
私はちょっとムキになりながら、「違うもん!」と言い返す。
まあ、ここまでが朝のテンプレだったりする。
同じことを繰り返す日々がこうも続いていると放課後までの時間が自然と流れていくようにも感じる。
放課後は部活に勤しむ生徒、委員会活動に精を出す生徒、そして私たちのように街に繰り出す生徒——-。
各々が各々のやりたいことに力を注いでいる。
私は教科書とノートを学校指定の鞄に放り込む。
前の方には翔和も同じように鞄に荷物を放り込んでいる。
「あ、翔和も今から帰るの?」
「ええ……そうよ。今日は部活動も休みなの」
「そうなんだ! じゃあ、ちょっと一緒に駅前に行かない? 私、欲しい本があるのよ!」
「どうせ、アニメか何かでしょ?」
「あー! アニメをバカにしちゃいけないんだよ! 日本の経済を———」
「はいはい。日本の経済を回しているんでしょ? 分かったから……。まあ、いいわ。やることないから、付き合ってあげる」
「やったー! 翔和と一緒に買い物とか久しぶりだよぉ~!」
私はこの時、あのようなことが起こるなんて一片ほども想像できなかった。
まさか、私の人生がたった16年で幕を閉じることになろうなんて———。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
暮れなずむ陽光が駅前のビル群の隙間から差し込む。
道路にはビルからの影ができていて、辺りは薄暗くなっている。
そこにはパトカーや救急車の赤色灯、交通整理をする警察官、そして騒ぎに駆け付けた群衆———。
私は目の前の凄惨な光景に身体を震わせていた。
目の前にはトラックに轢き殺され、頭と胴体が首から引き千切られた姿に変貌した大親友である相沢美琴の姿があった。
目からは涙が溢れ、気分は高揚していた。
どうして? 私が親友を殺害したのに———?
引き千切られた頭は私の方を向き、目を見開いたまま生気を失っている。
まるで私を睨みつけているようだ。
どうぞ、ご自由に………。
死人に口なし———。
それに私が殺したという証拠はない。
「あなたには分からなかったでしょうね……。どうして、私があなたを殺したのか……」
私は泣き崩れるように顔を両手で覆い隠し、その場に跪いて、身体を震わせながら、顔が歪むほど微笑んだ。
これでよろしいのですよね———?
私の心の中の問いかけに、何者かが私の中で応えてくれた……。
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