第27話 淫魔

「美琴ちゃん! 大丈夫!?」


 回顧から戻ってきた私に対して、友理奈は叫ぶように声を掛けてきた。

 私はそれほどまでに疲弊していたのかもしれない。

 3年前ともなると、回顧を行う力もかなり消費するということ。

 あと、やはり自身の母親が死ぬ瞬間を見せつけられたのは、精神的には厳しかった。

 私の殺され方よりも酷かった。痛かったと思うし、苦しかったと思う。

 私はあの母親の死を繰り返し、見た。何度も何度も何度も何度も………。

 そして、やはり翔和の夜蜘蛛が絡んでいることが分かった。

 突風が巻き起こったのも―――。

 帽子が飛んで行ったのも―――。

 お母さんがゴミ収集車に引っ張り込まれたのも―――。

 無人のゴミ収集車が作動したのも―――。

 そして、小型タンクローリーが突っ込んできたのも―――。

 すべてに夜蜘蛛が絡んでいた。

 それを突き止めるまで何度も繰り返し、お母さんの死を繰り返し見直した。

 繰り返し見直すことで霊力を消費したのもあるし、精神的にそれで疲弊していったのもあった。

 何度も耳を塞ごうと考えてしまった。

 だって、お母さんの悲鳴と私の絶叫が何度も私を攻めて来る。

 もう、止めたい、とさえ思った。

 それもあってか、私の霊力が明らかに無くなっていた。


「美琴ちゃん、透けてるよ!」

「…………え?」


 私は友理奈のその言葉に驚き、自分の身体を見てみる。

 明らかに手が透き通ってきている。


「タナトス、これって―――!」

、霊力の消費量が多すぎたってことだ……。とにかく、霊力の補充が必要だぞ……」

「……えっ!?……」


 さすがにここではまずい。だって、目の前には友理奈がいる。

 友理奈の目の前で、私がタナトスに濃厚な粘液交錯キスをして、私は堕ちていく姿など見せれるわけがない。


「じゃ、じゃあ、もうそろそろお暇しましょうよ!」

「いや、別にここでも構わないが」

「私が良くないのよ! あんな姿、友理奈に見られたくないわ!」

「……何がダメなのか分からないが、お前の言う通り、戻ってからにするとしよう」

「二人ともどうしたの? 何か相談事?」


 友理奈が心配して、話しかけてくれる。

 まさか、ここで霊力補給のためにキスをするとか言えるわけない。

 ここは冷静に対応しなくては……。


「今日は本当にありがとう。友理奈のおかげで安心して過去に戻ることが出来たわ」

「でも、きっと内容は酷いものだったんでしょう?」

「……うーん。分かる?」

「うん。何となくだけど、分かるかな……。だって親友だもの」

「そうね。これからも私を守ってね!」

「分かってる! そのためにはまだまだ巫女としてやらなきゃいけないけど、お祖父様に相談したら、すごく乗り気で応じてくれているの。跡取りが出来たって喜んでるもの」

「そうなんだ。じゃあ、これからはもっともっと強くなれるんだね」

「うん! だから、美琴ちゃんも頑張ってね、あの人と……」

「ふぇえ!? な、何言ってるの?」

「それはこっちのセリフだよ。女の子は恋をすると綺麗になるの。霊体であっても、何となくそういう乙女心の変化は分かるのよ……。確かにタナトスさんって美琴ちゃんが好きなゲームの推しキャラにそっくりだもんね……」

「バ、バカ言わないでよね!」

「私の見立ててでは、もうエッチまでは終えちゃってるわね」


 ビンゴ。

 私は絶句してしまう。その行為がイエスと答えているのが同義であるということは分かりつつも……。


「いやぁ、霊体でもエッチって出来るんだね。そのあたりは今度の『夜会』で聞かせてもらうわ」

「絶対に言わないから……。そんな恥ずかしい話……」

「さ、早く帰って! 霊力補給してもらうんでしょ?」


 私は顔を赤くしながら、コクリと頷いた。

 もう、友理奈ったらガールズトーク好きなんだから!




 私たちが寝床として使用しているホテルに、タナトスに抱かれるように戻ってきた。

 私はそのままベッドに横にされる。

 やっぱり身体は透けたままだ。


「……ねえ、タナトス、前と違って綻びないのは、本体が変わったせいかな……」


 私は透けている手を見つつそう言うと、タナトスは少し顔を紅潮させつつ、


「きっとそうだろうな……」


 とだけ答えてくれた。

 どうして、顔を赤くしているのだろう。

 ちなみに私も少しずつではあるけれど、私も息が弾んできている。

 何だか全身が熱っぽく、ドキドキと鼓動が高鳴り、身体の奥底が疼いている。

 私、どうしちゃったのかしら……。

 いつの間にか、汗が滲み出て、肌の曲線に沿って伝い落ちる。

 私はタナトスと目が合う。

 トゥクン――――。

 さらに気持ちよさが奥底からやってくる。

 何なの、これ!? 絶対におかしい!!

 タナトスはそのまま、私に覆いかぶさるようにキスをしてきた。

 そして、私の首筋の汗を舐める。


「だ、ダメだよ! 汚いって……」

「汚くない……。美琴のすべてが欲しい……」


 キュン♡

 ど、どうして下腹部が疼いちゃうのよ! こんなのおかしいでしょ!?

 私はいつから痴女になってしまったというのだろうか!?

 いや、そんな自覚がないから焦っているのだ。


「タナトス、こっちよ……」


 私はついにタナトスをベッドに引き込んでしまう。

 あれ!? 私、何してるの!?

 何で、自分から誘ってるのよ!!

 ちょ、ちょっと待って、この感覚どこかであったような気がする。

 キスは激しさを増し、霊力補給が行われていく。

 私は実態を少しずつ取り戻す。

 しかし、お互いはそれだけでは満足せずに―――、


「んぁあっ♡」


私は彼を迎え入れて、ひとつになった。




 あれから、幾度となく私はタナトスの霊力を吸い取った。吸い出した。

 私はホテルの大きな鏡で自分の顔を見る。

 蕩けるような瞳をした妖艶な女がそこにはいた。

 これが私―――――!?


「さあ、最後よぉ♡」

「……ううっ!!」


 タナトスは呻くように欲望を吐き出して、事を終える。

 身体の奥底に響く熱い衝撃に私は「うふふ」と恍惚な表情をタナトスに向ける。

 その時、私の下腹部がほのかにピンク色に光る。


「ん? 何かしら……」


 私は余韻に浸りつつ、下腹部を見てみると、そこには何やらハートの様な子宮の様な形状をした紋様が浮かんでいた。

何かしら……これは。

あれ、何か知ってる、これ。


「……これって淫紋とかいうヤツじゃないの!?」


 思わず私は叫んでしまう。

 ちょっと待って欲しい。私は霊体を失った後、代わりとなる媒体を得て、霊体を維持できるようになったと言われた。

 そして、身体そのものも安定感があり、霊力も以前よりも増した。

 私は賢者タイム中のタナトスに跨ったまま、


「ねえ、この身体について確認してもいいかしら? これって淫夢魔サキュバスのものだよね? 厳密に言うと、『美夢』の身体じゃない?」

「……え? ど、どうして……」

「そもそもセックスしたときに、以前に感じたのを同じ気持ちを味わったからよ」

「気持ちよかったとか?」

「ち、違うわよ! あんたを助けたときのことよ! あの感覚がしたの!」

『さすが、妾が気に入った女じゃな』

「あ、やっぱりいた」

『これ、妾をばい菌みたいに言うでない。妾も美琴が気づくまでずっと静かにしておくのはなかなか辛いものじゃったぞ』

「いや、だって、そもそも私に身体を渡して得なことなんて一つもないじゃない!」

『ふふふ。そう思うであろう? しかし、妾としては良いことがあるんじゃよ』

「何なのよ、それ?」

『妾はタナトスを助けるときに身体を重ねて気づいたのじゃ。やはりタナトスを好いておると……。しかし、タナトスは今はそなたのことで手いっぱいでの、妾の相手をしてはくれぬのじゃ……。だから、そなたに妾の身体を預けることで、いつでも合法的にタナトスを抱けるのじゃよ』


 いや、さらっと恐ろしい計画語ってんじゃないわよ。

 そもそも私がそんなエッチ狂いみたいにさせられてるようじゃない……。


「そんなの私がさせてあげなきゃ、意味ないじゃない!」

『ああ、霊力補給をキスで終わらせるということじゃな? それも問題ない。ただ、今宵の月はどのような月じゃ?』

「確か、満月よ」

『そうじゃ、満月の夜は淫夢魔サキュバスにとって、一番発情する日じゃ。月イチの発情時が必ずやってくるから、そなたの意思とは関係なくヤれるということじゃ』


 こ、コイツ、悪魔かよ! て、淫夢魔サキュバスって性欲の悪魔か……。

 じゃあ、私、毎月一度はタナトスと濃厚な夜を迎えないといけないということ!?


『別にそなたは寝ておっても構わん。そなたの霊体のコアが眠っておるときは、妾は自由に動けるようになるのでな……。それにほれ……』


 と美夢は言って、何やら念じ始めると、私の身体がヌルヌルと形状を変えて、美夢の身体に変化している。

 視力や聴力などの感覚器官は共有しているらしく、私の目下には、美夢の爆乳が飛び込んでくる。


『このように身体を入れ替えることも可能じゃ……。どうじゃ、この身体でシてみたいと思わぬか?』

「何だか、私のことを貧乳と罵られているようで無性に腹が立つんだけど……」


 そう言いつつも、わざわざ美夢がムニムニと自身のおっぱいを持ち上げたり揉んだりすると、その感覚が伝わってきて、何だかいやらしい気持ちになってしまう自分がいるのが悲しい……。


「と、とにかく、私が寝てるときに勝手にエッチなことをするのはなしよ……。あなたの身体だってことは分かってるけれど、さすがにエッチなことにハマるつもりはないから……」

『分かっておる。月イチに大いに淫れれば妾としては問題ない。きっとタナトスも好きものじゃからなぁ……』


 うん。それは知ってる。

 私の身体で気持ちよくなっているときに何度もできる精神力とそして活力を、この身体で味わったのだから……。

 とにかく、こうして私は美夢との共同生活が身体を介して行われるようになったのであった。




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作品をお読みいただきありがとうございます!

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