第35話 深層
今、美琴は俺の腕の中でぐったりとしたままだ。
眠っていると言われればそうかもしれない。
ただ、キスをしても霊力の共有ができなかった。それだけではなく、美琴の胸を揉んだり、つねったりしてみたが、反応がない。
本来であれば、可愛い声で鳴いてくれるのだが、その反応がないことから、どうやら、昏睡状態と考えていいようだ。
では、どのようにして救い出せばいいというのだ。
俺にとっては、訳の分からない状態としか言えない。
と、なれば救いを求めるしかない。
このような状況で相談ができる人間と言えば、アイツしかいないか………。
俺は美琴にとって縁のある人物に————。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私は美琴ちゃんのぐったりとした姿を見た瞬間にすべてを悟った。
血相を変えたタナトスが、夜になってから私の部屋に訪れ、美琴ちゃんの様子を見てほしいと願い出てきた。
もちろん、その様子から只ならぬ雰囲気を感じたのは事実だが、その時、私は初めて霊体というものに触ることが出来た。
本当に生きているものを触っているという感じではなかった。
「これはその……ヒュノプスという死神さんにされてしまったのね?」
「ああ、見た通り、昏睡状態に陥っているように見える。何か分かったりするか?」
「今、白蛇の力も使ってみているけれど………」
「このまま目が覚めなければ、明後日には美琴の魂は成仏することになるらしい……」
「……そんな……!」
「だが、本来はこのような存在は天界としても認められることではないからな……。本来であれば、このまま成仏させてやる方が正しいのかもしれない……」
「……それであなたはいいんですか?」
「ん? どういうことだ?」
「美琴ちゃんが本当にやりたいことをするために一緒になって協力し合って、ここまで来れたというのに、それなのに、このまま美琴ちゃんが成仏して、新たな世界に旅立ってしまっていいのですか、と訊いているのです!」
私は怒りのあまりに声を大きく出してしまった。
ついついという感じではあったが、それ以上に私はこのタナトスという死神が許せなかった。
最近、新月の夜会には、タナトスをお供に付けず、美琴ちゃんだけが私の部屋に来てくれることが多くなった。
自然と、話は女子会の様相となる。
ガールズトークと言えば、恋愛などの甘酸っぱい話なんかを中心にすることになる。
私には学校で色々とお声がかかることもあって、その辺の話をするけれど、美琴ちゃんにはそういった縁は当然ない。
したがって、美琴ちゃんが話すことと言えば、基本的には、目の前にいる死神のタナトスさんのことになる。
その時の美琴ちゃんの顔はいつも幸せそうな笑みを浮かべていた。
******
美琴ちゃんはリラックスした笑顔で私の方を見つつ、
「それでね、タナトスって本当にエロいのよ!」
「え? あの死神さん、硬派っぽいのに」
「見た目は良いところの貴族とか御曹司っぽいんだけれど、ベッドに入るともう全然変わっちゃうの」
「そ、それって獣!?」
「あー、そういわれたら獣っぽいかも……」
どうしてそんな男と一緒にベッドで寝れちゃうのかしら……。
「でも、彼と一緒にいないと私自身も消えちゃうんだよね……。私がこうやって友理奈と一緒に話ができるのも、霊力の共有っていって、彼から霊力をもらっているの」
「そうなんだ……。自分では回復とか無理なの?」
「うん。かなり時間がかかっちゃうし、それまでに霊力が消費されて、本当に成仏しちゃうから」
「それは困っちゃうね」
「でも、私に霊力を供給する方法がさぁ……」
「も、もしかして、大人な世界?」
「アハハハハ……、うん……。基本的にはキスをすることで霊力の共有ができるんだけどさぁ」
「き、キスするの!?」
「え? うん、そうだけど……。どうしてそんなに驚いちゃうの?」
「だって、タナトスさんって凄くイケメンじゃない? 美琴ちゃん、メンタル的に耐えられてるの……」
「……うぅ……。実はされるたびにメス堕ちしてりゅ……。最近はそのまま服脱がされちゃって、愛撫されてそのまま、ヤられちゃってる」
「———————!?」
美琴ちゃんって、もう完全に大人じゃない!?
死んでから、そっちのことを加速させれるって、何て恐ろしい子なんでしょう……。
「す、すでに経験済みなんだね……?」
私の問いに、美琴ちゃんは両手で顔を覆いながら、コクリと頷いた。
そんな乙女な美琴ちゃんを見せられちゃうと、私の方こそ恥ずかしくなっちゃうんだけど……。
「そ、その……気持ちいいの……?」
「えっとね、最初はやっぱり痛かったのよ? だ、だけどね、タナトスって凄く優しくしてくれるから、気持ちがフワフワとしちゃって、いつの間にか気持ち良くなってた♡」
何この幸せオーラ……。
まあ、ガールズトークってこういうものなのだとは、分かってはいるけれど、これは惚気だわ……。
でも、私の将来のためにもなるから、もう少し聞いておこうっと。
「それにね、私が霊体を失いかけたときなんか、彼は私を三日三晩抱いてくれて……」
「三日三晩!?」
単なる淫乱なメスじゃないですか!
美琴ちゃん!? あなた、どっちの世界に旅立とうとしているの!?
「私はほとんど記憶がないんだけれど、タナトスの話だと、3日目は、け、獣のように……」
「獣!?」
「それにタナトスのって大きいから……」
うん。これ、私の将来のための参考にならないわ……。
てか、私は確認したくなって、つい直球で訊いてしまった。
「美琴ちゃんってタナトスさんのことが好きなんでしょ?」
「……え!? そ、そうなのかな……。お互い、身体の相性はいいとは思っているんだけれど……」
「身体の相性って……。新婚夫婦の夜の営みかよ!」
「ちょ、ちょっと!? 友理奈! 夫婦じゃないって!」
美琴ちゃんは再び両手で顔を覆いながら、そっぽむいてしまった。
それを見て私は思った。
美琴ちゃん、実は今が一番幸せなんじゃないかって————。
******
私はタナトスさんの方に向き、眼力を込めつつ話し始める。
「美琴ちゃんは私の前では、あなたと一緒にいることを常に喜んでいましたよ。生前よりも幸せそうな顔で……。美琴ちゃんには今、支えてもらえる存在があるんです。それがタナトスさん、あなたなんです」
「……俺がか?」
「はい。あなたも美琴ちゃんと一緒に回顧をしてきたのなら、気づいていないんですか? 美琴ちゃんが常に一人だったということを。そして、さらに自分の愛されるものを次々と失っていく中で強がっていたことを……」
「—————!?」
「どうしてですか? どうしてそういうことに気づけないんですか? 美琴ちゃんははっきりと言ってましたよ。あなたのことが好きだ、と……。それなのに、あなたは美琴ちゃんを救ってあげたいと思わないんですか!」
「……俺は……」
「別に私にあなたの考えを言わなくても結構です。診断の結果が出ましたよ……。概ね、私の予想通りでした。美琴ちゃんはこれまでの回顧、そして神林さんからの暴露を受け止めきれなくなって、深層心理にある『深き闇の霊廟』に閉じこもっているものと考えられます」
「『深き闇の霊廟』とは、何なんだ……」
「私も直接見たことがあるわけではありませんが、まあ、簡単に言えば、心の引きこもり部屋みたいなものだと推測してもらえればいいか、と」
「そこに行って、美琴を救い出せばいいのか?」
「救い出せればね……。その場で、美琴ちゃんがすでに意思を失っていたら、もう救い出すことはできないと思うわ……。それでもやります?」
「やれることがあるのであれば、やってやる」
「分かったわ。じゃあ、私は協力してあげる。美琴ちゃんの『深き闇の霊廟』への誘導をしてあげる。私を連れて、美琴ちゃんと一緒に八伏山の稲荷神社まで移動することはできる?」
「分かった……」
私は美琴ちゃんを救うために、神様の力を借りることになった。
きっと、助けるからね、美琴ちゃん———!!
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