第8話 「雨塊を破らず(あめつちくれをやぶらず)」を目指し
「
「これは……」
「ああ。
「この絵はどうしたんだ?」
「今日、画院を訪れた時に、ふと、この絵のことを思い出して、そう言えば、昔、画院の倉庫に仕舞ったのではなかったかと。それで、探してみたら、やっぱりあった」
「誰が描いたんだ?」
「それは分からない。この絵は、
「まさか!
「いいや。さすがにそれはない。王女との縁談を持ち込まれたのは八年前だからな。
「なら、王女の血縁者か?」
「確か、俺のところに話が来たのは第三王女だったはずだから、その姉ってことは考えられるな。訳ありなことを考えると、その線が濃厚かもな。もしそうなら、これも頭が痛いな」
そう言って、
「そうだな。父親が誰かってことも気になるしな……」
「ああ」
「一つ良いか?」
「なんだ?」
「あれほどの美人と何で結婚しなかったんだ?」
「お前……」
「ん?」
「はぁー。……出来なかったんだよ。王女が流行病で亡くなったからな」
「そうだったのか……。すまない」
肩を落とした
「別に……、気にするな」
「……そう言えば、どうして
「うっ。それは……」
「なんだ?」
「
「ははーん。さては……」
流し目をして意味有りげに口角を上げた
「なっ! 絶対お前が今、考えたことは間違っているぞ! 断じて違う!」
「何も言ってないだろ?」
その態度に、
「んー。……ただ、結婚するかもしれなかった人に、偽物でもいいから会ってみたいと思っただけだ」
「分からないでもないけどな。権力者の特権をそんなことに使うなよ。
「仕方ないだろ、あの頃はまだ、天子の力は授かっていたかったんだから。自分では実体化出来なかったんだ。それに、あの頃は
「おいおい」
「まさか、
「はは。お前が手のひらを返したように、
「ふん。皇后が亡くなって落ち込んでいたところを、天女に励まされれば誰だって恋に落ちるさ」
「まあ、俺は
「そうだろうな。元々俺と皇后の間には恋なんてなかったから、お前が
「それでも、情はあっただろ」
「ああ。同士のように思っていたさ」
「そうか。皇后様は中々に勇ましい人だったものな」
「ああ。かっこいい人だった。息子達が年々彼女に似ていってくれているようで、心から良かったと思うよ」
「そうだな」
皇后、
だが、当時の皇帝であった、
皇后亡き今も
ちなみに、三公の他の役職である、
「陛下。
二人が、
「入れ」
「失礼します」
「
書類を持って入室した
「先日土砂崩れのあった
その分かっていたという態度の
「何か資金確保の案がおありですか?」
「ああ。他国へ我が国の工芸品として、絹織物と陶器を売ろうと思う」
「それは……」
「分かっている。今までは限られた商人からしか手に入らなかったために、他国での価値が高いということは。それを国が卸すということは、希少価値が減ると言いたいのだろう? そこでだ、今まで以上の一品を生み出して欲しい。それを国の専売としたい」
「また、無茶を」
「無茶ではない。特殊な顔料が発見されたと報告を受けている。それを使って、染め付けをおこなえば、今までにないものが出来ると踏んでいる」
「そんなに上手くいくかな……」
二人の会話に、
「あまり言いたくはないのですが、手っ取り早く資金を得るなら、塩の専売を行うか、後宮にしかるべき新たな妃を迎え入れ、援助を請うのがよろしいかと思います」
「分かっているさ。他の奴らもうるさいからな。だが、下手なものを後宮に入れて新たな火種になるのはごめんだ。それに塩の専売は民の反感を買ってしまう。生活必需品を専売にするのは愚策だ。
「なるほどな。それで、
「そうだ。上手くいけば、資金を得られ、
「そして、お前に新たな妃が出来る。一挙四得だな」
「妃はどうでも良い」
「どうでも良いはないだろ」
「と、いうわけで早急に準備してくれ」
「はっ!」
「やれやれ、『
「一週間もゆっくり出来たんだから、良かったじゃないか」と、
「一週間、し、か、だ! あんまり人使いが荒いと俺は隠居するからな!」
「分かった、分かった。この件が片付いたら、一ヶ月の休みをやるよ」
書類から顔を上げて、
「本当だな?」
「ああ。『
「言質は取ったからな! 約束破ったら絶交だからな」
「ぷっ。何だ、その子供みたいな言い草は」
「ふん!」
そんな二人の大人気ない、いつものやり取りを
一ヶ月の休みをもぎ取った
暫くして、部屋の外から声が掛かる。
「
「そうか」
「ご苦労」
「はっ!」
戸を閉め、席へと戻った
「ほう。これは……」
そう言って、
−−土砂崩れの件に関して、直接ご報告申し上げたきことがあり、陛下に
「と、来たもんだ。さてさて、
まるで悪巧みをする悪人のような顔をして、
「この顔は、愛しの
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※ 雨不破塊「雨塊を破らず(あめつちくれをやぶらず)」……降る雨が静かに土くれを壊すことなく地面にしみ込む意から、世の中が平穏でよく治まっているさまをたとえていう。[「塩鉄論」
言之易而行之難「之を言うは易く、之を行うは難し」……口で言うのは簡単だが、実行するのは難しい[「塩鉄論」
窮鼠齧狸「
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