第30話 大孝は終身父母を慕う
「筆の材料と玉は揃っている。残りは、麒麟の
その言葉を聞き、
「確か、霊亀の
「そこには、何と?」
「えー、当時の皇帝であった武帝に献上したと、そう書いてあったかと……」
「そうか。分かった。もしや、祖父ならば行方を知っているかもしれぬ。霊亀の
「後は、麒麟の
「麒麟は聖人や優れた君主の許に現れると古来より言われているが……。力不足ですまない」
「
項垂れる
「はい。私も、もう一度、調べてみます」
そう言った直後、ハッとしたような表情になった
それに答えるように、
「そう言えば、実家はどうなっているのでしょうか? 父や母は元気でいるのでしょうか?」
皆、彼の態度に納得する。
「確か、
「そうですか」
「皆、
「折角だが、俺は早く
それに、
「
「お心遣い感謝いたします。私も、両親の事が気に掛かりますので、これからそちらに向かおうと思います」
「そうか。では、明日。午後からで良いから、こちらに来るように」
「俺は
それにホッと息を吐いた
「畏まりました。
「ああ。今日は、ゆっくり休め」
「はい。失礼いたします」
* * *
一通り報告を終えた
中に入り、
「
呼ばれた
「
「
その言葉を聞いた
後からやって来た
「
「ああ。ただいま」
そして、真剣な顔で、「
「何?」
「あちらで話そうか」
二人に椅子を示し、着席すると、早速、本題を切り出す。
「
「えっ!?」
その様子に、驚くのも無理はないと思いながら、
「ずっと、
「そりゃ……」
「お前の父親には、まだお前のことを話していない。お前がどうしたいのかを優先させるつもりだ。お前が名乗り出たくなければ、そのまま他人として過ごす事も出来る。お前次第だ」
「そう……」
「
自分を思ってくれる
「
「そうか。分かった。明日、一緒に会いに行こう」
「うん」と、
「お前はどうでも良いと言ったが、会う前に、俺の方から分かる事だけ説明させて欲しい。その方が、会った時の混乱が少ないと思うからな」
「分かった」
「そうか、
「ああ」
「良かった」
「きっと、お前の父親は、お前のことを知ったら喜ぶだろう」
「そうだと良いな」
* * *
翌日、
「随分、早く来たな。午後からと言っていたが」
「家に居ても、
「そうか」
「邪魔になりそうなら、別の場所で時間を潰すが……」
「いや、大丈夫だ」
整理し終えた
着席すると、早速、
「
それに、「大体は」と、
「
「うん。俺、
「そうか。彼も
そう言いながら、
それに、
「ああ」
昨夜から緊張していた
目を輝かせ、
「さあ、召し上がれ」
「はい!」
「美味しい!」
ただ、微笑ましそうに見守る。
「そうか」
「ハハ。やっぱり、早めに来て正解だったな。
「あっ。そうかも……」
「折角会えた息子に元気が無いと、父親も悲しむだろう? しっかり食べて、元気な姿を見せてやれ」
「うん」
食事が済み、
「陛下」
「ええ。両親も不肖の息子の帰郷を喜んでくれました」
「そうか。良かったな」
「はい。ありがとうございます」
「早速だが、お前に会わせたい者が居て、な。……
初対面である筈の
「この者は、
「ニマの?」
「ああ。今年で十なると言う。お前の息子ではないか?」
「私の?」
「王女は、お前と別れて逃げた後、
「本当ですか?」
ニマが
その視線を受けて、
「ああ。昨年、流行病で残念ながら亡くなったそうだが」
「そう、ですか」
「ほら。お前と目元や鼻の形がそっくりじゃないか?」
その目から、一雫の涙が流れた。
「ああ、私に子供が……」
「ニマとの子が……」
「
「ああ。こんな私を
涙を流し、自分を見詰める
「
「そうか。そうか……。今までよく頑張った。生まれてくれてありがとう。生きていてくれてありがとう。
傍で見ていた、
親子は、暫しの間、抱擁し涙を流し続けた。
泣き止んで、少し落ち着いた
「これを……」
それを
「ありがとう。大切に保管してくれていたんだね」
「うん」
親子の話が一段落ついた頃を見計らって、
「この絵は、そなたが描いたのか?」
「ええ。亡くなった妻の絵です。ですが、何故こちらに?」
「妻というと、第二王女の方だったよな?」
疑問に思った
「はい。第二王女のニマです」
「この絵は、第三王女の肖像画として俺のところへ縁談の話と一緒に送られて来たのだが……」
「そうでしたか……。第三王女は元々身体が弱く、私もお会いしたことはありません。ただ、噂では妻も第三王女も生母の若い頃に生き写しのようによく似ていると言われていました」
「なるほどな。行方をくらました第二王女の肖像画をそのまま第三王女の絵として送って来るとは、王も大それたことをする」
そう言って、
だが、元々、
「この絵は、其方に授けよう」
そう言って、
「宜しいのですか?」
「ああ。画院の倉庫に仕舞っておくよりも、其方が持っている方がその絵も喜ぶであろう?」
「有り難うございます!」
「
「ああ」
「
豪華な衣装や装飾品を
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※ 「大孝終身慕父母(大孝は終身父母を慕う)」……本当の孝行者は、一生その父母を慕い、忘れることはない。
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