第28話 志は気の帥なり
「ここは……」
「ああ。牢のようなところだな。一部屋ごとに錠が付いてやがる」
「鍵はこいつの部屋にあったのか? どうする? 取りに戻るか?」
「いや。これで開けて行こう」
そう言って、
一番手前の部屋の鍵を開け、扉を開いた先に、探していた
「居た!」
突然扉が開き、目に飛び込んで来た人物に、
「
「無事だったか?」
「はい」
「それは良かった。ならば、行くぞ」
「
「誰だ?」
「鍛冶屋の
「それは、大変であったな。共に連れて行こう」
「ああ、有り難うございます……。あの、他の部屋も開けては貰えませんか? 同じ
「よし。分かった」
全ての部屋に、
全員が廊下に出たのを見計らって、
「この
その言葉を聞き、数人が直に自己弁護し始めた。
「俺達は、彼奴らに騙されただけだ。
「そうだ!
「こんなところに来なければ、彼奴らだって死ななかったのに……」
自分勝手な言い様に、
「はん。お前らは、自業自得だろう? 彼奴らだって自暴自棄になって勝手に死んだんだ。お前らも、ああなる前に助けが来て、良かったじゃねえか。この方々に感謝しろよ」
「随分と勝手な事を言ってくれる。だが、それが人と言うものか……」
−−事大か、それとも自らの都合の良い言葉を鵜呑みにして、そのように事を進めただけか……。しかし、人の事をとやかく言えない。天帝にひれ伏す俺も、この者達と五十歩百歩と言った所か……。
「『居は気を移す』という。もし、ここへ来てそのようになってしまったというのならば、次の場所では天帝に恥じぬ生き方をして欲しいものだ」
「では、皆付いて来い!」
皆、慌ててその後を追う。
丁度そこへ、
「
「出会した奴らも、伸しときましたよ」
武官達も、汗を拭いながらそう言った。
「そうか。ご苦労様。これで、この
「
「ああ。ここまで来れば、
「そうか。それじゃあ、悪いがお前達には、この者達を連れて、
「次の
「はい」
「なら、俺と一緒に
「分かりました」
「
「分かった」
「では、頼んだぞ」
「ああ。達者でな」
「お前も」
その横で、
「
「俺も。あんたに会えて良かったよ。お互い、その道を極めような!」
「ああ! もちろん!」
二人は笑顔で、握手を交わした。
「お前達! 何ものも『人の和に
歩き出した集団に、
こうして、
「
「そうか。だが、穏便には済まなかったようだな。衣が随分と血に塗れておる」
「はい。結局、手を汚すことになりました」
「この国の宰相が反逆を企てていると、この
「そうか」
「少々、他国の内政に干渉し過ぎてしまいました。天帝はお怒りになられるでしょうか?」
「どうであろう? それが、私利私欲の為ではなく
「そう、ですか……」
全く私利私欲が無いとは断言出来ない
更に、他にも心配事が有り、顔が曇る。
「ところで、王妃様はご無事でしょうか? 心配です」
僅かな
「儂の方から、宰相の企ては鳥を飛ばしてお報せしておこう」
「はい。お願いいたします」
「急いで戻らなければ、な。陛下が心配しているであろう」
「はい。ですが、
「そうか」
「それで、先程出発したばかりですので、もう少し
「それは、杞憂ではないか? お前も
「まぁ、そうですね」
「ならば、心配無用じゃ。直に発とう」
「では、そのように」
上空から
「随分、大胆に破壊したものだな」
「ええ。まぁ、私達も数日間檻に閉じ込められて、かなりの
上空の方には、雨雲が渦巻いている。
「
「ほう。出来ないこともない」
「では、お願いいたします。鍛冶場の炎は全て消してくれたとは思いますが、万が一、火事になっては、ここら一帯に燃え広がって、大惨事になることでしょう。幾ら敵国とは言え、戦とは無関係な者まで、犠牲になるようなことがあっては、天帝のお怒りを買うでしょうから」
砦一帯に雨が降り注ぐ。
「流石ですね。ありがとうございます、
「ほっほ。これ位お安い御用じゃ」
雲が晴れた丁度その時、朝日が昇り始めた。
「
「すっかり夜が明けましたね」
日が昇る方角へと進んでいた為、陽の光が目を刺した。
皆一様に手を
その隙間から、信じられない光景が目に入って来た。
「あれは!?」
「鳳凰……?」
「まさか!?」
鳳凰は一行の方へと向かって、飛翔しているようだった。
その距離が近付き、触れそうな距離で、上昇する。
そして、一行の上を旋回し始めた。
「ああ……」
鳳凰が一声啼くと、彼の手の中に柔らかな羽毛がヒラヒラと舞い落ちて来た。
彼は、それを
「天は、私に使命を果たせと仰せなのですね……」
再び顔を上げ、鳳凰を仰ぎ見る彼の頬を、一筋の雫が伝っていった。
我に返ると、いつの間にか鳳凰は飛び去っており、眼下に目を向ければ、都の傍まで来ていた。
「
「ああ!」
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※「志氣之帥也(志は気の帥なり)」……志は気力を従えるものである。
「居移氣(居は気を移す)」……住む場所や環境が人の気性を変える。
「天時不如地利。地利不如人和。(天の時は地の利に如かず。地の利は人の和に如かず。)」……天のもたらす好機は地勢の有利さには及ばない。地勢の有利さは人心の和合には及ばない。
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