第3話 天女の正体
「疲れた」
「そうだな」
二人の顔には、疲労が色濃く表れていた。
「
「そうさせてくれ。あの山を登る元気はもう無い」
「なら、食料の調達でもするか。携帯食も残り少ないからな」
「そうだな。さっき見てない家に少しでも残っていれば良いが……」
「それは、あまり期待しない方がいいな。
「まぁな」
「それよりも、この
「分かった」
山芋を数本掘った二人は、小川へ洗いに行き、ついでに水浴びをする。
「
「流石、野生児」
「おい。それは
「そんなことはないぞ? だが、
「わがまま言うなよ。もう日も沈みそうだし、そろそろ家の方へ戻ろう」
「そうだな。肉は街に戻るまで
二人は小ぢんまりした家のかまどを借り、火をおこし、芋と魚を焼いた。
それに持っていた塩をつけて食べる。
警戒して、調理後直に火は灰を掛け、消した。
それから、離れた別の家の馬小屋に移動し、
「腹が膨れたら眠くなって来た」
気の抜けた様子の
「ちょっと緊張感が足りないんじゃないか? もしかしたら、戻って来る村人がいるかもしれないからな。まだ警戒は解くなよ」
「分かっているさ。けど、先に寝させてもらってもいいか? もう目を開けているのが辛い」
「仕様が無いな。今日は、布団はいいのか?」
「山の中程寒くないから、大丈夫だ。
「そうか」
「じゃあ。頼んだ」
そう言って、
その夜、村に現れる者はなく、
——翌朝、二人は芋の残りを食べ、早々に村を後にした。
行きに付けていた目印を
そのお陰か、思ったよりも早く、昨日、天女を目撃した場所に辿り着いた。
泉に目を向けると、一人の少年が水を汲んでいた。
「なぁ、あの子供は
それに
「俺には、人間の子供に見えるな」
「だよな。あの村の子供か?」
「さあな」
「天女はあの子供が描いたと思うか?」
「見たところ他に人はいないみたいだしな。とりあえず、あの子供を見張るか」
「そうだな」
その場の変化は、直に訪れた。
「おい」
「ああ」
少年が桶に水を汲み終わり、運ぼうとしていた時だった。
三人の男達が、少年に
少年は必死に
「この
「いやだ! 離せ!」
「ぷぷっ。『大人しくしないと痛い目にあうぞ!』って、小悪党みたいな
「では、こちらも定番の
珍しく、
剣を構えようとした二人の
「クソっ! 覚えていろよ!」と、いう言葉を残して。
男達を追って、一つの
あまりの
「あはは。『覚えていろよ!』だって! 最後まで小悪党だったな?」
「ああ。定番の負け犬の遠吠えだな」
地面に座り込んだまま、身動き出来ずにいた少年は、おそらく二人は自分のことを助けてくれたのだろうと思い、
そして、二人に顔を向けて、とりあえず疑問に思ったことを尋ねることにした。
「あんた達は、誰だ?」
「俺は
「俺は、
「そうか。ところで
「知らないよ! 水を汲みに来たら、いきなり連れて行かれそうになったんだ」
「そうか。それは災難だったな。ところで、お前一人か?」
「どういう意味?」
警戒した
その様子を見て、
「おっと、逃げるなよ。俺達はこの国の役人だ。悪いようにはしないから、詳しく話を聞かせて欲しい」
「さっきの奴らが戻ってくると面倒だ。お前の家に案内してくれないか?」
「はぁ。分かったよ」
二人に
「こっちだよ」
「随分、森の中なんだな」
二里程(約一キロメートル)歩いたところで、
「ここだよ」
「ここか?」
「ただの洞穴じゃないか」
洞穴は、
物はほとんどなく、木の台、桶、器、布地、
「ご家族は?」
「いない。
「そうか……」
母親を失って、まだそんなに経っていない子供に、二人はそれ以上、掛ける言葉が見つからなかった。
いつもは軽口を叩く
それを見て、
ホッとして、今までの緊張が解けたのか、
有り難く受け取った
落ち着きを取り戻した
そこには、農村で暮らしていそうな、平凡な顔の女性の絵が描かれていた。
「あの絵はお前が描いたのか?」
その問いに、
「そうか。
「
「昨日の朝、泉にいた女性だよ」
「ああ。あれも死んだ
「本当か!? スゴい美人だったんだな、お前の母親」
「そうなのか?」
興奮気味に褒ほめる
「ここには、いつから住んでいるんだ?」
「分からないけど、たぶん生まれた時からずっとだと思う」
「お前は、幾つなんだ?」
「たぶん九歳」
「そうか。おそらくお前の母親は訳ありだな。よく今まで見つからなかったものだ……」
「そうだな。あんだけの美人だ、見つかったら人買いに
「そっか。それで母ちゃん、顔に泥を塗って、髪もぐしゃぐしゃにしていたのか……」
「母親の名前は分かるか?」
「
「
「そうなの?」
そんな
「
「なんで?」
「
「……俺はこれからどうなるんだ?」
「そうだな。この力は、
「……分かった」と。
「直に出発すると言いたいところだが、何かやり残したことはあるか?」
「
「そうか」
「
それを聞いた
「
「お前の思いは、きっと母親に届いているよ」
「それじゃあ、出発するか」
「あの、これを持って行ってもいい?」
「何だ? その棒は」と、すかさず
「これは、唯一、
そう言った
そんな
「他には何か言っていなかったか?」
「
「連理の梧桐の枝?」
「うん。これで絵を描くと、描いたものが浮き出て来るんだ!」
「もしや、これを使えば、誰でも
「いや、それはないだろう。天帝もそんなことは、仰っていなかったからな。たぶんだが、これを使うことによって、未熟な
「ほら、石を使って描いた壁画は、実体化されずにそのまま残っているだろう?」
「力を制御出来るようになれば、俺のようにただの石で描いても実体化出来るようになる。
「さあな。
「そう言われると、そうだな」と言って、
「悪い。待たせたな、
「ただし、人前でそれを使って絵を描いたら駄目だ。どうしてかは、分かるな?」
「うん。危険になるかもしれないからでしょ?」
「まぁ、そう言うことだ。詳しいことは、都に行ってから話すよ」
「分かった」
「それじゃあ、行きますか」
三人は最後にもう一度、壁画に目を向けたあと、洞穴を出て、馬を預けてある
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※ 唐では、資料によってばらつきがありますが、約320m、約453m、454m、441m、559.80mを一里としていたとか。
現在の中国では、500m。
日本では、約3.9km。
ちなみに、朝鮮では約400mに相当するそうです。
本作ではアバウトに約500mということにしています。
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