第10話 疑心暗鬼を生ず
朝になり、身支度を終えた
重い頭を抱え、
そして、
「
午後から執務室へ赴いた
話が進んで行くうちに、
そして、
その声は、地を
「陛下。勝手に話を進めないで下さいと、何度も、何度も、口を酸っぱくして申し上げておりますよね?」
「そう、だった、かも?」
主君の何とも情けない返答に、
「はぁ。いくら非公式の場だとは言え、言ってしまったことは取り返しがつきません。今回は何とかなりそうですし、何とかしますが、今後は、即断即決はお止め下さい」
「ああ」
「本当に分かっておられるのですか? あなたはいつも、いつも……」
その間、
それから数日後、
だが、その後一月が経っても、
これには
そんな時だった。
画院の方から、新しい顔料を加工して、染料と
早速、
「陛下。こちらが完成した新しい織物と陶器でございます。いかがでしょうか?」
「ほう。思っていた以上のものが出来たではないか。どちらも美しい。これは、権力者ならば誰しもが渇望するであろうよ。だが、そうなると別の心配が出て来たな……」
−−ただの
「制作者達には
「はっ!」
執務室に戻った、
「
「はっ。こちらに」
「
「はっ!」
この日、
「
「ああ。やはり、
「恐らくは。まさか、
「流石にそれは、考え過ぎだ。疑い出したら、切りがないぞ」
「分かっている。信頼関係を築くには、先ずは信用しなければいけないということは。だが、一度疑うと、全てが疑わしく思えてくる」
「そうだな。信用し過ぎて、身を滅ぼすわけにはいかないから、慎重にもなるよな」
「皇帝としての立場が、とてつもなく重くて、足下が
「それは、隣の花が赤く見えているだけだ。お前の立場も、俺の立ち位置も天帝が定められたものだ。逆らうことは許されない。ならば、それを全うするしかないだろう?」
「はぁ。そうだな。全て天帝の思し召しだと言って、逃げてしまおうか?」
「随分と弱気だな。だが、そんなことをしたら、それこそ天罰が下るだろうよ」
「だが、少しくらいなら許されるだろう? 天帝は
「まぁ、子の言うことならば、少しの
自分を思いやってくれる
「フッ。少し吐き出したら、すっきりしたよ。お前がいてくれて良かった」
「殊勝なことだな。明日、雨が降らなければ良いが……」
「全くだ。先程、
「分かった。……晴れると良いな」
「ああ」
二人は窓の外を見遣った。
* * *
−−出発の前夜、
「
「
「分かっているよ。
「そうかしら? 恐れ多いけれど、私にとっては兄のように大切なお方だから」
「はぁ。複雑だな」
「くすっ。実際、義兄になったわけだしね。でも、愛しているのは
「
そのまま、耳元で
「まあ、兄のように弟のように思っているのは俺も同じというか実際そうだし、手助けはするけどね。それに、
「そうなの?」
「ああ。
「ええ」
「
「本当かい?」
「ええ。教えれば直に吸収して、教えたこと以上の力を発揮する。飲み込みも応用力も天才的だわ」
「それはスゴいな。俺がいない間、
「実は私も少し不安になって、
「そうか。それなら安心だな」
「くすっ。
「それはそうさ。君が俺の全てだからね。君に何かあったら俺は生きてはいけないよ」
「それは私も同じだわ。危険なことはしないで」
「ああ。君も」
それが守ることの出来ない約束であることは、互いに分かっていた。
それでも、現実のものとなるように言霊を紡がずにはいられなかった。
「
「それは……」
「前に言っていたでしょう。この笛は私のようだと。本当は私が一緒に付いて行きたい。でも、それは無理でしょう? だから、私の代わりにこの笛を連れて行って欲しいの」
「
「お願いよ、
「はぁ。分かったよ。君には敵わないな」
有名な恋の歌に、
二人の情熱的な愛の調べは雲を
こうして、
* * *
−−出発の朝、まるで天も味方しているかのように、空は青く澄み渡り、雲一つ見当たらなかった。
「それでは出発!」
「はっ!」
更にそれを取り囲むように、五人が騎乗して荷馬車を守っている。
「
それに、
「ふん。それは、眠る前に済ませたさ」
「そうか」
「お前こそ、可愛い子供達に挨拶したのか?」
「はっ。するわけないだろう。あそこでは俺はずっと
「おっと、そうだった」
「まあ、顔は見て来たがな」
健やかに眠る息子達の顔を思い浮かべて、
「出来る限り早く戻れるように努力はしよう。……それから、お前もこれを持っていろ」
「なんだ? ……これは……」
「
「そうだな。まだあるか?」
「ああ。
「ふーん」
「なんだ?」
「いや、なんでも」
「言いたいことがあるなら、はっきり言え!」
「沢山の天女の絵を懐に忍ばせているなんて、随分な好色だなと思っただけだ」
「おーまーえーな! これは下心で持っているものじゃない。分かっているくせに、よくもそんなことが言えるな! そんなことを考えるお前の方が余っ程、好色だろ。
「おいおい、冗談に決まっているだろ!
「お二人とも、ほどほどにして下さいよ。沿道から、変な目で見られているんですけど……」
そう言って、荷車の右側を守っていた武官の
「ゴホン。それは悪かった」
「悪いな」
いつの間にか声が大きくなっていたことに気付き、二人はばつが悪そうに謝った。
「まだここは都だから良いですけど、馬上でただでさえ目立つんですから、気をつけて下さいよ」
その後は、元の隊列に戻り、
道行く人々は
「皇帝陛下の
その言葉には、「皇帝陛下は他国に
____________________________________
※ 雲を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます