〜泡沫夢幻〜
第9話 張県令の報告
「そうだな。先ずは、
「まっ、それが妥当だな。国境が重要な場所だとは言え、
そう言って、
−−先ずは、私が話を聞こう。いつでも、
さて、これでやって来るか、否か。
来るとして、
「クク、楽しみだ」
−−およそ十日後。
「
「お初にお目にかかります。
「
「はっ。土砂崩れのありました崖を調査いたしましたところ、地盤が緩んでいる様子もなく、また、街道の先にあった村の住人が一人も居なくなっていたため、故意に起こされたものだと判断いたしました」
「そうか。それで、どうした?」
「はっ。現在、村の住人がどこに消えたのか調査中ですが、無関係の者が村へ行くのを防ぐために、土砂はそのままにしてあります」
「ふーん」
「それで、今後、村の住人が戻らなかった場合、村をどうするかご相談したく、
「フッ。それならば書簡で済むであろう? 何か、他にあるのではないか?」
「ハハ、
「なんだ?」
「あの村は、元々鉱石を発掘する者達が住んでいた村でした。鉱石が採掘し尽くされた後は、林業を営み、細々と生計を立てていたようです。ですが、五年前、
「なるほどな……」
−−あの
「まだ調査中のため、ここからは推測になりますが、その残党が元の住人達を
「その推測が当たっているならば、村に人が戻ることはないであろうな」
推測が実際の事柄であろうことは、あの村を訪れた
「ところで、
「私は元々、
突然の話題転換に、一瞬片眉が上がったが、
「そうか。それで、
そう言いながらも、
その間、
「よし。
そう言って、
「
「ああ。ただし、正式な謁見ではなく、我が家でな」
「それは!?」
「ふふ、気に入ったよ、君。それに、正式な謁見だと、色々と手続きとか面倒だから、家に来てくれ。その時に、もっと詳しい話をさせてもらおう」
「はっ! 有り難き幸せ」
「早速で悪いが、今晩で良いかな?」
「もちろんにございます!」
そんな様子に満足して、「じゃあ今晩、
「はっ!」
「と、いうわけで、今晩家に来てくれ」
「何が、『と、いうわけで』だ。はぁ。まぁ、いつものことだがな」
毎度のことながら、
「
その様子で、
「ふむ。まだ、断定は出来ないが、
「そうだな。
「それにしても、五年前の
「そうだな。恐らく、今回の一件に関わっていそうだが……。まぁ、
「お前の勘は俺の勘と違って、外れることもあるから全ては信用出来ないが、今回は当たっていることを心の底から願うよ」
そう言って、
−−
「
「よし。行きますか」
門の前で、警備の兵に伝言を頼み、やって来た
「よく来てくれた。この方が、皇帝陛下だ」
「
「はっ! 御尊顔を拝する機会を賜り、恐悦至極に存じます。
「堅苦しい挨拶はそれくらいにして、食事にしよう」
「
「家主がこう言っているんだ、私のことはこの場では家主の兄として接してくれ」
「恐れ多いことながら、そのように努めます」
それから
「それにしても、随分書簡が届くのが早かったが、迂回してあの村まで行くのに半日はかかるんじゃないか? もしや、俺が教える前に、すでに土砂崩れのことを知っていたのか?」
食事が始まると同時に、
「いえ。お恥ずかしい話ですが、
「そんな道があったのか!? それは知らなかった」
「ええ。『
「だが、そなたはそこを通った。そして、惑ってはいない。ということは、ただの迷信ではないか?」
「そんな道があったなら、教えてもらいたかったよ」
「いえ、実はこの道は、
「なのに、
険のある
「お叱りはごもっともですが、私は彼らを避けることが出来るので、脅かすことはありません」
「どうやって?」
「あまり手の内を明かしたくはないのですが、痛くもない腹を探られるのは割に合いませんから、言います」
「私は少々、人よりも耳目鼻が良いんですよ。ですので、少し離れていてもその存在に気付いて避けることが出来ます」
それを聞いた二人は、間抜けにもぽかんとした表情を浮かべた。
「それはまた、便利だな」と、
「いいえ。良いことばかりではありません。耳元で普通に話されても、うるさく感じますし、汚い者の汚いものがはっきりと見え、臭い匂いも人一倍臭く感じます。鈍感な人が
「ハハハ。確かにそうだな。いやー、
「それで、相談というのは?」
場が和んだところで、
「村の住人が戻らなかった場合、村をどうするかご相談したいと申しておりましたが、戻りましても、
「ほう、それは面白いな」
「なるほどな。あそこに湖があれば、
「はい。その手前と、村の間が崖になっておりますので、そちらが沈む心配はありません。ですので、色々と手間も省けて、良いのではないかと」
「本当にちょうどいいな。説得する住人のいないうちにさっさと進めてしまおう。
「はっ! 有り難う存じます」
「あと、完全に沈めてしまう前に、村中を
「そうしていただけると、大変助かります」
「そうだ。一つだけ注告がある。知っていると思うが、そなたの前の
「証拠はないが、恐らく
「こちらから、
「そうですか……。では、私の方でも
「それは心強い」
「期待している」
二人は
それから、更に話が弾み、お酒の量を過ごした三人は、酔い潰れて、その場で朝まで過ごしたのだった。
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州牧……州の長官。
別駕……州の次官。
三公……太師(皇帝の師)、太傅(皇帝の守り役)、太保(皇帝の補佐)は名誉職。
御史台……官吏を監察する機関。
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