〜麟鳳亀竜〜
第26話 天性は猶お命のごとし
「俺はどのくらい眠っていた?」
「
牢の中は薄暗く、時間の感覚は曖昧になるが、
「そうか……。その間、何か変化はあったか?」
「ここには変化は無いが、城内はザワザワしているようだ」
「王が倒れたのだから、大騒ぎであろうな」
「ああ」
まだまだ知りたいことは山程あるが、この隙に逃げ出すべきかと、
そんな中、一人の男が牢にやって来た。
男は
「王妃様のご指示で参りました」
男は、前に王妃が王に突き飛ばされた時、駆け寄っていた官吏であった。
その顔を見て、信用に足ると
「あんたは?」
「私は王妃様の専属武官です。言付けをお伝えします」
男は名乗ることなく、用件を手早く済ませようとした。
檻の外にいる自分の傍に来るように、
それに応えて、彼らは男に近づき、耳を寄せた。
男は彼らにそっと
「『王は恐らく保たないだろう。もう数日、辛抱して欲しい。時が来たら、抜け出せるように計らう』とのことです」
「そうか」
「何か入り用なものはありますか?」
「大丈夫だ。食事の量は足りないが、そんな
「左様ですか。出来る限りは、配慮しましょう」
「ああ」
男はスッと気配を消し、あっという間に去って行った。
それから、彼らに与えられる食事の量は多少増え、待遇も良くなったように感じられた。
王妃からの言葉を信じることにした
−−六日が経った。
簡素な喪服を
「王の天命は尽きたわ。やはり、天は王の為さり様をお許しにはならなかったのよ」
王妃は、やはり夫を亡くし、辛いのであろう。
その顔には
だが、表向きは王妃としての職務を果たそうと、
「そう、ですか……」
その様子を見て、
「今、城内は荒れているわ。馬鹿な臣下が王の弔いだと言って戦をし、王太子の力を削ごうと画策しているけれど、そんなことはさせない。こんなことを頼めた義理ではないけれど、どうかこの国へ攻め込まないで。息子がきっとこの国を
王妃はそう言いながら、
「王妃様……」
「少ないけれど、これを持って行って」
彼女は、ずっしりと重みのある革袋を
「これは?」
「玉よ」
「玉!?」
「私が嫁入りした時に頂いたものなの。
数は少ないが、透明度の高い希少な
「このような貴重なものを……。王妃様の誠意は分かりました。戦にはならぬよう、最大限の努力はします」
「それには
突然、二人の会話に割り込む声がした。
「
「貴方は、もしや、
「左様です、王妃様。王太子様の婚礼振りですな」
「ええ。その節は、ありがとうございました。貴方が来て下さったなら、もう大丈夫ね」
彼女はそう言って、
そして、
「ありがとうございます、王妃様。どうか、お元気で」
「ええ、貴方も……」
二人は名残惜しそうにしながらも手を離し、笑顔で別れの挨拶をした。
そうして、
「どうか私も連れて行って下さい!」
「お主は!?」
男の顔を見た
「
「それは
「積もる話は後に。早くしないと牢番が戻って来ます」
「おお、そうじゃな」
「ありがとうございます」
「さっ、行くぞ」
無事に牢から脱出した
「
「どこへ?」
「この機に、少しでも戦の可能性を減らしたいので、
「おっ、そりゃ良いな。腕が鳴るぜ」
「おいおい、
「なーんだ」
「はぁ、残念がるなよ」
二人の遣り取りを見て、
「ほほ。取り敢えず、そこまで偵察に向かうかのう。場所は、何処じゃ?」
「国境を挟んで
「そうか。ここからだと、ちと距離があるのう」
「そうですね」
「時間が惜しい。
「
「ああ。ここに居る者は、皆、信用に足る者達であろう?」
「そうですね」
「それに、時代は移り変わって行く。この力も、いずれ
「
「
それでも、
「お前達、大丈夫か? この力は、
「はっ!」
「さあ、その背に
「では、出発するぞ。しっかりと
「うわ」
「こりゃー、すげーな!」
文官達は、必死にその背に
龍の翔る速度は想像以上に早く、
「あれかの?」
「ええ。恐らく」
「ならば、この辺りで一旦下ろすかのう?」
「はい」
全員が龍から下りると、
「龍が見られた可能性があるから、念の為、見つからないように六里程(三キロメートル程)移動するぞ」
「はっ!」
着いた場所は
「それで、
「そうですね……。
「王宮からの使者は、こちらには来ているのでしょうか?」
「どうでしょう?」
他の者達も思案する。
その様子を
「ここから
「何か他に良い案はあるか?」
何か言いたそうにしながらも、悩んだ様子の
「ん? 何だ? 遠慮せずに
「それならば、その案の、砦へと行く使者の役目を私にさせてはもらえませんか?」
「その理由を聞こうか?」
「はい! 私ならば、こちらにも顔馴染みがいるかもしれません。私が牢に入っていることは多くの官吏が知っています。その私が、この場に現れれば城で何かがあったことが直に分かります。王が亡くなったことも疑われることはないでしょう」
何とも判断し難く、
「うーむ。確かに、見ず知らずの我々が行くよりは怪しまれずにすむだろうか?」
「どうだろう? 牢に入っていた者がいきなり現れた方が怪しまれるかもしれないぞ?」
そう言った
「
「そうじゃのう。確かに、この中では
「そうですね。私達では、直に疑われてしまいそうですね」
「
「そうじゃのう。砦の様子がはっきりとは分からないから何とも言えないが、その案で上手くいけば、穏便にことが済みそうではあるのう。取り敢えず、それで進めてみてはどうかのう?」
強い眼差しで一同を見渡す。
皆はそれに応えるように、強く
「それでは、この案を詰めて行くぞ」
「はっ!」
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※ 「
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