第33話 最終話
龍が昇ったその日、
龍が昇天した日と、前皇帝、
その為、後に
葬儀から数日が経ったこの日、落ち着きを取り戻した
先ずは、
「二人を呼び出したのは、他でもない
続けて、
「父上の葬儀で遅くなってしまったが、二人の功績は讃えきれぬものだ。よって、先ずは二人を『
「大変光栄なことでございますが、私共は臣として、国の為に当然のことをしたまでです。褒美をいただくようなことではございません」
「そうか。その高潔な心は素晴らしく、賞賛に値するが、
「それはどういう?」
「其方が、国の為にとその身を捧げることを使命とするのを決して否定する訳ではないのだ。だが、天馬のように、其方達が思うがまま、自由に生きて良いのではと思ったのだ」
その飾らない言葉が、そのまま
「自由に?」
「ああ。『
「そうは言われましても、生まれてから今まで使命を果たすことしか考えておりませんでしたので、どうして良いやら……」
国を支える武官を多く輩出して来た名家で育った
その為、国への奉仕が存在意義であった。
困った表情を浮かべる親子に、
「それを考えながら、親子二人で力を合わせて生きていくのも悪くはないと思うが?」
「其方達は、
「そうですね。彼女はとても慈しみ深い方でしたから……」
「俺、この力を使って、もっと人々の役に立ちたい。この国だけでなく、母ちゃんの生まれた国やその他の国の人々の力になりたい」
「
「ああ。そのことは、俺も自分なりに考えた。この力は素晴らしい。龍の守りは、この国に取って掛け替えのないものだとは思う。だがそれと同時に、天帝のお力に頼るばかりでいいのかと。現に他の国は、この力が無くとも国として成り立っている。便利な力に依存しすぎるのは、元来持っている力を
「そうだな」
「それに、この力を隠そうとするから、他国がこの力を暴こうと
「皇帝陛下の御心のままに」
その様子に苦笑し、
「というわけだから、
「うん!」
「陛下。一つお願いがあります」
おずおずと
「何だ? 遠慮せず、言ってみろ」
「
「何かあったのか?」
「いえ。妻のニマの遺骨を出来るだけ早く都に移したいのです」
そして、彼の願いを叶えるべく、早速手配するように動き出す。
「そうか。それは早い方が良いな。そういうことなら、
「いえ。過分なご配慮を賜り、恐縮です」
「今度こそ、
「はい!」
数日後、
* * *
旅の一行は、
それから洞穴を目指し、山を登る。
辿り着いた洞穴に入った瞬間、
「あれは、
「そうだよ」
「そうか。ニマはあのような格好で過ごしていたのか……」
農婦のような格好の絵に、王女の面影は無く、
「ここだよ」
「そうか」
それを見ていた
二人は更に手を早めて、石を避ける。
全て避けきると、綺麗にミイラ化した遺体が全容を見せた。
「ニマ!」
その横で、
「
もらい泣きした護衛の二人は、気を遣って、洞穴の外へと出て行く。
その日は、そのまま洞穴で野営することとなった。
翌朝、遺体のミイラを丁重に布に包んだ
* * *
彼が居なくなった
「
「そうだな。だが、これで気兼ねなく
「もう!」
その結果、
−−一ヶ月後、
「陛下。お陰様で、無事に妻を伴い帰郷することが出来ました」
「そうか。それは良かった」
長旅の疲れを感じさせず、憑き物が取れたかのように
「陛下。
「ああ。無事に修復が終わったところだ」
「それでは、壁にはどなたかが絵を?」
「いや。白壁のままだが……、何故そんなことを聞く?」
「誠に恐れ多いことながら、壁に龍を描かせてはいただけないでしょうか?」
「何故だ?」
「
「ほう」
「それに、私は画家として自分の力を試したい。
「陛下。俺からもお願いいたします。俺も父と一緒で画家として、祖先も父も超える龍を描きたい。どうか、御許し下さい」
そう言って、
「そうか。ならば、叶えねば、な。要望に応えると言ったのは俺だから、約束は果たそう」
「有り難き幸せ!」
二人は数年かけて一体ずつ龍を描いたが、
その為、
こうして、改修された
その後、
だが、残りの人生の大半を、絵を描きながら世界各国を巡り歩くことに費やした二人は、そのようなことは、些末なことと考えるようになったであろう。
「我が治世は、画竜点睛を欠く。統治が完全なものとなることは未来永劫無いであろう。我は貪欲だからな。だが、その完璧を目指そうと足掻く、不完全さこそが生気に満ちていて、とても尊いものであるとは思わんか?」と。
龍に守られし国、
その生まれに囚われず、優秀な者を抜擢、重用し、名臣を多く従え、様々な政策を大成させた皇帝、
そして、陰日向と彼を支えていた兄弟の
また、先に亡くなっていた彼の妻である
これは、前例のない異例の事であったと言う。
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※
最後までお読み下さり、本当に有り難うございます。
本編は、これで完結です。
もう一話、「蛇足」を載せる予定ですので、それをもって完結表示といたします。
そちらも、お読みいただければ幸いです。
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