第23話 麒煉の追憶
「
−−俺は……皇帝になった今でも、何て無力なんだ……。
父上も同じように悩んでいたのだろうか……。
そういえば、退位を宣言した時の父上は、随分とすっきりした顔をしていた気がするな……。
無理もない、父上は執務の場でも後宮でも、殆ど休まることなどなかったであろうから……。
きっと、
今は、
皇后は、嫁いで数ヶ月が経つと、病を理由に
そして、それを機に多くの官吏達が自身の娘や親類の娘達を後宮へと送り込んで来た。
その為、束ねる者がいなくなった後宮は、それまで以上に荒れるようになった。
この頃、
ただ、自身と娘の身を守ることに一杯一杯で、何とか日々を遣り過ごしていた。
尚、他の妃達は子を生んでおらず、後ろ盾の地位も
それ以外の時間に、女達が口や腹から血を流し、亡くなろうとも、見向きもしなかった。
信頼していた女官に貰った茶菓を
乳母は一命を取り留めたが失明し、幼かった乳兄弟は命を落とした。
信頼していた女官に裏切られ、尚且つ、本当の兄弟同然だった乳兄弟を亡くし、失明した乳母は後宮を去ることとなり、
この事件を発端に、
そのおかげで、
そんな環境で、腐らずにいられたのは、母や姉、そして
そうやって、
ちなみに、
それによって、
姉が降嫁したことによって、
−−そういえば、数日前に、「何を仰いますか! 臣が君を支えるのは当然のこと。
「臣として、お役に立つことが出来、身に余る光栄です。ですから、そのようなお顔はなさらないで下さい」と言って、彼女は毒に苦しみながら、自分ではなく俺の心配をしていたな。
俺は、彼女や乳兄弟の払った代償に、ちゃんと報いることが出来ているだろうか?
思い浮かべた昔の彼女の面影からは、何も答えは返って来なかった。
目を開けた
「……それにしても、『臣』、か……。
−−
当時は、
そんな
あの時、慈悲深く慰めてくれた
その時の姿を思い浮かべ、
−−
だが、この
困った
そこで、
皇帝である
だが、
もちろん、
それと、
−−結婚式での二人は、本当に幸せそうで、
だから、余計に今回のことでも二人に負担をかけてしまい、申し訳なさで一杯になる。
「
「陛下……」
過去に思いを馳せていた
独り言に
「い、何時から居たんだ?」
「ほんの少し前です。気付いておられなかったのですか?」
「いや、何でも無い。今言ったことは忘れてくれ」
「はっ!」
堅苦しい返答をする
−−
そう言って、笑いながら呆れていた
彼女とは元々、武芸の朋友であった。
その場に度々同行した男装の
それもあって、元々さっぱりした気性であった彼女は、
片思いしていた
その判断は、間違いではなかった。
彼女は、二人も皇子を生み、後宮を住み良い場所に変え、軍部にも多大な貢献をしたのだから。
−−後にも先にも、俺に
「
「陛下。恐れながら、それは陛下の勘違いでございます」
「勘違い?」
「はい。これでは亡くなった
「どういうことだ?」
「
「だが、
「恐れ多いことながら、
その三年後に生まれた
ちなみに、
そして、乳兄弟であった姉は同じような武官の家に嫁に行った後、子を生み育てていた。
だが、
「そうだったのか……」
「はい。
不意に、顔を歪めた
「……
−−そうであった。君の「
まるで、「愛している」という代わりに言っているかのようだった。
私は、それに今まで気付けなかった。
なんて鈍感な男か。
「
−−
俺達は、似た者夫婦であったのか……。
それは、
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※ 落花情あれども流水意無し……落花は流水を慕うが、川の水はそ知らぬ顔で流れてゆく。一方には情があるのに相手には通じないことのたとえ。
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