第7話 殷鑑(いんかん)遠からず
元々画院は、
だが、今は画家だけではなく、書法家、彫刻家、陶芸や染織、
「画院では、この国の誇る最高技術を持った芸術家達が
「へー」
「先程も言ったが、
興奮気味の
「大丈夫。分かってる」
「皆、ご苦労。忙しいところ、手を止めさせて悪いが、新しく画院に入る者を紹介したい」
「この者は、『
「フゥ、
生まれて初めて、大勢に注目された
それに
「それでは、皆、元の作業に戻ってくれ」
「陛下! 前にお話しさせていただいていた顔料、大分いい感じになりましたよ!」
「そうか! 今、見ることは出来るか?」
「構いませんが、他の方にはまだ、ご遠慮いただきたいのですが……」
そう言って男は、言葉尻を濁す。
「分かった。
「ああ。いいぞ」
「
「はい」
その直ぐ後、今度は画院を取り仕切っている、
「
「何でしょうか?」
「申し訳ありませんが、こちらまでお運びいただけますか?」
「
「大丈夫だ。行っておいで」
「
「俺では役不足だが、案内するよ」
書法、彫刻、工芸の部屋を案内し、絵画の部屋へと戻って来たところで、今度は
「
「すまないが、ここを離れるわけにはいかないんだ」
「そうですか」
「
「しかしな……」
「直に済みますので、お願いします!」
「はぁ、分かったよ。悪いな、
「うん」
一人になった
「うわっ」
すると、何かに
「フッ。ざまーみろ」
意地悪そうな顔をした青年が、少し後ろの方で椅子に座ったまま、
どうやら、
「大丈夫かい?」
今度は優しそうな顔をした別の青年が、
「うん」
「ごめんね。あいつ、ずっと
「
「ああ。あと、僕もその一人だから」
そう言って、
「何、するんだよ!」
転んで、
「なあ、お前。どうやって
「その技をぜひ教えてくれよ」
「それとも、従兄弟だから特別扱いされただけか?」
「くすくす」
顔を真っ赤にした
「あんた達。ここで何を学んでいるの? 見たところ、俺より絵が下手みたいだけど? 俺の方が上手いから、弟子にしてもらえたんじゃないか?」
「何だって?」
「生意気だな」
「こいつ!」
一人が
「やめろ!
「
「許しを請うのは、俺じゃないだろう?」
「あっ、どうか許してくれ。この通りだ!」
「俺は別に、気にしてないよ。
「ハハハ。
「まぁ、君達の顔を見ていると、まだ納得出来ないみたいだから、
「俺はいいけど、道具は?」
「そこの君、君が使っている物を貸してくれ」
「お言葉ですが、この道具は私の命と同じです。他人には貸したくありません」
「まぁ、その気持ちは分かるが、君がこの中で一番、
「くっ」
「その君と全く同じ道具を使って描くことで、君との実力を比べるのに一番良いと思ったのだが、もしかして、
「クソっ。使えば良いだろ! それで描いてみれば良い」
「そうか。じゃあ、遠慮なく借りるよ。
「何か? 何でも良いの?」
「俺の道具を使うんだから、俺から指定しても良いか?」
青年は
「いいよ」
「
「じゃあ。陛下を描いてくれ」
「それは
「そうです」
「分かった」
そのため、青年が凄すさまじい
「出来た!」
「はぁー、
だが、道具を貸した青年は、
思わず
手を
「クソ! お前に! お前なんかに、俺の気持ちは分からない!」
相手が激昂したため、逆に落ち着いた
「ああ、分からないよ。俺はお前じゃないからな。お前だって、俺の気持ちが分からないだろう? そんなの当たり前のことだ。分かるわけがない。それでも分かって欲しいと思うなら、口に出して伝えるしかない。そうだろう? 黙っていて分かってもらおうなんて、図々しいんじゃないか? お前、随分偉いんだな?」
「くそっ! 俺だって、上手になるために沢山努力して来た。寝る間も惜しんで描いて来た。それでも、子供のお前に敵わない。こんな
「そうだ。その意気だ。お前はまだまだ上手くなる。それだけの努力をしている。だから、
青年は、
「違わない。俺は、俺だけの絵を描く。描いてみせる。師だっていらない」
「はは。強いなお前。気に入った! お前が納得いく絵が描けたら、俺に一枚買わせてくれ。お前が良ければだがな」
「もちろん、良いですよ。ぜひ高値で買って下さいね」
青年はそう言って、口角を上げた。
「ああ」
「では、私は絵に集中させてもらいます」
そう言って彼は、机に向かい、先程まで
「
「フッ。大したことじゃないさ。なっ、
「うん」
「そうか?」
「それより、
「これか? まあ、後で見せるよ。ここでは、な……」
「分かった」
「それより、
「先程、
「そうか」
丁度、入り口に
「離れてごめんなさい、
「ううん」
「
「ええ。もう大丈夫よ」
「そうか。それなら、
「わざわざ、すみません」
「いや、呼んだのは俺だからな。
「はっ!」
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※ 殷鑑不遠……戒めとする手本は、遠い昔に求めなくても、ごく身近にあるということのたとえ。また、身近にある他者の失敗を、自分への戒めにせよということ。[詩経]
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