画竜点睛〜龍に守られし国〜
由
〜天女降臨?〜
第1話 青天の霹靂
「
「
それに応えるように、彼は愛しい妻の頬に口付けて、彼女の描いていた絵を
「何を描いているんだ?」
「
「あいつはまた!」
「ふふ。許してあげて。天子様にもお休みは必要よ?」
「
「
「それなら、俺の絵も描いてもらおうか? あいつの絵よりもより正確に描けるんじゃないか? 毎日、隅々まで見ているんだから」
「もう!
「朝から止めてくれません? 甘ったるくて吐きそうなんですけど……」
書房で戯れていた新婚夫婦の激甘、激熱な空気に水を差す、第三者の声がした。
「
「……朝から新婚家庭に来るお前が悪い」
「はいはい。
そんな
「ごめんなさい。やっと
「そうですか。申し訳ないのですが、明日までには仕上げてください」
「随分、急いでいるんだな」
「ええ。ちょっと厄介な案件がありまして……」
「俺が知らないってことは、ここ一週間以内に持ち込まれたものか?」
「まぁ、そうですね」
「そうか。なら面倒に巻き込まれるのは勘弁だから、聞かないことにする」
「そう言うと思っていましたけど、結婚して一週間経つんですからそろそろ休暇は終わりですよ。今日からでも出仕して下さい」
「まさかお前、それを言う為にわざわざ来たのか?」
「ええ」
そんな
「はぁ。勘弁してくれよ。ずっと休まず働いて来たんだ、せめて一ヶ月くらい休ませてくれ……」
子供っぽい
「はぁ。止めて下さいよ。
「
「くす」
二人の遣り取りを見ていた、
「
「ごめんなさい」
「……一週間でも破格だと思いますけどね……」
「まぁ、な」
そう言えば、彼の時は一日しか休みがなかったと思い出し、
「仕方がない。
「
「
「ええ。今は詳しいことはお話し出来ませんが、決して悪用はいたしませんのでご安心下さい」
そう言った
「はい、もちろんです。それでは、明日また伺いますので、よろしくお願いします」
「はい。明日までに仕上げますので、御心配なく」
絵に集中している彼女から名残惜し気に視線を外した
* * *
「で? 一体何があったんだ?」
「
それに対し、
「はぁ。結婚祝いに対する返礼もないとは、無礼なヤツだ。何で
「ふん。分かっているさ。結婚祝いとそれから、彼女の想いを叶えてくれて本当に感謝している。ありがとな」
顔を背け、そう言った
「最初からそう言え。全く」
「ゴホン。それで、厄介ごとは何だ?」
「西の国境に天女が現れたそうだ」
「はっ?」
「えーっと。天から舞い降りたのか? それとも、
「そう考えるのは分かるが……」
「はっ! まさか!? その天女を後宮に迎えるつもりか?」
「何でそうなる?」
「だって……」
大の男のそんな様子に、
「その続きは言わなくていい」
「……まあ、聞け。その天女を隣国の奴らが連れ去ろうとしたところ、消えてしまったらしい」
それに、「我が意を得たり」とでも言うように、
「ああ。その天女は
「だが、それほどの技術を持った
「ああ。どうやら新たに現れたようだ。隣国が
「そうだな。それで急いでいたのか」
「ああ。このことは国の機密だからな。俺が自ら動かなければならない。
「はっ!」
「それにしても、なぜ『天女』なんだ?」
「さあな」
そう言いながらも、
「寂しい男が
「はぁ。お前な……」
「それは考えづらいですよ。それだけの腕がある者は、必ず画院に入るように、通告しているのですから。そんなことは、この国の者ならば、誰でも知っていますよ」
「入りたくなくて、隠していたんじゃないか?」と言いながらも、きっとそんなことはないだろうなと
皇帝の御抱えでもある画院に入ることは大変名誉なことであり、手厚く遇され、生活に困ることもない。
超一流の道具や講師が揃い、高度な技術を習得し、最先端を発信することが出来る。
入りたくないと言う変人に、今まで出会ったことはなかった。
「そうだとしたら、罰さなければいけなくなるな」
貴重な力を持つ画家に罰を与えるのは、決して本意ではない。
「新たな力に目覚めた、無知な子供だと考えるのが妥当だと思いますが……。もしかしたら、他国の者の可能性も有りますね。場所も国境ですし……」
「どちらにしても、意図的に『天女』を描いたのだとしたら、一気にきな臭くなるな」
「そうですね。それこそ、ただ自分の慰めだけに描いていたのなら、
「
そう言って、
「ただの金儲けのため、または宗教的に利用しようとしたということも考えられるが?」
「何にせよ、十分に警戒して事に当たらなければいけないな」
一度頭を休めようと、
「そうだな」
三人は改めて気を引き締め、
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李章絢(リーヂャンシュェン)……侍中(門下省の長官)。子淡の夫。
呉子淡(ウーズーダン)……待詔(画院の優秀な画家)。「造(ザオ)」の力を持つ。章絢の妻。
李麒煉(リーチーリィェン)……瞳(トン)国皇帝。
趙浩藍(ヂャオハオラン)……中書令(中書省の長官)。
師君(シージュン)……「造(ザオ)」の力を持つ。子淡達の師。「師君」は、子淡達が呼んでいる通称で、本名ではない。
影(イン)……造士が描いて実体化した絵の人物や物のこと。
狗(ゴウ)……麒煉が天子の力で操る狗の姿をした影。
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