〜比翼連理〜
第17話 風雲急を告げる
在天願作比翼鳥、在地願爲連理枝
天にあっては願わくは比翼の鳥となり、地にあっては願わくは連理の枝となりましょう、と。
(白居易 詩 「長恨歌」の一節)
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道中、捕虜の男が護送中に自害しやしないかと、
出発の時、もちろん男は
それでも、荷馬車の中から
「お前は王女の行方を知って、どうするつもりだ? その後を追うつもりでいるのならば、教えることは出来ない。どちらにしろ、お前を
まさか、そんなことを言うとは思っていなかったため、
そして、
もう一つ、緊張を強いられている理由があった。
荷馬車があるため、出来るだけ整備された街道を通っているので、
だが、特に話し掛けられることも、行く手を阻まれることも、ましてや攻撃されることもない。
どちらかと言うと、
物を買う時や、道を尋ねた時の反応がより
襲われないに越したことは無いが、あまりに何事もなく王城へと近づいているものだから、逆に不安になってくる。
しかも、見張りがいる正規の
最初は、山中の村にあった
無茶をするものである。
一歩間違えば、奈落の底へと真っ逆さまになる道だ。
だが、悪運が強いのか、誰一人欠けることなく、
どうやら、その辺境の村には鍛冶場があり、そこで暮らす者達は
十中八九、それは居なくなった
そして、その村は、村というよりは
これは、益々、
そういうことがあって、
−−嵐の前の静けさとならなければ良いが……。
もちろん、
それを王が確認したことは、書簡に施した仕掛けで
そのことも
−−まぁ、下手に歓迎されるのも怖いから、静観されている方がマシかもな。
心の中で独り言ごち、
日が暮れて来た頃、なんとか野営が出来そうな林に来ることが出来、夕飯の準備に取りかかった。
食事の時になっても、
「暗いぞ、
「はぁー。そうなんだけどな……。俺も
「そうだろう? 『
そう言って
「うわっ。相変わらずガサツだな」
「まぁ、国王に会わないことには何も始まらないな」
「いよいよ明日か……」
王城はもう目前に迫っていた。
明日の昼頃には辿り着くだろう。
「はぁー。もう少しゆっくりしたかったぜ。折角、
「お前が未だに結婚出来ない理由がよくわかる
「お前だって似たようなものだろう? そんなお前が、
「いやー。お前は無理だろ? 剣しか取り柄が無いからな」
「おいおい。
「聞き捨てならないな。
「やめへくれ。わるかっはっへ(訳:やめてくれ。わるかったって)」
「二度と
そう言って、
赤くなった鼻を
「ああ。痛かった。この馬鹿力め。鼻が
「はっ。俺のお陰で、少しは見られる顔になったんじゃないか?」
「なんだと!」
それを見ていた他の官吏達も、肩の力が抜け、二人に感謝したが、間に入って二人を止めることは誰もしなかった。
捕虜の男だけが冷たい目でその様子を見ていた。
男と目が合い、我に返った
「ところで、
五年程前、今回の
その時は、
中央からの進軍による摘発が後一歩でも遅ければ、
そんな危険な状態だった。
庁舎を壊滅させてしまう程の激しい戦闘の末、
荒廃していた
年若く、そこまで身分の高くない
戦闘を知っている者達は、この時はまだ平の武官だった
陰で
意味は、「一瞬で辺り一面を真っ赤な血の海に変える冷酷な狂った月」である。
「今はもう、
「よくお前みたいな軽いヤツと上手くいっているよな」
「
「ぷっ」
子供っぽい
それに重なって、小さな笑い声があちこちから聞こえて来る。
「お前。部下達にも笑われているぞ」
「お前等!」
そんな
「も、申し訳ありません。
「なるほどな」
そう言って、
居たたまれなくなった
「そう言えば、お前、まだ笛は吹いているのか?」
「ああ。
「おっ! それは良い。久しぶりに聴きたいな。皆にも聴かせてやってくれよ。お前の笛は天下一品だからな」
「そこまで言うなら、吹こう」
そう言って、
その夜は、丸に近い月が綺麗に輝いて見えるほど、空気が澄み渡っていた。
笛の音は、そんな月まで届くように響き渡る。
先程まで全く表情の無かった捕虜の男も、流石にこれには涙を流して聞き入っているようだった。
長い年月を経て帰って来た故郷に、何かを思ったのかもしれないし、ずっと追っていた王女のことを考えたのかもしれない。
ただ、その涙の理由は、本人にさえも分からなかった。
−−翌日、遂に一行は王城へと辿り着いた。
ここでもすんなりと城内へ通され、拍子抜けする。
「気を抜くなよ」
そう言って、表情を凛々しくした
「はっ!」
そうして、
* * *
−−数日後の
ここ最近、
民の間で、「天子様が何かして、天帝の怒りを買ったのでは?」、「いやいや、天子様を陥れようとした者がいて、それで天帝の怒りを買ったのだ」とか、そのような
これは一体どうことだろうかと、
視線の先の
「
影が差し儚く映る彼女の横顔が、
「
「
「まあ、やっぱり
「うん。……やっぱり龍達は怒っているのかな?」
「そう、ねぇ……」
顔を曇らせた
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※ 「因禍爲福、成敗之轉、譬若糾墨(禍に因りて福を為す、成敗の転ずること、たとえば糾える縄の如し)」……幸福と不幸は表裏一体で、代わる代わる来るものだから、それに一喜一憂しても仕方が無いということのたとえ。
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