終極の鐘

个叉(かさ)

月の王子と青灰色

朔月 プロローグ

それは祝福なのか呪いなのか。


穏やかな響きを持つそれは、

誰のものでもなく、誰しものものでもある。

それは鐘であり、角笛であり、アルモニカ。


彼のものに華やかな祝宴を告げるものではなく、厳かな終焉を迎えるもの。


☆☆☆☆☆☆


月が、欠ける。

海冥の空が、芒洋と広がる。闇は深く、スポンジのように素早くその色が染み渡っていった。大地も、海も、空も、みなが分け隔てなく同じだった。

大きな陰が、全てを覆い尽くしていく。


「まさか、そんな」


男の声が絶望に震える。鐘が掻き鳴らされる。警鐘。非常時を告げる鐘の音は幾重にも鼓膜を揺らす。地が割れるような、激しい音がした。不自然な鐘の音が、暗闇でそれが転がっていったのだと分かる。

その音はどこへ向かうのか。


真っ暗な大地が吸い込まれていく。木々も、家も、何もかも。止まらない勢いに、逃げようとした一人が転んだ。小さな男だ。その男も引きずられていく。

闇の中、視界は遮られ、何に吸い込まれているのか当人すらわかっていない。ただ、流れていく大地と共に流されていく。抵抗しようともがくが、全く意味をなさない。流れるに従って男は理解した。

大きな渦だ。中心まで如何ほどか把握しようがないが、全てが、飲み込まれている。恐怖は、叫びとなった。その声が自分だけでないことに気付く。安堵と諦念は紙一重。それは彼にとっての救いとなったのか。


「お前が、お前が引き寄せたんだろう!」


一部始終を《見ていた》男は混乱しているのか、暗闇の中周囲をぐるぐると見回した。男の周囲は薄ぼんやりと肉眼で物が確認できる、完全な闇ではなかった。その中で彼は捜索し、そして一点に視線を合わせる。


「あの災厄。ーに合わせて最大になるなんて。お前は知っていて、騙したんだな!」


男は鬼の形相で迫る。その先には金の髪の少女がいた。カタカタと震え、建物の陰に隠れている。それを引っ張り出そうというのか。


「やめてください。兄様。ーーは悪くありません」

「ーーーー。どけ」


男の前に、銀髪の女性が立ちはだかる。


「元々反対だったんだ。育ちの悪いそいつが、馴染むわけないだろう」

「兄様、なんてことを」

「事実だ。こいつは現に、お前の邪魔をしているじゃないか。非協力的で、全くーーを使わないじゃないか」


男が身振りを大きくして、訴える。女性はその手振りの大きさに一瞬怯んだが、少女のそばからは動きはしなかった。

少女が女性の後ろから、顔を出そうとする。


「いいのよ。兄様は少し気が立っているのよ。気にしなくていいの。ーーーーがなんとかしてあげるからね」


銀髪の女性は微笑んだ。

男の瞳が変わった。怒りの色から動揺が走る。


「お前、まさか」

「私にできることはそれしかないもの」


淋しそうなその横顔に、少女は女性の袖を引いた。そして小さな声で、何事かを呟く。女性は少女の頭を撫でた。

そして女性は歩き出す。


「待て」


男は慌てて追いかけようとするが、巻き上がる砂に阻まれる。


「ごめんね、ーーーー。あなたの望みはわかっているわ。でもあなたにーーー欲しいの」


砂の中心に、女性は語りかける。返事はない。それはわかっていた。

女性は何もかも呑み込む砂に手のひらを向けた。


「マーニ(月)よ」


女性の手のひらには、痣があった。それが小さく発光する。

ーーーーが抵抗する。

女性の心中に、申し訳ない気持ちが芽生える。だが、やめるつもりはない。自己犠牲など彼は望まないだろうが、譲れないものがある。


「どうか、ーーーーや皆が」


痣が一層光を放つ。眩しいほどに輝き。

隠れてしまっていた月が、刹那、姿を現し。


「ーーーーになれるように」


閃光が、視界を埋め尽くした。






緩い性描写、カリバニズム描写、ヴァニタス、死と乙女的な記述があるので、保険でR15つけてます。






ーーーーーーーーーーー


執筆終了済。

以下の投稿サイトで、同時に不定期更新(毎日~三日の間で)します。

Novelismにのみ、キャラクター、地図などイラストを載せています。

※イラストについては他投稿サイトに載せる技量が、書いてる人にないだけです


Novelism

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