第39話 竜娘、次の街に辿り着く
旅に出て早くも三週間が経とうとしている。
そんな中私たちはある事情により動けないでいたのであった。
窓に映る景色からはこちらの世界でも稀に見ない程の記録的な豪雨でほんの先までしか見えない状態。
「……流石にやってられっかぁ!!」
手に持っていたガラクタ達を勢いよく叩きつける。
……そう雨降り始めてから数日が既に経っており今は特殊なテント内で缶詰め状態である。
そして暇だからと始めた武器、防具に消耗品類の道具や有り余る素材達の整理をしているのだが……。
エスタス単体が保有していない物まで次々と出て来るのだがこれが他のキャラ達。所謂、倉庫キャラ達の物までがメインキャラであったエスタスに統一されているのだ。
しかしそれにエスタスは気付くことはなかった……。ただ何となく多いなぁぐらいにしか思っていないのであった。
「ちょっ!!貴重な素材達が!!」
慌ててそれらを拾い上げるのは一緒に行動するイリス。
「いいよぉ。それも次の所で売っちゃうやつだから」
「え、えぇ……。これもかぁ。大丈夫かなぁ」
「大丈夫だって昔は当たり前にみんな使ってたんだから少しだけ昔に戻ったって考えてたらいいんだよ」
「それにその素材のみで作った武器なんてただ強度と切れ味に極振りした物しか作れないんだしゴミよゴミ」
「えぇ……。それって十分じゃないのかなぁ」
納得しない顔をしながらもとりあえずアイテム袋に拾い上げた物を入れる。
「とりあえず次のやつで今日は最後ね……っと!!」
アイテムボックスに腕を突っ込み適当に両手で掬うかのように取り出す。
お!!これは……。
「イリス。イリスこれあげる」
そう言ってこっちを振り向いたイリスに対して二つの物を投げ渡した。
「……メガネにこっちは何??宝石??」
「とりあえず先にメガネの方からね。メガネは掛けてからこっちを見てみれば何かは分かると思うよ」
不思議そうにしながらも言われた通りにすると同時に目を見開く。
「……鑑定付きって奴だよねこれ。いや、でもそれでもここまで詳細がこと細かく表示されるなんて聞いた事ないけど」
「そりゃそうよ。私が欲しいものを取る時についでに取れた最高ランクの鑑定メガネの一つなんだから!!」
「し……神話級なんですよぉそれ……。貰えないです流石にぃ」
「そうは言われても正直私が持っててももう使わない物だし。かといって売りには出せないでしょ??だったら使ってもらった方がいいかなぁって」
「でも……でも……」
「それにそれ神話級って言ってるけどただの固定スキル扱いの防具だから魔封石で取り外しもできないから正直価値はないからね?」
「まぁメガネタイプだったからある程度の防具と組み合わせできるから欲しいものが落ちるまではずっと使ってたものだから大事にしてね」
「本当にいいの??」
「かまへん。かまへん」
そうしてかなり悩んだ末に根負けしたのか受け取ってくれた。
「それでこっち…………は?まじ??」
メガネをつけたままでもう一個の方を見て驚愕する。
「これって本物!?でも……」
「話が早くて良いね。そうそれは『エルフナイト』だよ」
過去一いままで見た中で驚いているイリスを見ながら説明をしながら大笑いをしてしまう。
扱いが先程あげたメガネ以上に丁重になっているのだから笑わずにはいられない。
「なんで……ま。え、どうして」
「どうしても何もたまたま採取したからだよ。でも私エルフ種じゃないから持っててもどうしようもないからあげる」
「そんなそこらで採れるものじゃないでしょ!!」
声を大にして言われるが……。
「だからたまたま採れたんだって自分の種族以外のは持ってはいるけど数はないからねそのエルフナイトもその一個のみだしね。第一に種族石なんてその種族じゃないと加工もできないんだから竜娘の私が持ってても無駄でしょ?」
「仮にそうだとしてもそれを当たり前かのように渡さないで。分かってるのこれの貴重性を伝説中の伝説だからねこれ!!」
「まぁまぁ。いいじゃない持ってて困るものでも無いし」
「……そ、そうだけど。これを加工できそうなエルフの鍛冶師なんて私知らないよ」
「……ん〜。私はいるけどどこで何をしてるかなんだよねぇ。まぁとりあえず持っててよ」
「……供えててよかですか」
「……良いけど何処に??」
「……個人部屋にそれ用を作らせてもらってもよかですか」
「良いけど」
なんて馬鹿な会話をしながら手に持っている残りの物を選別済ませてどうにか今日の分を終わらせた。
しかしそれでも全体の四割程度しか終わっていないのを確認すると深々とソファに腰掛ける。
はぁ……。やってらんねぇよ。まじでいつ終わるんだろうか。
そんな事を思いながら雨模様の景色が続く窓を見てふとある事が気になりイリスに問いかける。
「そういえばこの雨っていつ終わるんだろうね」
「え?あぁ確かにねどうだろうそろそろ終わってくれてもいいとは思うけど。どうなんだろう」
イリスがそう答えると何かを思いついたのかおもむろに外に飛び出していくのでその後を追う。
「……どうしたの急に濡れるよ」
「まぁちょっとね。見てて」
近場の木に手を当てるとそのまま動かなくなる。
何をしているのか一瞬迷ったが一つだけある事を思い出した。
ハイエルフは世界と繋がっているという伝承だ。
ハイエルフは世界樹から産まれる為か自然と一体化し世界を見る事ができるらしい。
なぜらしいかというと元々NPC専用種族なだけに謎が多い種族の為確信めいたことが一切不明なのである。
ゲーム内でも元々ハイエルフ数人しかいなかったし。同行クエストとかもこれといってなかったからそう考えると今の状況ってすごいレアなんだよなぁ。
……あれ。でもそういえばイリス本人は自分がハイエルフなんて一度も言ったことなかったよね。
知らない??もしくは希少な為に隠してる??
うーん。とりあえず聞くのだけよしておこう。これで変に警戒されるのは嫌だし。
そんな事を考えているとイリスがゆっくりと木から離れこちらに駆け寄ってくる。
「もう!!ずぶ濡れじゃない!!風邪ひくよ。はいこれ」
タオルを数枚渡す。
「ありがとう。それでだけどね……」
そこでイリスの顔を見て驚く。
「ちょっと!!顔真っ青じゃん!!」
それは誰から見ても異常な程であった。
「え、あぁ。大丈夫だよ。今日一日寝てたら治るから」
「いやいや、一日で治りそうに見えないけど!!」
「本当だからただの魔力欠乏症だから」
「……欠乏症って。ただのって言うけどそれかなり辛いでしょ!!」
咄嗟に抱き抱えてテント内に戻る。
すごい慌てふためいたりするのを無視してイリスの部屋まで連れていきベッドに座らせる。
「お腹は空いてる??何か食べたいものは??」
断りをえてとりあえずでタンスの中から着替えを取る。
「……ん〜。空いてないただ寒いし眠い」
「あぁ!!待って待ってまだ寝ないで着替えてからにして」
濡れた服達を脱がせて新しいのに着替えさせる。その間に魔力促進薬を用意する。
魔力欠乏症にはアイテムでの圧縮された魔力は受け付けない事を思い出す。
唯一効果があるのが自然回復での魔力充填のみ。その自然回復を早める薬なら効果がある事。
懐かしいなぁ。お使いクエスト思い出せてよかった。
薬とカロリーのある物を用意しそれを渡す。
「パンの方は無理して食わんでもいいから薬だけは絶対飲んでね」
「…………うん」
気だるげな身体を無理やり動かし薬を口に付け少しづつ飲み干す様子をじっと見つめる。
時間を掛けどうにか薬を飲み干すとイリスはすぐさまベッドに横たわる。そして薬を飲み干してる間に着替えを済ませた自分もイリスと同じベッドに入る。
「……ん。いがい」
「寒いって言ってたからね。欠乏症で体力落ちて体温が下がったんだろうね」
そしていつも通りに互いを抱き合う形になる。
既に意識は朦朧としていたのか。軽く位置を調整している間に耳元で彼女の寝息が聞こえてくる。
そんな彼女の寝息を聞きながらイリスの鼓動を確認しながら私も眠りについた。
そうして翌朝。
目が覚めると何故か私を見つめているイリス。
「お〜はよ!!」
「……うん、おはよう。もう大丈夫?」
「おかげさまでね」
「そりゃよかった……」
大きな欠伸が出てしまった。
二度寝する前に起きよう……。イリスの腕を退かして身体を起こす。それにつられてイリスも起きる。
さてと……。雨の方はどうなっただろうか。
身体をほぐしながら外に出てみると昨日までの豪雨が嘘だったかのように快晴であった。
「お、晴れてんじゃん」
「そうそう。昨日は言えてなかったけどなんなら当分降らないと思うよ」
着いてきてたイリスがそう言う。
「そうなの?」
「うん。見えた範囲では雲はこれ以降大きいのはなかったかな」
「へぇ〜未来でも見たの??」
「まさか。ちょっと遠くの景色までしか見えないよ」
「ふーん。便利ねそれ」
「でしょう〜」
「いや、ドヤってる所悪いけどそれ当面禁止だからね」
「なんでよ!!」
「なんでもクソもあるか!!あのたった数秒の出来事で全ての魔力と体力を使い果たしといてはい。また使っていいよ。とか言えるかアホ」
「いい!!とりあえず何か効率のいい方法が見つかるまでだから使わないこといいね?」
「……まぁそれなら。というかそもそもこれ自体そんなに使わないんだけどさ自分でも危険なのは理解してるし」
「それなら良いけど。……さて、とりあえず移動をしようと思うけどどう?」
「大丈夫だよ〜」
「よし。それじゃ身支度と朝食済ませたら移動しよっか」
なんて事ない会話をしながらテント内に戻り二人とも自室に戻り次第身支度を済ませ互いに終わった方から朝食の準備をする。
そうして朝食も済ませるとテントを回収したら忘れ物がないかを確認し終えると移動を開始する。
そうして時間が過ぎていき久々に晴れた空を見ながら二人で談笑しながら歩いていると数台の荷馬車が横を過ぎる。
邪魔にならないようにと少し脇にそれ通り過ぎるのを待っていると最後尾に位置する荷馬車の人に声を掛けられる。
「お嬢ちゃん達どこまで行くんだい??」
私達は目的地を伝えると……。
「そりゃ丁度いいもし良ければ乗っていきなさい」
「……いいんですか??」
「良い。それにここから歩きだと日を跨ぐ事になるぞ?」
それは嫌だな……。
しかし景色を楽しみたいという欲が邪魔をするが……。イリスの体調を考えると乗せてもらうべきだと判断する。
「それではお言葉に甘えて」
「ありがとうございます」
「良いよい。この荷馬車にゃ誰も乗っ取らんからの寂しいじじぃの話し相手をしてくれるだけで助かるわい」
旅は歩きから荷馬車にグレードアップ。
道中おじいさんの話し相手をしながら日が完全に沈む前に次の街えと辿り着く事に成功したのだった。
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