第16話 ストーリーは冒険譚になっていた

 

 荷馬車が動き出し数分の間は無言が続いたが、私の隣にいる少女がその沈黙を破る。


「ねぇ……お姉ちゃんは何をしている人なの??」


「そうね〜世界を歩くただの旅人かな〜」


 それを聞くとみんなが一斉にどんなところに行ったのか?どんな街を見てきたのかを凄い勢いで聞いてくる。


「それじゃあ一つお話をしてあげる」


「これとある邪教から世界を守った名も無き英雄たちのお話」


「それはどんなお話?お姉ちゃんは関係あるの??」


「さぁ……どうでしょう?でも実際に私自身が目にした事だよ」


 そして私は語るも同時に自分達の周囲だけを闇で包み込むと同時に、私知っている英雄達の見た目を模した小さき光の人形を作り出す。

 最初は闇に呑まれて戸惑いを見せてた子供達だったがわたの語りと光の人形による演劇に夢中になっていた。



 そして今、私が語っているのはゲーム内にあるメインストーリーであるがさすがに1から全てを語るとなると、とても街に着くまでの時間ではとても足りない。

 その為、どうでも良いところだけは飛ばして、聞いてて楽しい場所や重要な所を光の人形を動かしながら語る。


 主人公とするのは騎士をする青年。

 彼はとても優秀とは言えないが、正義感は強く仲間を見捨てたりなんて事もせず誰よりも前へと立ち魔物から人々を守ってきた人物であり、人望も厚く人々に好かれやすい人物であった。

 そんな彼のもとに1つの依頼が飛んでくる。

 本来騎士一人に依頼何てものは来ない。騎士が動くという事は国が認可したと言う事になる。国がその依頼を認めたとなればそれは人々を守る為、民を守る為に騎士団が動く必要があるレベルのものとなるのだからだ。

 それなのに彼の元に一枚の依頼書が自室の机に置かれていた

 誰が渡したのかも解らない。しかし確実にそれは自分に対してだと確信を持って言えるが彼自身なぜそう思ったのかは解らない。


 彼は中身を見るとそこには「誰にも話すな」と一言。

 そして今日の日付に時間そして場所だけが書かれていた。

 それはとても依頼書には見えない内容であったが、国が認可したとされる印が刻まれており一端の騎士がその印を前に拒む事はできないとされている。

 そして、その依頼によって彼の人生は大きく変わる事になる。



 彼は書かれた時間に指定された場所に着く。

 そこはただの酒場であり同僚とたまに飲みに来るところである。

 中に入るといつものように色んな人がどんちゃん騒ぎで飲んでいた。

 本当にここで合っているのか自信が無くなりそうになり、適当に注文し席に座ると同時に視界が急に暗くなる。

 咄嗟に帯刀していた剣に手を当て、辺りを警戒していると急に声が闇から響く。


 声の正体は分からないしかしこれは彼一人に対してではなかった。

 闇に目も慣れ辺りが少しだけ見る事が出来るようになる、そこには彼を除き他にも3人の人達がいた。


 一人は、彼と似たような格好だが騎士には見えず寧ろ放浪者に見える。


 もう一人は、かなり背の小さい女の子だった。ドワーフの様に小さいそれはローブを羽織る姿は、とても様になっており高名な魔術師だとすぐに理解した。


 そして最後の一人は、獣の耳が特徴的な獣人であった。

 彼女の背には湾曲が目立つ物を持っており確証は持てないが狩人ではないかと推測できる。


 彼らがなぜ集まったのかは分からない。

 しかし声の主は一つの台詞を永遠と続けるのみ。


『世界を……救え。オグロ教から……救え。さもなければ世界は消される』


 そして最後にもう一度だけ言うと視界から闇が解け、光が射し込む。



 ……声が聞こえる。しかしこれは酒場等で聞く声ではない。戦場等で聞く緊張感が身体に走る声だ。

 咄嗟に辺りを見渡す。

 目の前には先程まで一緒にいた三人組が同じ様に辺りを見渡していた。

 そしてここはあの闇の中に来る前にいた場所ではなく何処か別の場所だった。

 人々の叫び声、鼻をつんざく血の臭い、そして纏わりつくような死の気配でここがどのような場所かすぐさま理解した彼はすぐさま三人を立ち上がらせ安全な場所を探しに移動する。

 そして簡易的だが自己紹介をする。

 本来こんな状況でするべきでは無いと思うが敵では無いことを示す為にも身分を示すというのは大事な事である。


 そして自分の名前を言った騎士は……


「あ〜その話知ってるよ!!」


「……え?」


「えっとね、その後、砦に着くんだけど敵と間違われてね。敵対しちゃうんだけど騎士様の紋章を見て砦に居た人が慌てるんだよね?」


「え、えぇ……そうだよ?でもなんで……」


 待って、まって。

 誰かがこの話を広めたって事!?


「お姉ちゃんが言ったお名前で思い出したの。それって『アーサー王の冒険譚』だよね?有名だよ」


 隣にいる女の子がそういうと周りも「確かにそう言われれば」等と同意する声聞こえ出す。


「その『アーサー王の冒険譚』ってそんなに有名なの?」


「有名だよー!!この世界で一番語られる王様じゃないかな?色んな伝説があるんだよーー!!」


 少女はそのまま自慢げに、その冒険譚に出てくる。タイトルと内容を上げてくる。

 アーサー王の竜戦争や、アーサー王の不死者の決闘等など……。

 どれも確かに自分も経験したイベント事やストーリーだった。

 そして肝心のその名前……。

 私は何となくで一番目立つ名前で覚えやすいからと、とある人物の名前を借りたのだが……。


「ね、ねぇそのアーサー王って今も生きてるの?」


「そんな訳ないよ〜!!だってこのお話なんて5000年以上昔のお話なんだよ??不老不死になったってお話もあるけど、さすがにそれは作り話だよ?」



 私が今のお話に出した騎士の名前は、私達のゲーム内でギルドリーダーの名前から借りた。もしかしての為にも全く一緒にしたのだが。


 ……アーサー・ブラッドリー。君はこの世界で何をした。

 こんな物を未来に残して何をたくらんで……ん???


「ねぇ!!今、不老不死って言った!?」


「わっ、わっわっ!!?お姉ちゃん馬車の上だからやめてーーー!!そ、そうだよ最後のお話だけど,最後は、不死が永遠に居座る何て可笑しいからって自分の国を子供に受け継がせてどっかで隠居したってお話で終わるんだよ」


「その国ってちゃんと存在してる!?」


「あるよーーーーー!!何なら物凄く歴史が長い国で有名だよーーーー!!!!や、や、やめてお姉ちゃん酔っちゃう……」


「わ!!ごめんね……ちょっと興奮しちゃって」


「でもお姉ちゃんそのお話知ってるのになんで『アーサー王の冒険譚』を知らないの?」


「えっと……それは、」


 どうやって説明しようか悩んでいると馬車を引く人の声が聞こえる。

 どうやら街に着いたみたいだ。

 ナイスタイミングだ!!どうにか話をはぐらかすと監視役の門番が目の前にまでやってきて荷物の確認と身分の確認をする。


「君が……なるほど。君は後で中に入ったら一度詰所の方に来てもらっても良いかな?聞く話だと身分証が無いと聞いたからね」


「わかりました。わざわざすみません」


 門番は軽く頭を下げ、前の方に走るとすぐさま荷馬車が動き出し、街の中に入っていく。

 そして街の中に入った後荷馬車から降りるとカーマが話かけて来た。


「これからはどうするおつもりですか?」


「そう……ですね。今の所は特に考えてはいません。私は今は情報を集める旅をしてるだけですのでとりあえず情報を扱ってそうな場所に行ってみようかなと」


「そうですか分かりました。そうだ、もしお泊まりする場所にお困りになればこちらに赴いてみてください」


 そう言いながら彼は紙に何かを書いて渡してくる。


「私が経営する宿屋ですので品質は保証しますよ」


「そうですか何から何までありがとうございますもし見つからなければ行ってみようかなと思います」


「それではもしご縁があればいずれまた」


 彼は深々と頭を下げるとすぐさま馬車に乗り込み街の中に消えていき、それを私は見えなくなるまで見送ると言われた通りに詰所の方に足を運ぶのであった。




 そして一人の男がつぶやく。


「……ん?何かえらく強い魔力だな?誰だ」

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