第41話 竜娘、提案する
雨だれ模様の景色を横目に授業の準備をする。
そんな時だった。
鐘の音が聴こえる。それはいつも聞きなれた物ではなく……。
もっと教会などで聞くような音。幻聴では無い。クラスの皆が騒ぎ出す。その音は次第に大きくなり耳を塞いでも聴こえるそれに狂いそうになろうとした瞬間。
突然と鐘の音が聴こえ無くなると同時に聞き覚えない人々の歓喜の声が上がった。
わけも分からないまま僕たちに説明をする偉い人曰くその日、僕たちは勇者となった。
それからもう二年が経とうとしている。
勇者として呼ばれた僕たちは王国の騎士たちや冒険者に紛れたりしながら訓練と実践を経験し着実に実力を付けてきた。
そんな最中に国から緊急要請がきた。
内容は自体は至極簡単な内容でとある坑道を魔獣からの解放といったものだ。
僕たちは即座に人数を集めた。その結果集まった数は僕を含めた勇者十人。騎士を二十人。神官を十人の合計四十人となった。
人数が揃えばそれからは諸々の消耗品を準備をし全てが揃い次第僕たちは移動を開始した。
約一ヶ月が経つ。
ようやく辿り着くのは目的地の鉱山街。
僕たちは活気のない街を横目に依頼主の領主に会いにいく。
僕達は外で待機し大人たちが話し合いに行ってる間に諸々の準備をしておく。
十分も経たない内に大人達が戻ってきとりあえず今日は休憩。後日朝一から行くことになった。
そうして次の日。
問題の坑道入口前に来る。
この距離まで近付いてやっと気付く。不可思議な魔力の流れ。
それはこの場に居る全ての人が気づいている。
僕らは念入りに準備をし確認しありとあらゆる状況が起きても対応出来る様にし突入する。
拍子抜けだ。警戒し突入したものの出てくる魔物は強くはあるがそこまで苦戦するほどでは無い。
しかもオマケと言わんばかりに倒した魔物から高価な鉱石や希少な鉱石ばかりがドロップするため僕達は程よい感じに警戒が薄れていた。
僕達は奥に奥にとずいずい進んでいくと明らかに意図的に広い空間。その中央に鎮座する。今まででの魔物とは違い生物が鉱石に寄生された様な見た目ではなく完全無機質のゴーレムがそこにいた。
しかし僕達の目はそのゴーレムより後ろにある扉に注視していた。
それは本来あるはずの無い扉。
ダンジョン化による変化だろうか。僕達の中の一人が声をあげる。
そうだ。扉より先に目前の敵に集中する。
僕達は念入りの準備をし目の前のゴーレムの討伐を開始した。
どれだけの時間が経ったのか分からない。
皆が疲弊している。しかし大小のの怪我はあれど全員生存している。
見た目通りに防御型の敵だと思っていたが、予想より防御力が高く倒しきる迄にかなりの時間が使わされた。
しかしそれだけの褒美も貰えたようで一欠片の鉱石を見るように言われた。
そこに浮かび上がる名前は希少な鉱物の名前が出てくる。それをみんなに伝えた。
みんなのやる気が上がりみんなして扉の先に行く流れになってくる。
─── これが間違いだった。
扉の先にはただただ広いだけのエリア。警戒をしながら全員が順々に入ってくる。
そして全員の確認をしていると後ろの入ってきた扉が大きな音を立てながら独りでに閉まり完全なる闇が下りる。
しかしその闇を呑み込んだかのような紫色の炎が僕達の周りを照らしようやく視界がハッキリとした。
目の前には一切の障害物の無い広場。その中央に位置する場所には黒い瘴気を纏った鎧がこちらを見つめている。
……ような気がする。視線を外さないままとりあえずの補助魔法を貰い準備を進める。
全ての人達に補助魔法が行き渡るのを確認すると何時もの手順で行動を開始する。
手始めに始めるは僕がこちらに来ると同時に授かったスキル【万物を見た眼】を使用し相手の弱点を確認しそれを共有する事から始まる。
いつも通りに。
視界に映った相手の情報を手に入れようとする。
ほんの一回の瞬きをする。
瞬間。僕の視界が一気に下がる。
何をされたのかすら理解ができない。
情報の処理ができない。
理解できるのは今現在相手しているのが規格外の化け物だったという事だけ。
未だに下がり続ける視界の中ありえない量の相手の情報が提示され続ける。
理解に苦しむほどのありえないレベル。
攻撃力、防御力、素早さ、知力、信仰心その他全てがここに居る人間が束になっても勝てる見込みが無い程の数字。
がここまで覚えれるかと関心するほどの量のスキルの数。
勝てるはずがない。撤退しないと……。
気づけば落ちていた視界は止まっている。
大声で撤退を促そうとするも声が出ない。それならばとジェスチャーで指示を出そうにも身体は動かない。
複数の状態異常が掛けられたのだと考えた。だからなのか思考にモヤがかかり始めているのは……。瞼が重い睡眠系の状態異常も……か。
焦点が合わなくなってきた時後ろの方から液体が流れてくる。
黒い様な赤い様な奇妙だと感じながら反射で映る自分の姿を確認した。
─── そこで、ようやく自分に何が起こったのか理解した。
立ち尽くす彼等に対して声を荒らげる。
「呆けるなぁああああ!!!!うごけぇえええ!!!!撤退だぁあああ!!!」
急いで彼らの盾となる為に前に出る。
俺らは何もしていない筈なのに彼が殺された。何が原因だ。鑑定か?しかしそれならば今までの魔物達が鑑定されても襲わないのはおかしい筈だ。アレだけが特殊なんだ。
色々なことを考えながらも動揺を消せない。今いる中で一番の実力者である彼でさえ相手が何をしたのかすら把握出来ていないのだから。
「お前らまだか早くしてくれ!!次がいつ来るのかこっちは視認すらできんのだ!!だから守れる保証がないのだよ!!」
「……ど、どこに行けば」
混乱していてどうしたらいいのか解っていないようだ。
「適当でいい!!この街で一番安全場所とかでも何でもいいから早く離脱しろ!!!!」
「神官それと騎士達は上手く作動しない者の補佐をしてやれ!!」
皆が動き出し一人また一人と離脱していく中自分は目の前でゆっくりとこちらに歩いてくるアレを凝視する。
アレは目を離したらダメなやつだ。理由は分からない。ただ本能がそう警告する。
目を離したら瞬間俺の首と胴体はオサラバする……と。
アレが歩みを進める度に嫌な汗が溢れ呼吸も浅くなる。
今すぐにでも逃げ出したい……。
恐怖が。死の手が俺の首にゆっくりと絞めてくるのが解る。
……それでも俺は副団長としてそして騎士としての誇りに賭けて今ここで引くわけには行かないのだ!!
どれだけの時間が経ったのだろうか。
体感時間では既に数時間の時が過ぎたような感覚だ。
皆は既に離脱しただろうか。最後の一人には合図を送るようにしているが……。
しかし今はそんなのに気を取られる訳にはいかない。
それは既に目と鼻の先程の距離にいる。腕をゆっくりと上げていく。
どうする。
避けるか!?弾くか!?選択が迫られる。
高々と掲げられた剣がう振り下ろされそうになる瞬間だった。
後ろに思いっきり身体が引っ張られる。
咄嗟に後ろを見ると一人の騎士が青ざめた顔で引っ張っていた。
「何してるんですか!!突然固まったりして貴方がここで死んでは意味がありません!!」
「お、俺はどれだけの時間を……」
呼吸が苦しい。まともに呼吸をしたのはいつぶりだ。
「何言ってるんですか一分にも満たしてません。他のみんなは既に離脱しました。早く私達も離脱しましょう!!」
「一分も経っていないだと。しかし俺の感覚では……」
「そんな事よりはやく!!次が来る前に!!」
「あ、あぁ……」
首にぶら下げていた首飾りを掴み魔力を注ぎながら念じる。
『今この街で安全な場所に』
「と言う訳で決して俺達は怪しい者ではない。出来れば剣を収めてくれ……」
一人がゆっくりと剣を収めると周りも続く。
「すまない、感謝する」
深い溜息を吐く。
どうしたものかと悩む。見た感じ彼等は冒険者だろう。そんな彼等と共にもう一度攻略してみるか?
いやそれでも無理であろうな。無駄な犠牲が増えるだけだ。
だからといってあそこを放置はできない。もしあのレベルの魔物の氾濫が起こってみろ。瞬く間にこの土地は魔物の領域になってしまう。
絶望に近い未来を考えていた。
そんな時だったどこからともなく女性の声がする。
「もし条件を呑むのであればそこを私が攻略してあげるがどうする」
そう言いながら人混みを掻き分け俺の前に現れたのは竜人族の娘だった。
竜娘、勝手知ったる異世界で旅をする 黒桜 海夜 @miya1341
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