第10話 全ては彼女の意のままに
エスタスが気を失い更なる焦りを浮かべる。
「あぁ……やばいやばい!!血がどんどん溢れてくるよ!!」
「えぇい!!慌てるでないお主、治癒系の魔法は使えぬのか!!多少の延命にはなる」
「ご……ごめんなさい私は信徒じゃないので治癒系は……」
「ぬぅ!!しかしこのままじゃ呼吸もままならぬ」
精霊樹は血液に触れると勢いよく口の中から出てくると、そのまま上空に流れていき、その場で、球体となり波打っている。
「これで多少は呼吸はしやすくなっておるはずじゃ……がこれはもしかしてもう遅いかのう」
それを聞き、急いで心臓が動いているか胸に耳を当てると、
微かだが鼓動は聞こえる。
本当にギリギリだが生きているみたいで良かったが安心はできない。
未だに異様な何かが壊れる音は聞こえ、血液だってさっきから穴という穴から出っぱなしだ。
「精霊樹様……私はどうすれば…………」
そんな情けない声を出しながら精霊樹様に助けを乞う
こんな状態の人間をむやみやたらに動かす訳にも行かないからだが、あとは単純に自分にそうゆう力がないからだ。
知識として、多少の応急処置等はできるが、ここまでの重症となると、素人が手を出していい領分ではなくなる。
「すまぬが出来れば治癒系の魔法を使える者を呼んでくれぬか我はここから動けぬからな」
「分かりました!!すぐさまお連れします」
すぐさま立ち上がり、細道を抜け、泊まっている宿屋が建てられてれる木の傍を抜け、教会の方に向かっていると、どこからともなくものすごい突風が町全体を襲う。
ものすごい砂埃と木の葉が舞い、木造でできている建築物は音を鳴らしながら耐えており、何かにしがみついていないと飛ばされてしまう程の強風に煽られる。
数秒してようやく止むが、それと同時に沢山の巨影が頭上を通る。
「今、何かが……いやそんな事今はどうでもいいわ急がないと!!」
そして教会に向かおうとした瞬間……!!
ものすごい数の何かの鳴き声がさっきまで居た方向から聞こえてくる。
精霊樹様がいる所から、ここはそれなりに離れてはいるが、それでも耳を塞ぐ程の音だ。
流石に、異常事態だと感じ、すぐさま来た道を戻っていく。
上を見ながら進む……。
あれは一体何なんだ。ワイバーンに似てはいるが違う、それよりも大きく、それに統制の取れた動きをしているそれらは空を覆い、そこだけが多くの影が作られるほどの夥しい数が見られる。
急いで広場に戻ると、そこには影が多い今の状況でもわかるほどの純白の鱗を持った巨体が声を荒らげていた。
「樹木よ、お主では助けられぬそれをこちらに渡せ!!」
「厄災の塊が何を抜かすか!!お主らは基本人間には不干渉であったであろう!!」
どれかのワードが癪に触ったのであろうか、勢いよく精霊樹に近づき睨みつける。
「それは人類種共が勝手にほざいているだけだ!!たかが大陸一つ消した程度何ともなかろうが!!」
「めんどくさい今はそんな事どうでも良い!!多少強引にいかせてもらうぞ!!時間もないのでな」
すると大きい口を限界まで開くと、舌を出し、ゆっくりとエスタスに巻き付け口の中に運び込む。
それを見て思わず声を出してしまう、というか出さない訳にも行かない。
すぐさま駆け寄り、帯刀しているナイフを取り出し構える。
それを純白の巨体の主は、ただ見つめるだけであったが、ものすごい恐怖が、全身に走る。
「やめよ!!むやみに敵対するではない!!」
咄嗟に精霊樹様に止められる。
「しかし……」
「あれは厄災そのものだ……命ある物が勝てる生き物ではないのだ」
そして精霊樹様は続けざまに語り出す。
それは誰でも知っている伝説だった。
大昔に、竜の逆鱗に不用意に触れた者がいた。その者は生きたままに焼かれ、死ぬことすら許されず数日、数ヶ月、数年、数十年と焼かれ続けた。
そしてその間ずっとその者は懇願した。
「殺してくれ!!頼む!!」
そして何の気まぐれかは分からない。
激怒していた竜は、彼が住む大陸から、彼以外の生物全てを大陸諸共消した後、そのまま姿を消したとされた。
もちろんその後、焼かれた彼がどうなったかは誰も知らない。
精霊樹様はそれが、今目の前にいる巨体が犯人だとそう言っている。
所詮は伝説は伝説ではないのか?誰かが創作した作り話であると、しかし目の前にいるそれが、創作なんかではないと、伝説はまさに事実であったと言わしめる程の存在感をはなっていた。
「お主!!そんな物を食べても腹の足しにもならぬだろう?すまぬが吐き出してくれぬか」
精霊樹様が穏便に済ませようと吐き出す様に言うと、それは大きな手を私達に向け広げる。
モッキュモッキュモッキュ……
モッキュモッキュグチャ……
モッキュヌチャグチャグチャ……
物凄く咀嚼音?を静寂の中響かせる。
あれではもうダメだと落胆してしまう……。
彼女を、エスタスちゃんを私は救う事を出来なかった事に涙を浮かべると、それは突然と勢いよくエスタスちゃんを吐き出す。
そしてそのままの勢いで水辺に叩きつけられた彼女のそばに駆け寄り引き上げるとすぐさま違和感を感じた。
先程までの異音もなければ、血さえ流していない。呼吸も安定しており、心臓の音も微かだがちゃんと聞こえる。
「良かった……食われてない生きてる本当に……」
私は涙を流しながら、彼女に抱きついていると目の前にそれが迫る。
「貴様はそれの友か?」
それを聞き頷く。
知り合ったのは昨日で友達だと言われたら分からない。だけど私は、彼女の友達になりたいとは思っている。
「そうか、ならば良い」
それはゆっくりと離れそして視線を精霊樹様の方に向ける。
「お主……何がしたいのじゃ」
精霊樹様は警戒している。
無理もない目の前にいるのが本物であれば安堵なんてできない。
「樹木風情が俺に問うのか随分と偉くなったものだな」
「仮にも世界樹様を護る者だからのう偉くもなるわい」
「それで……なぜあの一件以来、今まで不干渉であったお主らが来たのか答えてはくれぬのか?」
それに対し彼はため息を漏らす。
「簡単な事だ俺らの姫との繋がりが復活したと思えば死にかけではないか焦りもする」
私にはなんの事だかさっぱり分からないただ、精霊樹様はそれは何なのか理解はしているみたいらしい。ものすごく驚いた顔をしていた。
ただ、私でもわかるのはこの娘が只者では無いことだけは分かった。
「なんと!!彼女がそうなのか!!先代の記憶に確かにあるがまさか本当に居るとは……」
精霊樹様がこちらに駆け寄るなり、エスタスちゃんの顔を凝視していると、突然彼が、顔を通路側に見やる。
「……む?」
それと同時に、ものすごい足音と声が聞こえてくる。
「な、な、なんだこれはめちゃくちゃではないか!!それにあれは魔物ではないのか!!」
ここからでは、彼の巨体のせいで良く見えないが、声に聞き覚えがある。
この町を、管理している役所のお偉いさんだ。
正直縁もそれほど無いため、名前もうろ覚え状態だが皆からは慕われてる人だ。
いつも町の清掃やらを毎朝してるのも見かけるそんな人だと私は認識している。
そんな人を慌てて止めるように前に出る人達。
「前に出過ぎないでください!!空にもいますので守りきれるか分かりませんので」
そして、彼らが剣を抜刀した瞬間、空から数体目の前の彼とは違う竜種が私達との壁を作るかのように間に割り込み、その大きな翼を広げて威嚇する。
それらは、人間に顔を近づけると睨みつけ、吐息に混じって炎の様な物が口の隙間から漏らしている。
「食うではないぞ人類種など食っても腹を壊すだけだ」
それを聞くと、それらは尻尾を返事をするかのように、地面に叩きつける。
しかし、これは非常にまずいのではないのだろうか……。
地上にいる彼ら以外にも、空には未だに影が出来るほどに翼を羽ばたかせて警戒していると、不意に何かが飛んでくる音がする。
それが聴こえたのはたまたまであると同時に全身に緊張が走った。
コツン……。
それは、刺さることもなくただ虚しく純白の鱗に弾かれ地面に刺さる。
それを見ていた周りの竜種が、怒号が混じった感じに吼え出すと、更に数体降りて来て、彼らを囲い出し逃げれないようにした。
目の前の純白の竜種はそれをただただ傍観するだけであり、止めようとしない。
流石にやばいと思ったのか精霊樹様が前に出ようとした瞬間
エスタスちゃんの目が覚める。
それと同時にただ一言。
「……うるさい」
その瞬間、吼えていた全ての竜種が静かになる。
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