第11話 記憶とやらかし
視界が次第に鮮明になるにつれ耳を塞ぎたくなる程に周りがうるさくなってくる。
そして、ただ条件反射でつい「うるさい」と、小さい声でつぶやく。
もちろんそれは少し離れれば聞こえる事すら難しい程の声量だった。
にも関わらず、先程まで聞こえていた音が全て止まりただそこには静寂のみが残った。
「……ねぇ周りどうしちゃったの?」
唯一見えるのが、白い巨体に、抱きついているイリスの後頭部それ以外見えない為、周りの状況が一切把握出来ない。
すると、目の前に、大きな瞳を持った顔が近づき、語りかける。
「起きたか……ふむ、見た感じ外傷も全て上手く治ったようだな」
目の前のそれは優しく語りかけ、そして何処か泣きそうな気がした。
なぜそう思ったのか私にも分からないだけど既にゆっくりと鼻先を撫でていた。
「……ごめんね、元気してた?」
「……貴様が居なくなったのが分かってから千年以上だ貴様は今まで何をしていた」
その言葉に目を見開く。
千年……。
まさか千年以上の差があるとは思わなかった。
繋がりがあるからこそ一緒に来てるかと思っていたが……。
「私も分からないんだ……昨日気づいたらここにいたから」
「……寂しかった?」
「ほざけ……な訳なかろう……」
そう言いながら、鼻先を私の顔に付け、甘えるかのように喉を鳴らす。
言動と行動がまるで合っていない……。
ゆっくりと彼の鼻先を撫でていると、何かが自分の身体に流れ込んでくる。
それは、彼の今までの記憶に感情といった、彼に関しての千年分以上の情報だった。
戸惑い、悲嘆、絶望、焦燥、虚無といったマイナス面ばかりの感情がずっと流れ込んでくる。
それのおかげと言えば良いのか……。
相当荒れてもいたらしい。
記憶の中には、ありとあらゆるものに喧嘩をふっかけてる様子が見られる。
そして時が進むと、これは……人だろうか?話しかけられているが、彼はずっと無視をしている。
彼に話しかけられる言葉は、どれも誰が聞いても、利用してやろうとしてるのがわかる。
生贄を捧げたり、宝石など高価な物を与える等の行為までしても、一切なびかない彼に痺れを来たした人間達は、あろう事か剣を手に取り、そして竜の逆鱗の隙間に剣を突き刺してしまった。
そこからは、まさに地獄だった。
目を覆いたくなる程の殺戮を繰り返される。
そして、大陸を滅ぼした後は、永い眠りに着いていたのか飛び飛びで記憶が進んで行く。
そして気づいたら、1匹の竜が近づいて来ていた。
その竜に、私は見覚えがある。
繋がりのある1匹だ。そしてそれが要だったのか。
次第に1匹、また1匹と彼の元に、私と繋がりのある竜達が集まってくる。
彼は、集まってくる竜達を見て久々に微笑みながら
「……こうも多いとやはりうるさいな」
そう呟きながら、竜達を見つめながらまた眠りにつく。
そして、記憶は最新の物にえと変わっていく。
流れてくる直近の記憶を見て、つい顔を歪めてしまう。
これは非常にイケナイ……。
正直、彼の記憶を見ている間、冷や汗が止まらなかったが、どれも大昔の事と割り切っていた……が。
これは本当にまずい気がする。
正直に言って彼の行動が伝わってない訳がない!!
確実に、伝承とかに残っているレベルの出来事であり、そんな生物が大量に、しかも国の真上を飛んで来たんだ。
確実に、パニックになっている。
しかし、今はどうにもする事は出来ないが、とりあえず目の前の出来事の後処理だけでもしないと。
彼の鼻先をポンポンと優しく叩くと、名残おしそうに離れていく。
「とりあえずひとつ言わせて……」
「なんだ?」
「やらかしすぎ……」
「そ、それは!!貴様がっ!!」
「そんなの知らないよ、そんな子に育てた覚えなんてないよ私?」
それを言われた瞬間、その場で、ものすごく落ち込み固まってしまった。
しかし、これはこれで好都合だ、今は確実に邪魔になるに違いない。
用が出来ればこっちから声を掛ければ良い。
抱きついて、ずっと泣いているイリスの背中を叩く。
竜達に囲われて萎縮している人達に、事情の説明や謝罪もしたい為にも動かないといけない。
「イリスさん……大丈夫ですから少しだけ手伝って貰ってもいいですか?」
「……本当に大丈夫なの?」
「えぇ……この通り喋れてもいますし身体のどこも痛くもありません」
そして、竜達が囲っている人達の所に行きたい事を伝え、立ち上がろうとする。
「おっと!!」
「あぶないっ!!」
足に力がほとんど入らず、倒れそうになる所をイリスが慌てて支えてくれる。
それに、勢いよく立ったせいなのかめまいも酷く頭痛もする。
「血が抜けすぎたのじゃろう……大丈夫か?」
精霊樹が話してきた。
そしておもむろに指を指してる方を見ると……。
赤黒い水球が空中でさ迷っている。
なるほど……確かに、あの量が身体から抜ければ不調になってもおかしくない。
「ごめんなさいイリスさん出来ればあそこまで肩を借りても良いかな?」
「い、良いけど危ないよ!?」
確かに、あれの足元まで行こうとしてるんだ普通なら止める。
「大丈夫だよえっと……」
「ねぇ!!落ち込んでないで皆を帰らせてくれない?」
落ち込んでいる彼に話しかける。
少し大きい声を出してしまったせいか一瞬だけ頭痛が酷くなる。
一応、自分でも無理やり帰らせる事は可能だと思うが、多分今はそれはしない方がいい気がする為、彼に任せる。
「分かった……がしかし」
そこから先を言わないが、考えてる事はこっちに流れてくる。
どうやら次、また居なくなるかもという不安でいっぱいのようで。
それに、色々とやらかしたせいで呼ばれないのではという想いも伝わってくる。
「大丈夫だから、ちゃんと私はここにいるから……ね?」
「時間も出来たらちゃんとこっちから呼ぶから今日は皆を連れて帰ってくれない?」
「分かった……」
見た目とはそぐわない覇気のない返事をすると、その場で、羽ばたき空えと上がっていく。
それにしても、間近で受けてるからか風圧が凄く、砂埃も物凄く舞い目を開けているのもやっとのほどだ。
そして、完全に空中に上がるとおもむろに吼え出す。
人を囲っていた竜達は空に上がり、全ての竜達が、空に上がったのを確認すると、もう一度吼えると全ての竜達はそれに従うかのように何処かに飛び去って行った。
「ね?大丈夫だったでしょ?」
「……一体何者なの?」
ん〜、何者かと言われると私って何者だろう?
エスタス本人かと言われたら違うとも言えないしそうとも言えない。
難しい所だ。
どう答えるか考えていると。
「無理に聞くではないこやつにも色々と事情があるのだろう」
精霊樹が助け舟を出してくれ、同時に
(……お主の正体を知っておる皆にバレるのは今はまずかろう隠すのじゃぞ)
そう耳打ちしてくる。
それを聞かされ、何をどこまで知っているか聞きたいが、今は目の前の事に集中しよう。
「そっか……まぁ人には隠し事位あるもんねごめんね」
うぅ……そんな目で見ないでくれ。何故か罪悪感に襲われてしまう。
そして2人に肩を借りながら、集まっている人達の元に向かう。
そして、彼らを見て、私達は絶句してしまう光景を目の当たりにした。
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