第33話 竜娘、再会する
……疲れた。
この街に来るや否や突発依頼で拘束されてしまいあの娘を探す事が出来なかった。
それと来て早々だった為、宿をとる事も出来てなくギルドの宿直室を借りる事に……。
……しかし一人っきりだったら気が楽だったのだけど数人と相部屋になってしまった。
まぁだから何だって話なのだが皆既に疲れきっている。自分が落ち着ける場所を確保すると数分で寝息が聞こえ出す。
私も随分と疲れているのだろう。
物凄い勢いで睡魔が襲いかかってくる。
今日はもう寝よう。明日起きたら探そう……。あの人の占い通りならここにいるのだから。
疲れきった身体を壁に預けると気絶するかのように意識を手放した。
……最初は本当にただの偶然だった。
あの日は急に森がざわめき出したから変だと思い森の調査を始めた。
最初は魔物が出たのかと警戒をするがそんな痕跡はなくむしろ静かだった。
「……いやに静かすぎる。さっきまでの荒れ具合はなんだったんだ?」
異様だった。
いつもならどこかしこに小動物や宝石獣の気配が感じれるのだが今日に限って異様に少ない。まるで何かから隠れているかのようだが……。
仕方がないこの先にある草原の方まで行ってみよう。あそこなら全体が見渡せる筈だ。
警戒を強めながら歩みを進めた。
そんな時だった。
小さな気配が速度を持って移動しているのを感じた。
咄嗟に腰のナイフに手を当て気配を消し対象の気配に注意する。
敵意は……感じない。
動物か?それにしては大きい。かと言って大人の人間にしては小さい。
そんな気配に気を取られていたせいか不意に近づく気配に遅れた。
……しくった。
急いでナイフを抜き構えその気配の主と目が合う。
それはこちらをジッ見つめながら耳を動かしながら警戒をするとすぐに何処かに消えた。
「……ビックリした。宝石獣か」
ナイフを持った手の力を抜き大きく深呼吸をする。
動悸を落ち着かせ気になる気配の方に少しづつ近づく。
そうこうしている内に気配が目と鼻の先の距離になんなら既に目視できるまでに……。
……子供??それも竜人族が何でこんな所に。……ん?ということは森がざわめいていたのはあの娘が原因って訳か。
さてもうすぐ日が沈む。このままでは森はすぐに暗闇が支配されこのままでは私まで迷子になってしまう。
あの娘を置いておく訳にはいかないと思い不用意に近づいてしまった。
それが引き金になったのだろう。
堰き止めていた感情が決壊し大粒の涙を流しながらその場でうずくまりながら泣き叫んでしまった。
私たちの出会いはそんなのだった。
第一印象はただの子供。興味が示される感じはしなかった。
その後はどうにか落ち着かせて村まで一緒に帰宅した。その間に一応彼女について聞いてみたが曖昧な答えばかりだった。名前も分かり村の名前まで知っているのに自分が何者なのかどこから来たのかが分かっていなかったのはビックリした。どこから見ても竜人なのに……。
そうこうしている内に村の前までたどり着くも相当疲れていたのかその場で倒れてしまった。
村の門番も私も慌ててしまう。
「ど、どうしよう!!」
「医者!!医者に連れてけ!!」
確かに医者だ。
あまりの急な出来事に混乱してしまっていた。門番の言う通りに彼女を抱えて急いで向かう。
最短距離で向かった為に息切れを起こしながら扉を勢いよく開ける。
「ごめんなさい!!この娘を診てもらってもいいですか!!」
「あら?イリスちゃんじゃない急いでどうしたの?」
落ち着いた女性が迎える。彼女は私に何かあったのかを簡単に状況説明をさせると診察台に置くようにと部屋の奥えと一緒に向かう。
「……どうですか?大丈夫??」
「……何で連れてきたの??」
「倒れたから……」
「そうよね。でも至って健康よこの娘。まぁちょ〜っと寝不足気味だけどそれ以外は健康そのものね」
「それにしても貴族の娘がなんだってあんな森に……」
「貴族なの??」
「えぇ。どこのまでってのは分からないけどこの角の立派さは純血種に現れるものね」
貴族だったのか。
それにしては一人だったけど……。普通、護衛なりなんなり付けてるものじゃないかな?
「さぁそこは知らないわ。何かしら事情があったってのは確実だろうね護衛も何もいないなんて。……もしかしたら異端児ってのもあるかもだけどそれだとここまで成長させておいて捨てるってのも変な話だけどね」
「まぁ憶測なんて人の時間を無駄にするただの愚かな行為はここまでしよう。彼女とて自分が寝ている間に変な事なんて言われたくもないだろう?」
……ごもっともです。
仕方ない。今日はもう帰るかと立ち上がろうとした瞬間
「え?連れて帰んないの?」
「なんでよ。ここ診療所でしょ預かってよ」
その言葉にめちゃくちゃ嫌そうな顔をされる。
「やだ……」
え?
「やだやだやだやだやだやだやだ!!!!!」
えぇ……。
大の大人の駄々こねとかすごいみっともない行為を目の前で行われなんて……。
「やだやだ!!せっかく今日久々に患者ゼロだから帰ったら酒飲んで惰眠を貪ろうと思ってたのに……。嫌だぞ!!今日だけは絶対に受け付けんぞ!!」
「いや……「やだ!!」」
「しかし……「断る!!」」
困った。
ここまで強情だとは思わなかったが仕方がない。
「わかった。とりあえず私が引き取るけど今日の診察代ぐらいは無料にしてよね」
「よっしゃ!!良いよいいよ。全然かまへんで」
結局彼女の必死な抵抗により私がそのまま引き取る形に仕方ないと呆れながら彼女を起こさない様にゆっくりと抱き抱え帰路についた。
「ただいま戻りました〜」
「あらあら。おかえりさなさい」
玄関の掃除をしながら挨拶を返してくれるこの人はこの宿屋の主人のカナエさん。
「……あらあら。その娘はどうしたの??」
「実はですね……」
今日あった事を話した。
「なるほどね〜。良いわよ幸いこの宿屋は部屋だけは無駄にあるからね。まぁとりあえず今日の所は同じ寝床で良いかしら??掃除もしないとダメだから」
まぁそのぐらいなら構わない……かな?快く了承する。
許可も貰えたのでとりあえず自分の寝室に向かいベッドに寝かせる。
あんだけ心身共に疲弊してた状態だったの見ていた手前、気持ちよさそうに寝てる所を確認できたのは正直安心した。
少しだけ彼女の様子を見て特に変わりようもなかった為音を殺しながら部屋を後にする。
いい匂い……。
少しだけ歩く速度を上げ階段を降り食堂に向かう。
そこではカナエさんがご飯を準備をしていた。
「あら。あの娘はどう??」
「ぐっすりです」
「それは良かったわ」
そんな適当な会話を交わしながらも彼女は手が止まる事無く慣れた感じで夕食が完成させていき物の数分で気付けば私の前に並べられていた。
「それでは、いただきます」
「どうぞ〜。召し上がってくださいな」
はぁ〜これこれ。これだよやっぱりカナエさんの料理はいつ食っても美味しい〜!!
今日使った体力を補充するため明日使うエネルギーの為に美味しいご飯を頬張っていると先程までニコニコしながら眺めてたカナエさんが話しかけてくる。
「……あの娘とは仲良くしとくのをオススメしとくわ」
不意にきた真面目な声色でビックリする。
「な、なんで……」
「それは言えないわ。でも貴女の為とだけ言っておくわ」
あまりにの突拍子のない言葉に困惑するがこの人が意味も無くこんな事を言わない事は昔から知っている。
「分かった。とりあえず心に留めておくわ」
食事を済ませお礼を言いそのまま寝室に戻る。
風呂に浸かり寝る準備に入ると同時に軽く明日の準備もついでに済ませる。
明日はこの村の案内でもしてみよう。多少の気晴らしにはなるだろう。
そんな事を考えながらその日は眠りついた。
その時までは善意と言うわけでもなく。むしろあの人の言葉通りにするであればむしろ下心に近かっただろう。
ただそれも朝を迎えてあの傷を見てからその心が少しだけ庇護するべき存在えと傾いた。
健康的な肉体にそぐわない見た目の大きな傷……。普通のナイフや剣等ではないそれよりも刃渡りの大きな物で付けられたのであろう。見ているだけで同じ所が痛くなる程に痛々しいそれを見て不意に声を掛けてしまった。
……や、やらかした。
ビックリした彼女の尻尾によって手痛い攻撃を受けてしまった。
彼女は謝罪をするが元よりこちらが急に声を掛けたのが悪いのだ。
すぐさま平気なフリをしてそして傷について触れてみたがものすごく曖昧な感じではぐらかされてしまった。
流石に聞かれたくもない事をずっと聞かれるのは彼女とて嫌なのは当たり前ですぐに私は引き下がった。
彼女が着替えを済ませるとほぼ同時にお腹のなる音。
私ではなくそれは彼女のお腹から。どうやら昨日から何も食べていないとの事だった。
すぐさま食堂に向かうと既に食事はあらかた準備済み、あとは温めるだけ……。
のだが何故か私が温める羽目に……。
まぁ良いや、ぱっぱと温めてしまおう。
二人分の食事を用意し少し遅めの朝食を頂く事にした。ただ予想外な事に急に彼女が泣き始めた事にはビックリした!!
どうにか私とカナエさんは彼女を慰める。
最初ほどの勢いの涙を流すことは無くなったが止まることない涙を流しながらどうにか食事を済ませる事に……。
「落ち着いたかしら??」
カナエさんの言葉に彼女は頷きながら目を擦る。それを見ていたカナエさんが制止させるとすぐに台所に行き濡れたハンカチで押さえるようにと渡した。
そうして今後どうするのか。
そんな話し合いをした結果とりあえずの形でこの宿屋に泊まることになった。
……何故か私負担で。
まぁ、いい。元よりここまで連れてきたんだここにいる間は面倒をみようと思っていた所だったんだ。
……結局その決意もこの日だけで終わってしまったのだが。
その後は彼女が外を見たいとのことで一緒に散策する事に。
出来るだけ彼女が楽しそうにしてくれる場所を選びながら一緒に歩いているとほぼ同時に腹がなってしまった。
二人して少し照れくさそうにしながら昼食にした。
その後は市場エリアを抜け生産エリアにそこで色々と見て回る。
正直販売エリアにいた頃より目を輝かせていたのはビックリしたた。
ただその後値段を言うとものすごいビックリしたのは少し面白かった。
彼女でも見た目相応の反応をするんだなって……。
そうして二軒目となる鍛冶屋に入る。
入るや否や出迎えるのはこの鍛冶屋の親方のエマだ。
珍しい。いつものは裏で武器を試作したりで表に出てこないのだが……。
「おや、こっちに客人とは珍しいっすね〜」
「こんにちは〜この娘の見学なんだけど見ていって良いよね?」
「お〜イリスちゃん!あとそちらは初めて見る娘っすね?全然良いっすよ〜手に取って見ても良いっすよ〜」
「あの……。ありがとうございます」
そう言うと彼女は部屋の中を歩き回る。
どれも珍しそうに見てる様子はとても微笑ましい。がどれも普通に流通しているものばかり物心がついた人なら見た事が無いなんてありえないのだが……。
そして気付けば一本の剣の前にそれを彼女が持っていいかの許可を得ると恐る恐る手に持ってみようとしたその時だった。
それを抱えあげる事も出来ず勢いよく音を立てながら地面に落としてしまった。
彼女は咄嗟に謝るがエマは気にしないでいいと笑って許してくれる。
……初めて見た。
武器が持てないってのは聞いたこともない。どれだけ適正値が低かろうが最低値の位置にある武器はどんな人間子供ですら持てるものなのだが。
なるほどもしかしたら彼女があんな所に居たのはこれが原因なのだろう。竜人族は根っからの実力主義。力無き者に人権無しとまで言うほどの種族。
ましてや貴族だ。あれらは面子を最も大事にする。一族から欠陥品が出たと知られれば他から舐められるだろう。そうならない為には一族から無き者にするのが最もだろう。
無言のまま鍛冶屋を抜け気付けば精霊樹の広場にたどり着きそこにある長椅子に二人とも座る。
互いに沈黙が続く。
果てしなく気まずい……。
しかしここで怯えて彼女の事を聞かないと何かが終わってしまう。そんな事を感じ意を決していざ口を開いた瞬間だった。
「なんじゃ〜お主から随分と不思議な魔力溜りを感じるのぅ?」
誰だ!!と一瞬不快な思いを募らせながら振り向くが一瞬でその思いは削がれる。
まさか。まさかだ。ありえない人前にポンポン出ていい御方では無いはずだ。
即座にその場で跪く。
怖いとかではなくむしろこれは敬意に近い。
エルフ種にとって精霊樹は唯一の信仰対象であり、そんな存在の半身が目の前に現れれば頭を下げずにはいられない。
しかしエルフ種の信仰対象とはいえ他の種族から信仰されていない訳ではない。
精霊樹はその土地の守り神的存在。故にそれ相応の扱いを他の種族でもされている筈で竜人族とはいえ相応の態度というものは必要なのだが……。
彼女は至って普通だ。
多少の戸惑いもある感じだが普通に接している。
余程の豪胆か……。余程の世間知らずなのか……。
不穏な単語が並ぶ会話が続く。
魔力溜りやらなんやら……。私も長い事生きているが聞いた事すらない。どうやらそれが原因で武器が持てなかったとか。ならばそれを解消する方法は?
それを聞こうとした時だった。
彼女の身体に異変が起きる。
何かが壊れた様な音と同時に彼女が吐血する。
あまりにも急な出来事に一瞬だけ思考が止まるもすぐに精霊樹様の声で現実に戻される。
精霊樹様の指示に従いながらどうにか延命措置を行いすぐに医者を呼びに走り出し広場を出た。
「何だってんだ!!昨日は何も問題無いなんて言ってた癖に大アリじゃないか!!」
愚痴を零しながら最短距離で向かうが……何かが何十と通過するのを見て優先順位が医者からあの二人の傍にと変わり即座に反転。
何なんだアレらは……。
竜??にしては存在感が違いすぎるしそもそものスケールが違いすぎる。
……一匹の竜?が精霊樹様と何か言い合っているとそれは急に彼女を口に入れる。
は……??待ってまって。何してんのよ!!!
この時だけは何故かは分からない自分でも狂っていたと思う。
すぐさま近寄りナイフを持ち襲いかかろうとしたのだが、それも精霊樹様に腕を引かれて未遂で終わる。
「あれは厄災そのものだ……命ある物が勝てる生き物ではないのだ」
厄災って……。
そんなおとぎ話みたいな……。と思いながらも私の知っている話を精霊樹様は語る。
そしてどうやらその話に出てくるソレが目の前のそれらしい……。
乾いた笑いが出てくる。
仮にその話が本当に起こった出来事だった場合ここら一帯は焼け野原になるだろう。その場にへたり込んでしまう。彼女を守れなかった不甲斐なさとこれから死んでしまうのではという絶望によってただただソレを見つめる事した出来なかった。
……しかしそれは少しの間、咀嚼音?をさせた後勢いよく吐き出す。
視線がソレから吐き出されたものに移動する。
恐怖でこわばった脚を必死に動かし近付きそして抱き抱える。
規則正しい呼吸が耳元に聞こえる。
良かった……。生きてる。
彼女の安否が取れると抱えている腕をより一層強める。
後はどうにかしてこの現状を打破するべきか……。そう考えていながら周囲を観察する……。
「貴様はそれの友か?」
意識外からの急な問答に戸惑う。
友……。と言われたら違うだろう。昨日今日あったばかりの関係だ。ただ今は友にもなりたいと同じくらいもしくはそれ以上に彼女を守りたいという気持ちが強い。
過去が一切不明で力も無い少女が一人っきり。友達も家族も居るかも分からない下手をすれば味方がいるのかさえも……。それはあんまりにも寂しいではないか。
たとえ動機が不純だとしても今の私は彼女と一緒に居たい。
「友達に……なりたいと私は、おもっている!!」
「……そうか」
ほんの数秒。
ソレは私の返事を聞くや否やただジッと見つめるだけ見つめそして小さくそう呟くと興味をなくしたかのようにそっぽを向く。
それを確認すると同時に大きく息を吐く……。
怖かった……。存在感が威圧となって全身にまとわりつく。行動の一つでもミスをしたら殺されてしまうのではと思うほどだった。
そんな存在と縁があるこの少女は何なのだろうか……。
竜人だから竜と縁があるのはわかる。しかし目の前のソレは私の知る竜ではない。伝説的存在。あのおとぎ話通りであれば地域によっては禁忌とさえ言えるだろう。
そんなのが何故この少女の為に……。
そんな事を考えていると周りがザワつく。どうやら討伐隊が組まれたみたいで気付けば周りには武器を手に持った冒険者と傭兵立ちでごった返しになり今にもソレに襲いかからん気迫でいると上空で滞空していた竜種達がその人たちを囲う形で降りてくる。
皆が呆気に取られているのがチラチラと翼の隙間から見える。先程まで傍観していた竜種達が急に活発になったからだ。
そして多少の距離はあるものの流石にこの数の咆哮は耳を塞いでしまう。
あそこにいる人達はそれを間近で受けているが大丈夫だろうか……。
しかしそんな心配をしていると一本の矢がソレに当たる。何処かに隠れていた弓兵が放ったのだろう。
馬鹿だ。明らかに今放つタイミングではなかっただろう。それに彼らの行動から見てそれは確実に悪手だろ。
更に数匹降りてくる。それと同時に先程までの咆哮が優しく思える程に咆哮の声量が一気に変わる。
あそこにいる竜種も上空に居る竜種も目に見えてガチギレ状態。
そんな中一際目立つ声が私の腕の中から聞こえた。
それはたった一言。普通の声量にも関わらずそれはこの咆哮の中で綺麗に聞こえた。
その一言が発せられると全ての竜種が静かになる。
異様な静けさ。全ての生物の音すら聴こえない。全てが彼女の一言に従ったかにすら思える程に……。
彼女が静かに起き上がる。
かなりの量の血が抜けたからかもの凄くフラフラになりながらソレに近寄ろうとするので咄嗟に手を掴んでしまうが彼女から「大丈夫」の一言でゆっくりと離す。
話は良く聴こえない。
しかしかなりの親密な関係に思える程にソレは甘えるかのような仕草をとる。
しかしそんな状態もすぐに終わる。
ソレが大きく咆哮すると先程まで地上に居た竜種は空に戻りソレもまた大きな翼を広げて大空えと飛び上がりソレは竜種達を従えてそのまま何処かへと飛んで行った。
その後は怯えていた人達を介護しようと触れたのだがそこからの記憶が曖昧になっている。
気付けば全てが終わっていた。
ただ覚えている事といえば何かに喰われ続ける。そんな記憶のもが脳裏に焼き付いていた。
皆を解散させた後少しだけ難しい話が続く。
ボーッとした頭をどうにか回転させながら二人の話を聞くと少し彼女について知れた。
彼女は所謂古代人という奴だ。
昔から場所も時間も時代も不明だが不定期的に現れる人達の総称。彼女もその一人だと言う。
……驚いた。
まさか目の前の少女がそんな人物だったとはとてもじゃないが信じられない。
しかしアレらや現在何故か虚空から無限に道具を取り出している様を見ているとそれが嘘だとは思えない。
……そうなると私は別に必要無いのかもしれない。
一瞬だけそんな事を考えてしまう。
古代人は皆して何かしらの力を持っていると聞く。それなのに私は彼女を護りたい等というあまりにもおこがましい考えをしていたのだから……。
二人が楽しそうに話をしている他所で私だけが少しだけ疎外感を感じてしまう。
「…………。」
「よし。それじゃ私達はとりあえず帰るわ。もう空も暗いしね」
「なんじゃ。もうそんな時間か」
本当だ。気付けば既に夜になっている。
私達は最後に精霊樹様に挨拶をするとその場から立ち去り宿屋に戻る。
「……大丈夫ですか。先程から上の空ですが」
どうやら心配をかけたみたいだ。
「大丈夫!!ほら幻惑見てたでしょ。それのおかげさまか頭が上手く働かないって感じかな」
「大丈夫!?まだ完治できてなかったのかも!!いっぱい薬ならあるよ飲む!?」
ものすごく慌ただしく彼女は色んな薬を抱えながら取り出し私に押し付けてくる。
「ありがとう。大丈夫だからそれ等はしまってね」
「……で、でも」
「大丈夫。今日一日ぐっすり眠ればこの程度すぐ治るから」
「イリスさんがそう言うなら……」
……負い目を感じているのだろうか。
「それじゃあこうしよう。今日一緒に寝てくれる?私の抱き枕になってくださいな」
「なっ!?」
これは押せばいけるのでは……。
「あ〜頭痛いなぁ。一緒に寝てくれないと後遺症残るかもなー」
わざとらしすぎただろうか……。少しだけ恥ずかしくなってきたがもうここまで来たのなら最後までやりきってみせよう。
「し、仕方なし。私に拒否する権利無し良いでしょう!!受けて立ちましょう!!」
ものすごく恥ずかしそうにしながら私の前に立ち腕を組みながらそう答える。
少しだけテンションが上がったのかもしれない。
そのまま彼女を抱えて宿屋までそのまま帰る。
その後は食事を済ませ風呂に入りいつもの寝る前に明日の準備を軽くする。
そうしてベッドに入り二人で明日は何しようか?と話をしている内に気付けば私は深い眠りについてしまう。
それが彼女との最後の会話になると知らずに……。
起きた時には隣に彼女の姿はなく。
机の上に一枚の紙とパンパンに詰まった鞄が一つ置かれていた。
紙には色々な事が書かれていた。
親切にしてくれてありがとう。
初めて会ったのが貴女で良かった。
急に居なくなる事を許してください。
書きなれていない文字だったのかは分からない。所々ペンで塗りたくった様な所が目立つし文字も汚い。
彼女がどんな思いでこの手紙を書いたかは分からないがこんな別れ方は違う気がする。
手紙を机に叩きつけ旅の準備をする。
彼女が何処に行ったかなんて分からない。この広い世界でもう一度会おうとするのは容易ではないのはわかっている。
しかしそれでも私は諦めるつもりはない。
ドタバタとしてたのが気になったのだろう。
扉がノックされる。
「どうぞ」
「……朝からドタバタどうしたの?あら?貴女一人なの?昨日一緒に寝てたわよね」
「そこの手紙に全て書いてあるよ」
「あら、読んでも??」
頷く。それを確認したカナエさんが手紙を手に持ち読み進める。
「あらあら、出ていっちゃのね。若い子は元気ね〜。なるほどそれで貴女はあの娘を追うつもりね〜」
最初に出てきた感想がそれって……。貴女は相変わらずって感じだ。
「……でもこれじゃあ。あの娘は何処に行ったか分からないわね。貴女どうするの〜?」
「そこは……すみません。貴女の力を貸してください。カナエさん」
準備を中断し頭を下げる。
「……まぁそうよねぇ。当てずっぽうにこの大陸を練り歩くだけじゃ再会何て無理よね〜」
彼女を知る人はもう少ない。
何処にでも居て何処にも居ない。条件も場所も不明。しかし本当に困った人の前にだけ現れそしてこう言うらしい。
『あら。大丈夫??困り事ね大丈夫私が占ってあげるわ。任しなさいあなたの悩みを解決に導いてあげる』
それが今目の前に居るカナエさんという人物のもう一つの顔だ。
大昔から存在するという噂もあるがそれは定かではない。付き合いの長い私ですらそれを知ったのはここ数年の事。
もちろん昔から占い事が好きなのは知っていた。運勢占いや星占いタロット占いとありとあらゆる占いを子供の頃からしてもらっていた。
そして彼女の占いは百発百中外れた事が何故かなかった。そして噂は世界中にそして色んな人達が彼女を躍起になって探すがその噂が広まってからは彼女に会えたものは居なくそれと同時に以降、彼女は人に占いをする事は無くなった。
「……まぁいいわよ」
そのまま何故か何も道具を出す事無くむしろ顔を横に向きそしてそのまま続けた。
「そうね。海が近い場所に行くと良いわね。。……あらあのお魚美味しそうね今日はお魚料理でも食べようかしら。」
後半ものすごく私情が入ってた様な気がするが……。
「……海。一番近い場所でもここらだと一瞬間掛かるな。急がないと着いた頃には移動してるかも」
中断していた作業を再開する。
「そんなに慌てないでも良いわよ。近くまで送ってあげるから」
え。どうやって……。
私が聞こうとする前にカナエさんが行動する。
両手を前にそして勢いよく手を叩く。その音は人の手からとても出るような音量でなく……。
パァン!!!
その音を聞き思いっきり身体が跳ねる。
それと同時に視界が変わる。
「…………あれ。夢か」
壁に寄りかかって寝ていた身体はいつの間にか寝そべりながら寝ていたようで目の前には木目の壁が迫っていた。
身体を起こし止まっていた頭を少しづつ動かす。欠伸をしながら目を擦っていると聞き覚えのある声が聞こえる。
「おはようございます。イリスさん」
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