第38話 竜娘、旅を始める
変な時間に寝たせいか真夜中に起きてしまう。
……見渡す限りにはイリスはいない。洗面所やトイレ等も見てみるが戻ってきた痕跡すらなくあれから一度も帰ってきてない事だけが分かった。
とりあえずベッドに腰掛け自分を落ち着かせる。ただただボーッとし変哲も無い天井を見つめる。
……自分が間違っていたのだろうか。
やはり急な誘いはダメだったのだろうか。まぁ普通に考えて得体の知れない人物に急に一緒に旅をしようなんて言われたら逃げたくはなるしなんなら私は逃げるを選ぶと思う。
そうして色んな事が頭の中でごちゃ混ぜになっていると次第に苛立ちを覚えてくる。
なんで私がこんな悩まないといけないんだ。
居ないなら居ないで別に困らんだろうし何なら一人の方が自由に行動できてストレスも溜まらないんだから良いことじゃないか。
あ、そう考えるとなんかどうでも良くなってきたかもしれない……。
そのままベッドに横になりネットサーフィンでもしながら暇を潰そうと手を伸ばし探すが途中で無いことに気付き無を漁っていた手は虚しくそのままベッドに埋もれる。
……困った。
どうやって時間潰そう。
そう物思いにふけながら壁を見つめ事のみが今現在許された娯楽状態。
いや、あるやん。いい感じに暇を潰せそうなのが!!
そうして出すのは視界いっぱいに広がるステータス画面そこには自分に関する情報が全て記載されておりタブを変えれば職業スキルや道具等といったものに変更できる。
まさに今暇な状態にうってつけのもの。
多少なり時間がある時にいじったりしたがそれでも全てを見たわけではない。
使えるスキルや道具といった分別が未だに終えていないのだ。
道具だけでも万単位の数がありそんな数となれば数日で精査など出来るはずもなくなんなら十分の一すら終わっていない状態である。
スキルの方もとりあえずと思い比較的数の少ないパッシブ関係だけでもオンオフを済ませたのだが戦闘面に関するスキルや魔法といったものが終わっていない。
ただでさえ馬鹿みたいに高いステータス値のせいもあり無闇矢鱈に繰り出す訳にもいかない為これも保留していた。
……とりあえず戦闘スキルと魔法はあそこで確認しながら分けよう。
そう思いながら戦闘スキルと魔法が表示されてる画面を取り消しアイテム類の分別作業を始める。
しかし最初のうちは楽しくやるのだが同じ様な画面で同じ様な文章が延々と続くと次第に睡魔が襲ってくるわけで……。
どうにかきりの良い所まではと気合で乗り切ろうと頑張ってはみるものの場所がベットというのもありちょっと体勢を変えて瞼を閉じればほら楽しい夢の中へと連れていかれる訳で……。
「!!?」
「やばっ。、完全に寝落ちしてた。待って今何時……」
勢いよく時計に視線を移す。
一気に思考がフル稼働する。チェックアウトまで残り三十分。
「やっば。めっちゃ時間ないやん!!」
急いで身支度をする。
ドタバタと起きたばかりとは思えない程の俊敏性を見せながらギリギリで全てを終わらせる事に成功。最後に一応と忘れ物がないかを確認を終えるとドアノブに手を掛け部屋を後にする。
早足で廊下をそして階段を駆け下り受付まで進む。
「すいませ〜ん」
「はいはーい」
そしてやはりと言うべきか裏から出てくるのはカーマさん。
そういえば結局私の対応はずっとカーマさんだったなぁ……。暇なのかな?とそんな事を考えながら鍵を机の上に置く。
「はい。確かに受け取りました。……どうでしたかうちの宿は」
「快適も快適でしたよ。次回があるならまた利用させてもらいますよ」
「それは良かったですそうえいば王都に向かわれるのですよね?」
「そうですね今の所の最終地点は」
「でしたら王都には私の本店がございますのでもし良ければ寄ってみてください。ここでは宿屋のみの商いですがあちらでは色んな商品を扱ったり店もございますので」
「へぇ〜それは楽しみですね。もし王都に寄った際には必ず寄らせてもらいますね」
チラッと時間を見る。
「おっと申し訳ございません。長居させてしまいましたね。それでは良い旅を願っております」
「ありがとうございます」
適当に挨拶を済ませ宿屋を後にする。
何だかんだで本当に居心地が良かった所だった……。王都にもあるって言ってたなぁ。しかし王都で構える宿かぁなんか想像できないけど相当豪華なんだろうなぁ。ともし王都に着いたら利用させてもらおうかなと頭の片隅に置いておく事に。
そして門に向かう道を歩いているとどこからともなく猫の鳴き声がする。
探そうと辺りを見渡そうとする間もなく受けから勢い良く落ちてくる。
「グエッ!!」
猫とは思えない体重が頭上にのしかかる。
振り払ったり持ち上げようにもがっしり頭に爪を立ててきてこちら側が被害が受ける一方の為諦めてそのままにする。
「それでなによ……」
「……にゃぁあ」
「あぁわからんからいいや」
何かを訴えてくるも会話ができないのだからどうしろってんだ……。
頭に重りを乗せたまま門前までたどり着くも未だに離れないこいつをどうしようかと悩んでいると待っていたのか天城が居た。
「もう居なくなるので?」
「まぁね」
「それも連れていくんです?」
「いやそんなつもりは無いんだけど……。え、もしかして付いてくるの!?」
「……にゃ!!」
「あ。そう付いてくるのね」
なんだ、付いてくるのか……。まぁ一人旅よりは良いかな。
「……僕からなにか言うことは無いつもりでしたがひとついいですか?」
「なに?」
「ここから真っ直ぐ。道なりに進んでください。進んだ先に立て看板があるのでそこまでは決して竜に乗ったりして移動しないでください」
「まぁ元より乗って移動はする気はなかったけど……。なんで??」
……まさかね。
「良いですから。絶対に向かってください」
「そこまで念押しされると逆に行きたくなくなるけどまぁ良いよ」
「よし。それじゃほら、行ってください!!」
勢いよく背中をグイグイ押され門の外に出される。
「それじゃ頑張ってくださいよ」
「はいはい」
「食事はちゃんと取ってくださいね。歯磨きもちゃんと忘れない様に。それと夜更かしないように……」
「お前は私のオカンか!!」
「冗談ですよ」
「はぁ。……いってくるよまたね」
「はい、またどこかで」
別れの挨拶をし一歩一歩と歩みを進める。
さてと、天城が言ってた通りにとりあえず道なりに進む。しかしあそこまで念押しされるって正直期待しちゃってる私がここにいる。
でももし彼女がいなかったら?と考えると胸が高鳴り張り裂けそうな程に苦しい。しかしそんな私の思考とは裏腹に私の脚は早くついて欲しいと言わんばかりの早歩きになっている。
そうして歩く事約三十分。
ようやく立て看板が視界に入るほどの所までに。それと同時に視界には一人の人間の姿が……。
早歩きだった脚は勢いよく地面を蹴って急いで駆け寄る。
イリスが何故かそこで待っていた。
「な、なんでここに」
「……なんでだろうね」
「私はてっきりダメなんだろうなって思ってた。言っちゃえば私達って会って数日の間柄だし……。当たり前かなって思ってた」
「…………私も大分悩んだんだ。でも私が一人で悩んでたら天城さんと蟹丸さんに相談に乗ってもらったんだ。私が付いていていいのかな。邪魔じゃないのかなって……。そしたらなんて言ったと思?」
「……わかんない」
「あのバカ一人だと何するか分からんから付いて行ってやってくれ。だってさ」
そんなこと言ったのかあいつらめ……。
「常識がないから出来れば常識を教えて欲しいなんだって」
じょ、常識ぐらいあるわい……。
「でもね。そんな事よりあいつは君との旅を楽しみしてるから君が嫌じゃ無ければ一緒について行ってあげて。って言われちゃったらさ流石の私も決心つくよね」
あぁ、やばい恥ずかしさで顔が真っ赤になってる気がする。
あいつら余計な事しやがって……。
「それでさもしエスタスが良ければ私と一緒に旅をしてくれませんか?」
彼女は私の手を取りながら私の顔を見つめながらそう言う。
それが私にはあまりにも刺さるものがあったのだろう。既に熱かった顔が更に熱くなる。
「ま、まってまって。近い近いちかい」
「ダメ。返事貰うまで離さいよ」
ふぇぇぇええ。あまりにもトキメキ行動に過呼吸気味になりながらもどうにか自分を落ち着かせ未だに動悸やら酷いがどうにか普通に喋れるぐらいまでには回復させる。
「むしろこっちからお願いしたんだよ。断る理由なんてないよ」
「本当に?」
「本当本当に」
「やったぁ!!
それと同時に離れると程遠く勢いよく抱きつかれる。
そこまで嬉しがってくれるとこちらも嬉しくなってくる。
……しっかし。やべぇな。顔が良すぎる人からのトキメキ行動は心に悪すぎるでしょ。普通に惚れそうになるってこれ。
男とか女とか関係ないわ。これ。
「それじゃ、早速だけど進もっか」
「それもそうだね。とりあえずは王都が最終地点なんだよね」
「その通りだね。まぁそこまで急ぎの旅でもないからゆったりいこう」
そうして私達は王都がある方角の道を進む事に……。
他愛も無い会話をする二人のなんてことない旅路がここから始まるのであった。
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