第35話 竜娘、街に戻る

 


 道具良し。防具良し。そして武器も良し。

 暇すぎて何回も自分の身支度をこれでもかって位に入念にチェックする。

 最初は馬車に檻を設置するとの事で手伝おうとしたが……。


「いえ!!大丈夫ですのでそこで座ってて下さい!!」


「そんな事をさせるなんて……とてもではないが出来ません。座ってて下さい」


「あ〜ダメダメ。座って座って」


 そう言って何故か皆、私を休ませる。

 別に女性だからって力仕事ができないわけではないのにむしろこの身体では力仕事なんて余裕なのだが。

 もしや、あれか!!

 俗に言う姫プという奴なのか!!

 いや〜そうかそうか。ここに来て人生初の姫プか〜。しかしそうなるとこの見た目はいささか姫プの姫には程遠い気がする。


 そう思う彼女の今の姿はとあるイベントで手に入れた体育服であり見た目は上だけジャージ着用という人によっては好みな見た目であるが……。


 ……まぁ姫では無いな。


 確かに色々な防具達を持っている彼女だがそれらはどれも目立つ物ばかり。最序盤で発生したイベントで使うような物じゃないだろうと思いそれらを封印したのは彼女自身だ。

 しかしそれでも過去に経験した事ない姫プというもの。

 それに一瞬でも期待した自分に嫌な気分になった彼女は少しの間不機嫌になりながらも自分が使う道具達を点検した。



 ……しかしまだか?こうも遅いと流石の私も暇過ぎて寝てしまいそうになるのだが。


 頬杖をつきながら準備をする彼らをボーッと見つめる。

 しかし屋根付き荷馬車が彼等の慣れた手つきによって檻になっていく様は正直面白い。

 確かに仕様が分からない私があれに加わり準備をしていたらあんなにサクサク出来ずにもっと時間が掛かっていたのかもしれない。そう考えると彼等が私を除け者のするのも理解できる。


 そうしてそうこうしている内に檻は完成し襲撃者をいれる前に彼等が各々の準備に移る。


 しかしこう見ると意外と装備とかは至って普通なんだよね。

 こうなんというか近未来的武器的なビームサーベルだったり超高周波ブレードだったりした物が主流になってたり異世界系と言えば銃が当たり前に開発されたりしてるのかなって思ったけどThe・異世界って感じの普通の装備しかないのか。

 少しガッカリしたと同時に安堵した。

 しかし既に何人もこっちに来ているのならばそういうのは既に誰かが作ってる可能性があると思うのだが……。

 その時ふと一人のゲーム仲間の言葉を思い出した。


「いや。世界観を大事にしようぜ?いや別にそれが絶対ダメとは言わないぜ?仮にそこが大昔に超高度文明があったりして発掘品にそういうのがあってそれを使うとかはありだけど一から作るのはダメだろ。仮にアリとして判定するなら現代式銃よりかなり昔の銃とかならギリ許容範囲だがそれ以上の文明武器となるとそれは俺らがやるんじゃなくてそこの世界の人間が作らないと世界観が崩れる」


 とか言ってたなぁ……。

 その後も数十分に渡り熱弁されたっけ。文字だけでもすごい圧を感じたのはあの時が本当に初めてだったわ。

 しかしそう考えるとわざと主流にならないように表に出してない可能性とかありそうだな……。


 そんな事を考えていると気付けば皆の準備が終わっており襲撃者を檻の中に入れようとしていた。

 流石にこのままボーッとしているのはまずいだろと自分に言い聞かせ駆け寄る。


「すいません。全部任せっきりで……」


「え?あぁ。構いませんよ」


 よかった。さほど気にしてないみたいだ。


「そういえばこれに何人入れるんですか?」


「……えっと確か八人だったはずです」


 八人……。一人あたりにつき一人ってもしもの事があった場合対処しづらくないだろうか。そんな事を思い少々ずるをする。


 全て襲撃者を檻に入れいざ出発しようとした時に手を挙げる。


「ごめんなさい。少し良いですか?」


 皆が?マークを頭に浮かべながらこちらを見つめる。


「えっとですね。このまま行くにも少々心許ない気がしてですね……。もし良ければなんですけど防御系の魔法を掛けさせてもらっても良いですか??」


 皆が顔を見合わせる。

「えぇ。そりゃもちろんむしろありがたいです。俺ら誰もそっち系に疎いもので……。それにあの蟹丸のご友人で古代人の魔法を拒否する訳ないじゃないですか」


 う〜ん。すごいなこの信用バフ。

 少しだけ蟹丸と古代人バフに引きつつ四つの魔法を掛けていく。


 全ての防御率が二割上昇する物


 物理防御が三割上昇する物


 魔法防御が三割上昇する物


 奇襲対策の一回限りの全攻撃に対して完全防御する物


 この四つを掛けていくのだが……。

 そういえばこれらの効果はゲーム時代のだけどこっちでもそのままなのかな?

 どういう作用するのだろうか??

 物理は肌が固くなるのかな??魔法は……なんだろう。

 う~ん。想像出来んがまぁ異世界だ。魔力がこうなんか都合良くなんかしてくれるのだろう。

 というか今はそんな事を気にしている暇なんてないだろう私よ。

 急いで一人づつに魔法を掛けていく。


 そうしてものの数分で全ての人達に魔法をかけ終える。


 さて、最後に自分にも……っとぉ!??

 全員が頭を下げ感謝を伝えてくる。あまりの迫力に気圧されてしまった。

 というのもどうも防御魔法というのはこんなに持続しないとのことらしい。人が多ければそれだけ魔力も食うためこの人数になると上級の魔法使いでも一人あたり三時間の物しか使えないともことだが。


「そ、そういうものなの??」


「そういうものですね。一日中というのは正直規格外です。それにこれほどまでの効果とこれだけ長時間となると魔力消費量も相当なはずですよね?」


「い、いや~どうなんでしょうか」


 嫌な汗をかきながら視線を逸らし宙に浮かぶステータス画面に映るMP部分に注視する。

 やっべぇ……全く減ってないといえねぇなぁ~。


「生憎、自分で確認するすべを私は持っていないので分かりませんが特にこれといった身体の不調などない所を見るとそこまで減ってないのかもしれませんのでそこまで気にしないで下さい。それより早く出発しませんか?こんな所で時間を費やすのも勿体ないでしょう。私についての質問は道中受け付けますので」


「あ、あぁたしかにそうだな。お前ら出発するぞっ!!」


 あぁ、ありがとうございます!!ありがとうございます!!

 めちゃくちゃ挙動不審で明らかに何か隠してますよ的な感じだったのに察してくれてありがとう。名も知らぬ筋肉さん。


 彼の号令と共に全員が事前に話し合い決めた位置に陣取り荷馬車を囲い。御者に合図を出すと私達はそのまま街に向かって移動を開始した。




 最初の数十分は皆真面目に周囲を警戒しながら進行していたのだが……。

 次第に気が緩み出したのか暇になったのかは分からないが一人が質問しだす。

 それはなんて他愛もない質問だったのだがそれがきっかけになったのか俺も俺もと次々と投げかけてくる。


 何処生まれだとか。何歳なのか。何が出来るのか。逆に何が出来ないのか。昔何をしていたのか他にも色々。


 そういった事を沢山問われあまりにも古代人という者に対して興味津々だということが分かり私も出来るだけの事を答える事にした。


「……はぁ~。やっぱすげぇんだな古代人ってのは」


「……ぶっちゃけ反則級」


「それもあってこその古代人って所もあるよな」


 皆して納得した様な感じで頷いたりする。そしてそこでふと思い質問する。


「でも身近にいたよね?蟹丸だったりとか他の人とか……そこの所はどうなの?」


「あ~蟹丸さんな。詳しくは語ってくれねぇんだよな。毎回はぐらかされるし最終的には「俺はずっと釣りをしていた」って言うんだよな」


 あ~……。たしかにデイリー処理したら釣り場を転々としていたなあいつ。


「他の人達は……なぁ」


 というのもどうやら彼ら曰く何処にいるのかも何もしているのかも分からない神出鬼没であり仮に会えたとしても雰囲気が物凄く近付くなオーラが凄くて話しかけられないらしい。


「……なるほどなぁ。まぁ気持ちは分からんでもないかな~」


「……え」

 一人が小さく焦ったように言う。


「だってよ~く考えて。急に知らない人から質問ばっかりされたりするんだよ?こっちの事情も知らずに。それが毎日のようになればそりゃ嫌気もさすもんだよ。あ、自分はまだ一回しか質問してないとかの言い訳とか無しよ?こっち側にはそんなの関係ないからね」


 皆、口を閉ざし静寂になる。

 あ~これは前科ありかな?いや、それだったら私に質問攻めはしないかな?

 まぁ思い当たる節はありって所かな。


「まぁとりあえず気をつけてね!ってぐらいだからそこまで深く考えなくてもいいよ」


 う~ん。ちょっと意地悪がすぎたかな。空気が少し悪くなってしまったな。話題を変えよう。


「そういえば逆に聞きたいのだけど彼等から得た知識とかないの?昔から居るんだから何かしらあるよね」


「……知識。知識だろうけど有名なのと言えば職業関係かな」


「どんなの??」


「そうだな。職業に階級があるのはもちろんご存知で?」


 あ〜こっちでもあるのか。


「えっと……。大まかに分けて下級。中級。上級に特殊だよね?」


「理解しているなら説明も簡単だな。初めにこれがいつの頃からの教えからは誰も覚えてないと言うのを伝えておく。……それでなんだがその教えってのが『下級二つで中級に中級二つで上級に』って奴だ」


「ふーん。それって何と何で次に行けるのかも教えてもらってる感じ?」


「ちゃんとあるぞ」


 彼は手帳を取り出しひとつのページを見せてくる。そこには色んな職業の名前で埋め尽くされており、どれとどれで次に派生するのかが書いてあった。


 ふーむ。まんまゲームの頃と同じなんだ。しかしなんだってこんなシステムにしたのかが気になる。普通に考えれば職業というシステムなんて無駄でしかないのにこれを作った人間?神?はゲーム好きなのだろうか。


「じゃぁ皆さんの中に上級になった人とかいたりするんですか??」


「あ。あぁ~……正直言うとだな俺らには中級に行ってる奴すらいないなんだ」


「え?何故に…………って、いや、そうですよね。レベル上げには生き物を殺す事ですもんね。そうなるとこっちも必然的に死ぬ可能性を考えると普通なのかな」


「まぁそういうことです。好きでなった所もあるのですがやっぱり死の恐怖というのはそう簡単に抑えられませんので」


 そこに隣から愚痴なような台詞が飛んでくる。


「でもよぉ。だからって長命種ばかりが幅を利かせているのが気に食わねぇよ。あいつら自分が上級職だからって命令してくるしよでやになるぜ」


 ふ~む。リアルになるとやはりそこら辺が原因で関係に亀裂がはいるか……。

 ……しかしならばだだろうに。


「だったら君も上級職になれば良い」


「!!。ったくそれが出来たら苦労しないっての」


「いいや。短命種でもそれは余裕だよ。短命種にはこれといった特質した能力は出にくい代わりに戦闘経験値が他種より多く取得出来るという特典があるんだ。だからダンジョンなりに潜って戦い続ければいい」


 と言っても

「そんなもんが!?……いやでもよぉ死ぬかもしれねぇんだろ?」


 何をそんなに渋っているのだろうか?


「当たり前でしょ?ダンジョンだもの」


「…………いや、正直に言うなら簡単に強くなれねぇか?」


 ……あぁ。なるほどそういう事か。

 楽したいだけなんだ。苦労せず怪我もしたくないあわよくば無償で助けて欲しい。だって君たちは上級者でしょ?初心者の面倒見てよって事か。

 ……嫌いだなぁそういうの。


「……ははっ。あるわけないじゃんそんなの皆何かしら苦労して上級職になってるのに自分だけ楽しようだって?ウケるんですけど」


「で、でも強いやつに教えを乞うのは普通だろ!?」


「……まぁ間違ってないわね」


「だ、だろう?だったら……」


「いや。私、正直そこまで優しくないけど??第一私と貴方は友人かしら?違うよねそれなのになんで無償で教えないといけないの?それに私は既に教えてたよね?それを実施すればいいのよ。冒険者なのでしょ?だったら死ぬ覚悟は持ってなきゃ強くなれないよ。それでも死にたくないなんて甘ったれた事言うなれば最初っから冒険者なんて辞めて街の中で平和に暮らしたらいいよ」


 アドバイスを欲していた人を含め全ての人達が無言になるがエスタスの口は止まらない。


「大体、長命種が幅をきかせるのが気に食わないとか言うけどむしろ逆になんで命張ってる奴が幅をきかせちゃダメなの?むしろそいつらからしたら何もしない癖に難癖つける奴の方が気に食わないんだけど普通に考えて」


「……良いかい?私は既にアドバイスはしたからね。長命種が気に食わない。自分も上級になりたいってなら命を張れ。死に物狂いでやれ。それが嫌なら冒険者をやめろマジで」



 …………。

 青い空、白い雲見渡す限りの緑達。

 その中を進む私達の荷馬車。しかしその荷馬車から聴こえる音は車輪の音のみ。

 そこにいる人達は皆口を閉ざしただ辺りを警戒するのみ。



 ……やらかしたぁ。

 あぁなんだってあんな事言ったんだ私は。どう考えたって私にそんな事言えた義理なんてひとつも無いのに命を張れだって?言った本人が張った事ない癖に良く言えたなホンマに!!

 ……でもなぁ嫌いなんだよなぁ無償で何かをねだる奴って。あぁ、だからか。最初妙に優しかったのはなんか納得した。


 大きな溜息をこぼしてしまう。


 微妙な空気の中荷馬車を護衛しながら途中休憩を挟みながらも街にたどり着く。


「……えっと。とりあえず私は天城呼んできますのでそちらは衛兵に従ってとりあえずは行動してください」


「「……うす」」


 数名はちゃんと?返事をくれたが……。

 やっぱり嫌われたかな?数名は無言のままでそっぽを向かれる。

 仕方ないかな。と思いながら天城がいるであろう冒険者ギルドに向かう。



 ここかな?

 そこそこでかい建物を眺める。

 The・冒険者がいますよって感じの建物……。分かりやすくて良いけど。

 いざ建物に入ろうと扉を押そうとした瞬間もう片方の扉が勢い良く開く。


「おわ!?ごめんよ!!」


 制服っぽい感じの身なりをした青年が勢い良く飛び出し一言謝ると凄い勢いでどっかに走り去っていった。


 ……ん?ん???異様に慌ただしいぞ?何かあったのだろうか。

 ゆっくりと扉を開け建物内に入るとそこでは色んな服装の人達が目まぐるしく走り回っていた。


 これは……。ちょっとどこに居るか聞き出せない気がするなぁ。そんな感じに呆然と立ち尽くしていると一人の女性が話しかけてくる。


「君。どうしたの??」


 振り向くと手には大量の書類を抱えた若い女性が不思議そうに見ていた。


「あ、えっと……」


「依頼かしら?ごめんなさいね。今ちょっと立て込んでて少しあそこの席で待っててもらえるかしら」


 そう言った彼女の視線の先を見る。そこは色んなものが積まれた場所だった。

 それを確認したのか彼女は移動しようとするがそれを止める。


「違う違う。依頼じゃないここに天城って人居ないですか?」


「天城??天城……天城…………。あ!!あぁあの人!!居るわよ呼ぼうか?」


「いえ。場所さえ教えてもらえれ自分でば向かうので」


「そう?まぁいいわ。あそこの通路の一番最初にある右の部屋に居ると思うわ」


 視線をそちらに向ける。

 ……なんだ。意外とすぐそこに居たのか。


「忙しいのにありがとうございます」


「良いのよ~それじゃバイバイ」


 彼女を見送り天城が居るであろう部屋に向かう。

 しかしどうしよう。別に嫌われる事は正直どうでもいいんだけど、ああ言った手前挑発だけしてはい終わりってのも正直後味悪いんだよなぁ。煽るだけ煽って彼らが無謀に死んでいくかもと考えるとなぁ……。何かしら贈るか??


 ……ってここか。

 目的の部屋に辿り着き覗き込む。

 そこには大勢の子供たちが物静かに食事をしていた。

 ……っ!!なんだ異様にやせ細った子供達が多い。もしかして忙しい雰囲気の原因か?私があっちにいた間に何があったんだろうか。

 関わると面倒くさそうだ。さっさと天城を見つけよう。



 何処にいるだろうと子供達の方から真横に視線を移すと口に何かを頬張りながら何故か固まってこちらを凝視している天城と目が合う。


「居た!!」


「…………!!?」


 口にあったものを勢いよく飲み込もうとしあたふたしているのを見てとりあえず落ち着くように促す。



「……落ち着いた?」


「はい。すいません汚い所を見せて」


「いや、それは良いんだけど……」


 視線を子供達に逸らす。


「気になりますよね」


「……まぁちょっとは。あ、でも面倒事っぽいから聞かないよ」


「そうですか。まぁこちらとしても説明するの面倒なのでありがたいです。……それで何か用事があって来たんですよね?」


「あぁそうそう実はさ……」


 ここに来る経緯を伝えた。


「わかりました。それじゃ早い方が良いでしょう」


 話を聞くや否や即座に立ち上がり食器を片付け部屋を出る。

 その時急に立ち止まりこちらに振り返る。


「そういえば知り合いにハイエルフいます??」


「…………ハイ……エルフ??ハイエルフ。ハイエルフねぇ。それってこっち来てからって意味よね?」


「もちろん」


 ……居たか。これまで会った人間にハイエルフ種なんて??あんな特徴的な緑色に金が混じったかの様な目の色していたら分かるんだけど……。


「その子の特徴は?」


「ん~両目とも深紅の瞳の子だけど」


「んあ!?イリスさんいんの!!?」


「名前まで知んないけどその反応だと知り合いみたいで合ってるぽいね」


「いやそうだけど。待ってあの人がハイエルフ??まじで言ってる??」


「言ってる」


「だって目の色が全然……」


「覚醒前だけどね」


 ふ~む。覚醒前か……。それはゲーム時代には無かった知識だなぁ。

 そうかハイエルフ種にはそういうのがあるのか。

 ……どんな条件で覚醒するのだろうか!!どうやって覚醒前だと分かるのだろうか気になるな!!


「よしとりあえず荷馬車の場所に向かうながらで良いからハイエルフの覚醒前について教えて欲しい!!」


「え??荷馬車の方は僕だけで向かうから会いにいきなよ?」


「え……でもそれだと教えて貰えない」


 というのは建前であって本当は会いたくねぇんだよなぁ。あんな別れ方したから怒って文句言いに来る為に会いに来たのかなぁ怖いなぁ。


「……何かあったのか知らないけど会えるうちに会っとかないと後悔するかもだよ」


 どうやら何かしらあったのだろうと察されしまったようだ。


「……それもそうだよね」


 その台詞で思い出した。

 ここは死が当たり前に近い世界だという事……。

 仕方ない。ここは決心して怒られようそうしよう。そうと決まればこれだけは渡してこう。


「だったらこれ持って行って彼等に渡して」


 そう言って取り出すのはあそこにいる人数分の剣。そしてそれを不思議そうに受け取る天城。


「……これは?」


「ちょっとしたやる気と目的かな。だからこれと一緒に伝言もお願い」


 そう言って伝えた内容が『君達に目的とやる気をあげる。もしこれを使いこなせる時がきたら私を探して会いに来るといい。その時は君達専用の武器を造ってあげる』というものだ。


「お優しいことで……。まぁ分かったよ。それじゃとりあえずここは解散という事で」


「うい。頼むよ~」


 互いに互いを見送り私は彼女がいるかもという宿直室に向かう。



 扉の前にまで来て深呼吸をする。

 いかん。柄にもなく緊張してきた。でもここで立ちぼうけしてる訳にはいかないだろう。私よ……。

 意を決してノブを回し部屋に入るとそこには気持ちよさそうに眠っているイリスの姿があった。


 ついこの前の事なのに凄く懐かしい感じがする。しかし寝ているとなると起こす訳にもいかないしさてどうやって暇を潰そうか。

 部屋に入り端にある机の所に座り頬杖をつく。


 あぁそうだ。今のうちに魔術を弄っておこう。もしかしたらゲーム時代には出来なかった組み合わせもできるかもしれない。

 即座にメニューを開き魔術組み換えシートという項目をタッチする。

 するとそれは立体となり彼女の目の前に展開される。


 お……っとこれは予想にしてなかったぞ。

 予想外の事に少し戸惑うもとりあえず触ってみる。

 つつく。摘む。拡大。縮小。といった事をしてみると意外と想像通りに動く。

 これはもしやゲーム時代とさほど変わらないな。ちょっと立体になって戸惑ったがむしろやり易いかもしれない。


 そしてそうと分かればこっちのものだと言わんばかりにいじり倒した。それはもう一つの魔法にどれだけの効果を持たせられるかといったとりあえず脳筋にしてみようぜ。的な事をイリスが起きるまでの間ずっと。

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