竜娘、勝手知ったる異世界で旅をする

黒桜 海夜

第1話 プロローグ

 

 夏が終わり秋の真っ只中朝方は少し肌寒い季節

 カーテンの隙間から刺すような日差しに照らされ

 1人の顔を照らされ同時に眩しさで目が冴える。


 彼女はゆっくりと身体を起こすと身体に主に腰に痛みが走る

 しかしそれも無理もない今の今まで机に突っ伏す形で寝ていたのだがら

 彼女が身体を伸ばし解す様に動かし椅子から立ち上がり

 今の今まで睡眠用のBGMになってた方に目をやる。


 そこには自分のキャラが映し出され街中でポツンと突っ立っており

 他にも色んなキャラが縦横無尽に画面内を移動していた。


(……何人か声を掛けてたみたいだね)


 彼女は手馴れた手つきでキーボードを操作しチャットログを遡り

 自分が寝ていた間の会話を眺めている。


 そこでふと目につく会話があった

 それはフリーチャットで行われてたようで色んな人達が会話してた跡が見える。


 «蟹丸さんが消えてた昨日まで一緒に遊んでたのに»


 «蟹丸ってあの海産の名前が入った人のみでクラン作ってるって例の蟹丸?»


 «その蟹丸 デイリーでも一緒にって思ってたらフレンドリストから消えてた»


 «おいおい……また人消えてんのかよ……»


 «これで何人目だ?覚えてる奴いる??»


 そんな感じのチャットが1時間ぐらい前まで続いてたみたいだ。


(また消えたんだ……)


 普通に考えれば引退と見るのが普通だろうが

 そんな簡単な話ではないのがこの話である

 チャットでもあるようにこれで既に大多数の人が消えている

 それも痕跡そのものを消してだ。


 最初の頃はただの急な引退だと思っていたが

 1人また1人とフレンドリストから消え皆不審に思い

 運営に問いかけた奴までではじめ帰ってきた答えがこれだったらしい。


「1から確認してみましたがこのゲームにそのようなキャラいた形跡は1度もありません……」


 皆は唖然とした

 それもそのはずだ昨日遊んでた奴が急に消え更には

 その痕跡さえも残ってないと来たのだから

 その後はすぐさま誰かが警察に連絡したのだろう。

 ゲーム内のフレンドとは言え仲が良くなれば本名だって知る仲の奴らは居るだろう

 そこからはトントン拍子で事件が表に出始める

 事件の捜査をしてる内に最初に住所が判明した家に警察が入るとそこには誰も居なく

 しかし荒らされた様子もなくただゲームの音だけが部屋に響いてたらしく

 それに明らかに今から飲み物をコップに注ぐのではと思わしき状態で冷蔵庫が開けられ傍らにはグラスが置いていたそうだ。


 そんなのが数十とあったのだ

 もちろん世間からはこのゲームは即刻停止させるべきだ

 このゲームが原因では無いのか!?

 バッシングを受けたが

 意外も意外、運営は気にする素振りすら見せずただ普通に

 ゲームの運営を続けたようで

 1部からこのゲームをしてる人は変わり者や自殺志願者などとバカにされており

 もちろん私もこのゲームを続けてる変わり者である。


(この運営は図太い精神してますね本当に)


 画面から目を離し乱れた髪をかきあげ

 冷蔵庫から牛乳パックを取り出しがぶ飲みする

 その姿はとても女性のあれとはとても言えないが

 誰も見てないのであれば意外と皆そんなもんである。


 彼女自身なぜこのゲームを辞めないのかは謎ではある

 もちろん最初の頃は辞めるべきでは?とは思ったが

 突然とそれがそうも行かなくなった。

 それはある時実家から電話が掛かってくる。


「ねぇ!! 秋穂知らない!?そっち来てない?」


 仕事に行く前急な母親からの物凄く慌てたような

 すすり泣く声が耳元で鳴り響く。


「知らないよ〜遊び行ってるんじゃないの?」


「で…でも……でもあの娘昨日はイベントがどうとかって……」


「イベント……あ、ちょっと待って!!原因というかなにか分かるかも少し待ってて!!」


 そういえば昨日はゲーム内イベント開始日だったな。

 いつもならこうゆうイベントは一緒にするのだが昨日は仕事の飲み会でログインできてない事を思い出す。

 私はすぐさまゲームにログインしようとするが

 手が震えて打ち間違いなどをしてログインに手間取る

 最初は他人事と思っていた。

 謎の失踪事件とは無関係であろうと

 心のどこかでそう思っていた。

 それでも確実に心臓の鼓動が少しづつ早くなってくる

 震える手でキーボードを操作しフレンドリストを確認する。

 が……妹のキャラネームが何処にもない

 いくら探しても出てこない名前検索しても一致する名前は出ない。


 母親にありのままを伝えた

 もちろん母親もこの事件の事を知っていた

 知らない訳が無いここ連日ニュースにもなっているのだから

 母親の泣く声だけが私の携帯から響く。


 そんな事もあり辞める事もできずしかしこちらから何かできるといえばそうでもなく

 ただ今までのようにゲームを続ける毎日が続いたのであった。

 シャワーを浴び終え髪を乾かしながら椅子に座りまたゲーム画面を見つめる。

 見慣れた自キャラが先程と変わらない位置で突っ立っている

 メニューを開きフレンドリストを確認する

 今まで沢山の人と交流しこのリストを埋めたが今では20人以下にまで

 減っている。


 オープンβ時代からのフレンドは皆消息不明となり

 先程のチャットで出た蟹丸もそういえばオープンβ時代にいた事を思い出す。

 そこにはもちろん1か月前まで居たはずの妹のキャラネームも姿を消している。

 まるで私だけが取り残されたかのような感覚にさえ思えるほどに……。


(お腹すいたけど……冷蔵庫何も無いんだよな)


 仕方ないと面倒くさそうに立ち上がると

 急に目眩と頭痛が身体を襲う。

 しかしそれほんの一瞬の事で体勢を立て直す頃には特に異常は感じなくなっていたが

 この時一瞬だけだが彼女の視界の端に映るゲーム画面が

 ノイズみたいのを発したと思いきや自キャラの顔を画面いっぱいに広がったのを捉えた……ような気がした。

 咄嗟に画面を見るが特に変わることの無いさっきまでの画面に戻っている。

 見間違い……にしてははっきりすぎたが

 分からないのだから考えるだけ無駄だと感じ

 服を着替え財布と携帯を取り靴を履きながら玄関を開けようとした瞬間

 そこには捨てられたかの様に財布と携帯が地面に転がり落ちており

 ただただ玄関の隙間からは誰も居ない部屋が見えるのであった。


 彼女が消えると同時に画面が勝手に操作され

 ログアウトされるとタイトル画面に戻り

 ただ画面にはでかでかとタイトルが映し出され

 虚しくオープニングテーマが誰もいない部屋に流れていた。

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