第10話 強者、君臨

 二ゲーム目に入る前の、一分間の休憩時間。


「実力あるわね、あの子たち」


 ドリンクを飲みつつ、ヒメはガーディアンに漏らした。

 ガーディアンもうなずき、今はもう次のゲームに備えてゼロ対ゼロに戻された、得点板を見た。

 先のゲーム。十一対一の、一点は明確に地力でもぎ取られた。


「得点差ほど、楽な相手じゃないわ。

 ゲームが進むにつれて、きっとあの子たちは対応してくる。

 最終ゲームまでもつれ込んだら、危険かも」


 汗を拭く。拭き続ける。

 それだけの汗をかく運動量を、強いられた。

 その事実は、裏腹に、口角を吊り上げさせてやまない。


「ゾクゾクするわ」




 ソルト・ペッパーペアサイド。


「見通しが甘かった」


 汗を拭きながら、ペッパーの顔はうつむきがちだった。


「この一ヶ月、ボクたちは確かに特訓を積み、確実にレベルアップした。

 だが実際に相対するまで、ヒメの殺人打球の恐ろしさを理解していなかった。ボクの落ち度だ」


「テメェだけで背負おうとするな」


 顔を突き合わせ、ソルトは三白眼を向けた。

 ペッパーの視線は落ちたままだ。


「このまま負けるようでは、申し訳が立たない。

 あれだけキミを連れ回して、キミの家族にも世話になって、その上で……」


「聞けよ」


 唐突に頭突きが入り、ペッパーは目を白黒させた。


「今はダブルスやってんだろ。テメェ一人で戦ってんじゃねぇだろ。

 強気でいろよ、オレがそれに乗っかってやるから。

 テメェがここまでオレを引っ張って来たのは、泣き言聞いてもらうためか? 違うだろ。

 勝ちに行くぞ、最後まで諦めんな、テッペン取りに行くんだろ」


 ソルトの目は真っ直ぐに、ペッパーを見据えていた。

 ペッパーはその視線を受け止め、空気が抜けるように、微笑んだ。


「ああ、そうだな。

 ありがとうソルト、頑張ろう、一緒に」


「あたぼうよ」


 ノックするようにこぶしをぶつけ合い、二人は卓球台についた。


 第二ゲーム。

 ローテーションが変わり、ヒメの打球はソルトが受ける。


(ペッパーは強引な性格だけど、結局は優等生だ。

 こういう命のやり取りみてぇな際どい剣呑さは、オレの方が慣れてる!)


 ソルトは食らいつく。

 打球はしかし、コースを捉えきれず、ネットに阻まれた。


(クソッ! だけど実力で負けてちゃ世話ねぇぜ。

 もっと見ろ、突き詰めろ、相手が命を張った分だけ、オレは技で張り合うんだ。

 もしペッパーなら、どんな打球を返すか――)


 イメージをなぞるように、ソルトのラケットが流れた。

 軸のブレた不恰好な順回転ドライブだが、むしろそのおかげでガーディアンのタイミングを崩させた。

 返球がネットに捕まる。


「ヨシッ!!」


 ソルトとペッパーは握手するように手を叩いた。

 得点四対二、いまだヒメ・ガーディアンペアのアドバンテージだが、食らいついている。


「ふぅん……」


 ヒメは二人の様子を見て、相手の打球の残像を目でなぞって、目を細めた。


 得点合計が六の倍数で入る、短い休憩を挟み。

 タオルで汗を拭いて、試合は続く。


(ソルトがヒメの打球にうまく対応してくれている。

 しかし当然、それだけで勝てる相手じゃない。

 ガーディアン、彼も厄介……!)


 ペッパーはガーディアンの威力ある打球に真っ向勝負し、荒々しい順回転ドライブを返した。

 しかしヒメに追いつかれる、しっかりと返球される。


(突くべきコースが見えない!

 ガーディアン、彼の体格と威圧感が、ヒメを覆い隠すんだ!)


 ソルト・ペッパーサイドから見て、ガーディアンの巨体は、立ち上る汗の蒸気と闘気も相まって、卓球台の向こう側を完全に覆い隠してしまっていた。

 一方でヒメは、以前の遭遇で見せたあの歩法、ピンポン玉を潰さずに歩くあの軽やかな足運びにより、ガーディアンの巨体をすり抜けて前に出られる。

 結果として、ヒメの隙を見出せず、どこに打ち込めば点が取れるか、見つけあぐねていた。


(これが、九十九高等部ツクコー黄金ペアか……!)


 じわりじわりと試合は進み。

 十一対六、第二ゲームも、ヒメ・ガーディアンペアが取った。

 ヒメがガーディアンの胸板を叩き、ガーディアンは自分の頭に手を乗せる、そんな様子が、ソルトとペッパーからやけに遠く見えた。

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