ツインツイストドライブトライブ! 卓球ダブルス青春殺伐高校男児バチバチ炎獄血風劇

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

最強ペア、解散そして再結成

第1話 最強ペア決裂

 軽やかな打球音をすら残響にし、ピンポン玉は飛ぶ。

 青色の卓球台、低く跳ねる白い玉の対空猶予時間は一秒にも満たない。

 即応。ラケットの面を合わせる。高速の応酬。

 汗が散り、蒸発して白く舞い上がりながら、男たち、ピンポン玉の往復、幾度と、幾度と、幾度と。

 視界が白くスパークする。高みに登る感覚。針先のように垣間見えた隙に、打球を鋭く――


…………


……







「ふざけるな剃斗ソルトッ!!」


 思い切り派手な音を立てて、ソルトは、戸刈とがり剃斗ソルトの体は殴り飛ばされた。

 何事かと、上下階から踊り場へ視線が集まる。

 男子二人。壁際に追いつめられる者と、その着崩した学ランにつかみかかる者。


「……悪かったとは思ってるよ、ペッパー」


 つかまれる手もそのままに、ソルトはペッパーを、平波ひらなみ吉平きっぺいを見返した。

 ペッパーはなお、激昂した。


「悪かったとは、なんだ? 悪かったと思ってるから、卓球部を辞めることを、勘弁しろとでも?

 ふざけるなッ!!」


 叩きつけるように、つかんだ胸ぐらをさらに締め上げ、壁にソルトを押しつけた。

 ギャラリーがざわめくが、普段は優等生然としたペッパーが、銀髪で一見ガラの悪いソルトを組み伏せるその迫力に、割って入れる者がいない。


「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなッ!!

 ボクとのダブルスはどうなる!?

 悪かったの一言だけであっさり解消できるほど、ボクらのペアは軽いものだったのか!?」


「最初に言っただろうが」


 つかむ手を振り払い、ソルトは苦々しく言った。


「ここの卓球部に入ったのは、ホレた女がいるからだって。

 そんで、フラれたんだよ、ソイツに。

 居づらくって、卓球部を続けられるワケ、ねぇだろが」


 ソルトは盗み見るように、ペッパーの顔を見た。

 はたして、ペッパーは髪が逆立つかと思うほど、逆上した。


「その程度のことで、ボクとのダブルスを捨てるというのか!!」


「その程度ってなァ!!」


 ソルトは怒鳴り返した。


「テメェが卓球に命かけてるみてぇに、オレだってこの恋に真剣だったんだよ!!

 それをフラれて、同じ卓球部に居続けるなんて、気合いが入るワケねぇし、気まずくて居心地悪いに決まってるじゃねぇか……」


 言いながら、ソルトは情けなさに顔をしかめ、語調は弱々しくなった。

 ペッパーはソルトをにらみ下ろし、わなわなとふるえ、それから、吐き捨てるように言った。


「……もういい」


 ソルトの胸をひとつ突いてから、ペッパーはきびすを返した。


「キミがそういうことなら、ボクは退部について何も言わない。

 好きに去って、好きに腐っていくがいいさ」


 階段を登った。

 ギャラリーが道を開けた。

 登りきって、ペッパーは一度立ち止まり、こぶしを握りしめて、振り返らぬまま言った。


「キミとの卓球を、楽しいと思っていたのは、ボクだけかッ……!」


 ペッパーは去っていった。

 ソルトは何も言わず、何もせず、ただそれを見上げていた。

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