第6話 朝を迎えた

 朝日が差し込んでいた。

 ソルトは目を覚まし、ベッドの中で伸びをした。

 何時だろうかと確認するため、体を横向けた。


「おはよう、ソルト」


 真顔で横に並ぶペッパーが、そこにいた。


「……どうしたソルト。顔色が悪いようだが、寝つきが悪かったか」


「起き抜けの眼前にヤローの顔面があって、顔色良くなるタイプの人種じゃねえんだわオレ……」


 げんなりしながら起き上がり、ペッパーも起きて、朝食に向かった。


 ちゃぶ台。

 ペッパー謹製のハムエッグやささみ入りサラダなど、栄養とボリュームに配慮したメニューが並ぶ。

 準備をすべて済ませてもらった母親はうれしそうに恐縮し、妹は見栄えと味の良いメニューに大満足だ。


「うわー! うーわー! ペッパーさんすごーい! おいしそーう! おいしーい!」


「たいしたことはない」


「おい麻亜里マァリ、コイツほめてもいいことねえぞ。

 図に乗るとか調子乗るとか以前に、まともに喜ぶ感性がねえからな」


「失礼だなソルト。ボクだって卓球で勝てば喜ぶ」


「自分から卓球に限ってきたな」


「んー、こんなおいしい朝ごはん、毎日だって食べたい!

 お兄ちゃんとペッパーさんが結婚したら、いつでも朝ごはん作ってもらえるのに!」


「おいこらマァリ、おぞましいこと言ってんじゃねえ」


「現状の日本の法律では、同性婚は認められていない。

 朝ごはんを食べたいなら、キミとボクが結婚する方が、手っ取り早いと思うが」


「えっ!?」


「おいこらペッパー、人の妹を堂々と口説くんじゃねえ」


「この発言は口説くことになるのか? そんなつもりは一切なかったんだが」


「素か? 素なのか? 素で言ってるのかオマエ?」


 朝ごはんを済ませ、後片づけをした。

 早速出かけようとするペッパーを呼び止め、母はお茶を淹れた。

 ソルトと並んでお茶を飲みながら、ペッパーは所在なさげにした。


「少しでも長く練習するためにここに泊まったのに、これでは本末転倒だ。

 それに……あまり世話になっては、申し訳ない」


「申し訳なく思うタイミングがもう何十テンポか前にあってもよかったよな?」


 じとりとにらむソルトを尻目に、ペッパーは家の中を見渡した。

 台所で機嫌良さそうに作業する母。宿題をしつつ、ちらちらとペッパーの顔をうかがう妹。

 もう仕事に出てしまったが、昨夜楽しそうにペッパーに話しかけてきた父。


 ペッパーは、ぽつりぽつりとつぶやいた。


「こういう時間は、久しぶりだ。

 両親は共働きだし、兄は歳が離れていて、遠くの大学に行って一人暮らししている。

 誰かと食卓を囲むというのは……楽しいんだな」


 ソルトは、その横顔を見た。

 表情を変えないその顔をしばらく見つめ、それから天井を見上げ、言った。


「気に入ったんならよぉ。また来りゃいいよ。

 家族みんな歓迎するだろうから」


 ペッパーは、ソルトに顔を向けた。

 まっすぐにソルトを見つめ、そして、言った。


「卓球台を置くスペースはあるか?」


「ねぇよ!?」

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