第27話 それぞれの想い
「キィーヒヒヒィ、昨年準優勝だかなんだか知らねェがァ、オレサマの狂気卓球の敵ではぶべらっ!?」
「チミ! 卓球界の進化は日進月歩! ワガハイの発明したジーニアス卓球ですべての卓球を過去にべごらばっ!?」
「ガルルル! 人の世で発展した卓球などしょせん文化人のたしなみにしか過ぎぬわ! ワシの野生卓球こそがじゃみらぴっ!?」
「世界の
打倒! 打倒! 打倒!
ソルトとペッパーのダブルスは止まることを知らない。
勝ち進みながら、
決して弱敵ではないし、負けて当然の者だとも思わない。
それぞれに背負っているものがあり、勝ちたい理由があるのだ。
そして、だからこそ、二人は止まらない。
(結局、みんな同じだってだけだ。
誰だって勝ちてぇし、そのために鍛えてる。それだけだろ)
勝ち進む。天使の羽のように、白い汗の蒸気をたなびかせて。
向かいから勝ち上がってくる存在も、気配が増す。
番狂わせが起こる可能性だって、当然ある。
それでもこの気配は、悪魔の翼のように広がるどす黒い死の風は、他の誰のものでもありえない。
ソルト・ペッパーペア。
ヒメ・ガーディアンペア。
このツムジカゼファイター杯の決勝戦、一年前と同じ舞台で、二組四名は、向かい合った。
「ありがとう。ここまで来てくれて」
ガーディアンの言葉に、ソルトは鼻を鳴らして返答した。
「勘違いしてんじゃねぇよ。ここはアンタらのホームでもねぇし、オレらはアンタらに会うためにここに来たワケでもねぇ。
ただ勝ちたくてここまで来て、その通過点にアンタらがいるだけだ」
「ウフフ」
ヒメは
「素敵。
そういう殺意が欲しかったの、あたし。
全力で殺し合える、そんな相手がいてくれることが、あたしの一番の喜び」
「なら、ボクたちに期待するのは的外れだ」
涼しげに、ペッパーは言った。
「ボクらは殺し合いにきたんじゃない。
卓球をしに来たんだ」
開始準備。ギャラリーが見守る。
最初のサーブ権を得たソルト・ペッパーペアは、ペッパーがサーブ位置についた。
対するヒメ・ガーディアンペアは、ヒメがレシーブの配置に。
ペッパーは眉を持ち上げてみせた。
「おや、意外だ。ガーディアンさんが先に来るかと。
去年の試合を踏まえて、ヒメさんの殺人打球をボクが苦手としていると考えて、ラリー順を調整してくるかと思ったのに」
「それを警戒しているなら、サーブ権を取らずにレシーブに回るでしょう?
最初のレシーブの順番が、実質的に試合すべてのラリー順を決めるからねぇ。
でもあなたたちはそうしなかった。
それはつまり、ペッパー君もあたしの打球に対応できる自信があるってこと」
ヒメの目と口が、三日月のように釣り上がった。
「それに、できるワケないじゃない、あたしが後に回るなんて。
こんなにも、アハッ! 打ちたくて、打ちたくて、たまらないのに!
後手に回って、ガーちゃんの打球で一方的にポイントしちゃったら、あたしいつまで打つのをおあずけにされると思う!?」
「そうかい、そりゃいらねぇ心配だったな」
ラケットを突きつけ、ソルトは冷ややかに言った。
「せっかくの試合なんだ、オレたちは出せるモン出し切って、じっくり楽しむ心づもりだぜ。
アンタらがついて来れないほど弱敵じゃなけりゃ、だがな」
ヒメは目を細め、ガーディアンは無言のままただ構えた。
ソルトもペッパーも、配置につく。
示し合わせるわけでもなく、四人全員が、同時につぶやいた。
「いい試合を」
静止。
警告すべきかそわそわしていた審判も、胸をなで下ろして用意をした。
四方から見守るギャラリーの、呼吸すらも凍ったような静寂。
そして。
ペッパーが動く、
ヒメは対応する、
(やっぱ、パねぇな!)
美しい返球を行いながら、ソルトは舌を巻いた。
この一瞬の交錯でも、その打球はソルトの精神を冷え冷えと削った。
まるで振り回される日本刀をかい潜り、その先にある生卵を箸で拾うような危険さと繊細さだ。
(実際やったから分かる)
夏の竹林合宿でである。
バックスピンをものともせず、ガーディアンは強く返球! ペッパーが当然のごとく強打! ヒメ追いつく!
応酬! 応酬! 応酬!
第一ゲーム第一ポイントが、決まらない!
ギャラリーの一角、台上の攻防を目で追いながら、メモにペンを走らせる者がいた。
炎陽高校卓球部二年、イッキュー。
(ソルト君も、ペッパー君も、すごい。
一年前から強かったけど、なんて伸びしろだろう……!
二人とも、僕には全然、追いつけない次元にいる!)
走らせていたペンを止め、イッキューは試合に見入った。
(でもそれは、決して才能なんて簡単な言葉で済ませていいものじゃない。
夏も、冬も、二人はずっと、努力してた。
……二人とも、気づいてないと思うけど。
僕はずっと、キミたちを見ていたよ)
ピンポン玉の音は響き続ける。
目元ににじんだ水分を拭い去り、イッキューは力強い視線で、試合を見た。
(志野六傑衆。
あの中の一人として、僕はいた)
強烈なスマッシュが突き刺さり、観衆の緊張感が解放されて歓声となった。
第一ゲーム一対ゼロ、最初の得点を、ソルト・ペッパーペアが取った!
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