第50話

辺りが光に包まれていく。

アレストの黒く塗った爪から砂が溢れ出す。

「……!」

「……成功だな」

柔らかい笑顔。

「良かった……あの剣は本物だったのか」

「アレスト!!」

アンジェの声だ。ベノワットとメルヴィルも走って来る。

「……あんたら、誰だ?

悪いね。もう顔を思い出せなくて……」

「本当に消えちゃうの……?」

「アレスト……!くそ、なんとかならんのか!」

「砂の怪物たちは全部綺麗に消えたんだ!もうたたかわなくていいぞ!だから……消えなくていい……!」

皆が涙声で言う。

「俺が完全に消えることでこの呪いは終わるのさ。なにしろ、永遠の呪いだからねェ……どこかで誰かが割らないといけないのさ」

「俺は醜かった。神なんて言葉が一番似合わない男だった」

「だが、本当の愛を知っていた。不完全だからこそ素晴らしい愛を……」

「だから信じられた。俺は最期、人間に戻れたのさ」


アレストが目を細める。一筋の涙が頬を伝う。


「ありがとう、永遠を終わらせてくれて」


ルイスにそう言うと、ゆっくりと目を閉じた。


(アレストが、消えていく……)


安らかな表情で、まるで朝まで眠るだけのように。


「アレスト……アレスト!!!」

「アレスト!戻ってきてくれ!」

「おい!勝手にしぬな!!アレスト!!!」


「アレスト……!」


そのときだった、ルイスの体が『また』勝手に動いたのだ。抱き上げて、背中の服を捲り上げ、砂時計の模様に触れる。


「なっ!?ルイス!?何して……!」

「アレストの体が崩れちゃうわ!」

「待て!なんだこれは?水の音?」


小さい水の音が聞こえる。ルイスは目を閉じてアレストを抱きしめていた。


(あたたかい……そうか、これは水だ)


ー水?なんでそんなもの使うんだ?砂時計は砂と容器と所有者で創れるって相棒が言っていたぜ?

ーそれがですね、それだけだと簡単に割れてしまうと思い……ぬるめの水に浮かべてみようかと。

ーあぁ、緩衝材にするのか。しかし、記録にはないんだろ?大丈夫なのか?

ーそれは分かりませんが……ないよりはマシだと思います。簡単に割れてしまったらいけない。

ー俺の砂時計にアレンジを加えるってわけか。ま、相棒が無事なら俺はそれでいいが。慎重にやれよ。

ーいえ……あなたの砂時計にも水はあります。

ーえ?

ー正確には砂時計の周りには、ですが。それが砂時計を守っているんです。容器を包み込み、軽い衝撃を受けても割れないようにしている。

ーそれって、母親の羊水のようなものか?

ー例えるならまさにそれです。もっと理論的には……

ーええと、もう分かったからいいぜ。水も使っておいてくれ。念の為な。


アレストの背中の赤い模様が薄くなっていく。ルイスからはそれは見えないが、ルイスは自分が穏やかな気持ちになるのを感じた。


(あれっ?)


同時に、視界が暗くなっていく。


(なんだか、意識が……)


水の音が小さくなっていくのを聞きながら、ルイスは意識を手放した。

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