第29話

「あいつが所有者だったのかよ」

砂の怪物が現れたときに建物の裏に隠れた金髪の少年がアレストの後ろ姿を見つめている。

「でもなんで創り方なんて知ってるんだ?成功例なんて1000年前のしかないはずなのに」

視界に映るのはアレストの真っ黒な髪と服。

「……ストワード国王からあれを受け取って村に向かう途中って感じだな。はぁ……ついに剣を使う時が来たか」

風。少年のフードが取れ、綺麗な金髪と真っ赤な瞳が露わになる。

ルイスと同じ色の瞳。それがアレストの隣にいるルイスを捉える。

「あの女も気になる。俺と同じ目の色なんて偶然とは思えねぇ」

黒い髪、赤い瞳。

「まさか、村出身か?そうだとしたら、あの女は俺の……」


「いや、村で会ったら分かるはずだ。今度はこの姿じゃなく踊り子としてもてなしてやるぜ」


少年はフードを被り直し、西の方角に歩く。



「ごめん、みんな。立ち止まってる場合じゃないのにね!」

アンジェが涙を拭いて立ち上がる。

「アンジェ……」

「ルイス!なんであなたまで泣いてるのよ!いいのよ、もう。済んだことだし!それよりもこれ以上被害を増やす訳にはいかないわ!あいつらの計画、私たちで止めてやりましょうよ!」

「あぁ。それでこそアンジェだぜ。くっくくく……」

アレストがアンジェの肩に手を置こうとするが、すぐに叩かれる。

「触らないでよ!」

「ふふふ、悪かった。慰めてやろうかと思ったがいらなかったようだねェ……安心したぜ」

「誰があんたなんかに!」

「そうだねェ。慰めるなら俺より適任者がいるからねェ……」

アレストがちらりとメルヴィルを見る。

「なんだボンクラ。見るな、気色の悪い」

「ギャハハ!!あんたはアンジェよりも俺が好きなのか?」

「は?しね」

「ギャハハ!!!」

「はぁあ……うるさいわね。っていうかメル、あんたどこに行くのよ」

「先を急ごうと言ったのはお前だろう、アンジェ」

「え!?そっち、来た方向よ!私たちが向かうのは西!逆!!」

「ギャハハ!!ヤバ!ヤバ!!」

「チッ……笑うな、クソ王子が!」

「ぼっちゃん!メルヴィル!どちらもうるさいですよ!!」

すっかりいつも通りだ。リヒターの怒号が飛び、メルヴィルとアレストが大人しくなる。

「……ねぇルイス。こんなこと言ったらアレストの砂時計に悪いとは思うけどね……」

アンジェがルイスに微笑む。

「私、少しだけ嬉しかったわ。歪んでいてもお父さんが私を愛してくれていたこと」


「アレストの砂時計を作った人も、きっと初めの王子を愛していたのね」



ルイスの肩に寄りかかるアンジェを、アレストが細い瞳で見つめる。


(砂時計は、愛さ)


(愛でならなきゃいけなかった)


(愛という言葉がなければ)


(ただの呪いになるのさ)


(なぁ、相棒。俺はあんたに呪いだけを……)





〜シャフマ王国 王宮〜


リヒターが荷物を下ろす。

「ふぅ……戻ってきましたね。しかしすぐに出発しますよ。明日の朝までに各自身支度を済ませておくように」

「はぁ、腹減ったぜ」

「今日の食事当番は俺とリヒターさんでしたね」

ベノワットが言うと、アレストが「げっ」と漏らした。

「リヒター、野菜ばっかりはやめてくれよ」

「何を言っているんですか。野菜をしっかり食べなくてはいけません。食事は栄養バランスが大切です」

「……ベノワット、俺の皿から野菜を抜いておいてくれ」

「ぼっちゃん!!全くあなたという人はいつもいつも」

リヒターの説教が始まった。こうなると長い。




〜朝 シャフマ王宮近郊の街〜


【出発して早々ですが砂の賊討伐です】

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