第3話
〜昼 食堂〜
昼ご飯を食べに食堂に来ると、アレストが座っていた。ここは貴族も元平民もいるが、王子も使えるのか。
「リヒターが飯を運んでくるんだが、毎日味のしないよく分からん物だと飽きてね」
アレストは机の上に突っ伏した。肩を震わせて笑い出す。
「ふっふふふ……この前食わされたきゃびあとかいうもんは真っ黒な小さい粒だったんだが、味がよくわからん上に腹にたまらなくてな……ヤバかったぜ。ああいう刺激のないもんが俺は世界一嫌いなんだ……しかし本当に、高級なもんはつい吐き出しちまう……くっふふふ……」
静かに思い出し笑いをするアレストの前に座る。
「あ。軍師サンも今から飯?」
段々慣れてきたが、この切り替えには毎度驚かされる。ルイスが頷くとアレストが「おれも」と笑った。
「今日はカツカレーを頼んだんだ」
(王子が……カツカレー……)
「辛いものはそんなに好きじゃないがな。味が濃いとそれだけ良い気持ちになれる。あと肉だな。肉。俺は父上ほど量は食べないんだが、王宮内でもかなり食う方だぜ」
「……それはなんとなくわかる」
アレストのたわわに実った胸と腿の製造過程がわかった気がする。
(でも、国王の方が量を食べるんだ。そういえば国王にまだ会っていないな)
それを言うとアレストが「そうだったな」と頷いた。
「父上はいつも外交で忙しいからな。今は……ストワードだっけな。北の方に行ってる」
「ストワード?」
「毎日雪が降る北国さ。俺は行ったことないから詳しくないがな。おっ、来た来た。こっちだ」
アレストの前にカツカレーが置かれる。
「俺だけ運んでもらって悪いね。断ったんだが、一応なにかあったらまずいからって言われちまった。カツカレー運ぶだけでなんかあるなら見てみたいところだが」
両手を広げてやれやれのポーズをする。何日か王宮で過ごすうちにアレストがかなり過保護に扱われているのは分かった。しかし理由がわからない。たしかにこの男は大盛りのカツカレーを運んでても途中で従者同士の殴り合いの喧嘩が目の前で始まったら皿を放り出して腹を抱えて笑いだし床を大惨事にしそうだが。
「ん?その顔は俺を信じてないね?全く……そんな危なかっしくないっつの……あっつ!!し、舌をやけどした……水、水……」
「……」
湯気が出てるカツカレーをろくに見ずにスプーンに大量にすくって一気食いしようとしていた王子が、果たして本当に危なっかしくないのだろうか……。
【この日も賊討伐をします】
【戦闘終了】
ルイスとメルヴィルとアンジェが帰還準備をしている。
「それにしても、賊が多いな」
「そうね。でも、あの人たちなにかおかしくなかったかしら?」
「あぁ、たしかにな」
「おかしい?」
「そうよルイス。なんだか人間じゃないみたいだったっていうか」
「斬った感触がなかった。まるで砂のように手応えがなかった……しかし死体は普通に見えるな」
メルヴィルがちらりと敵の死体を見る。ルイスも見るが、たしかに普通の人間に見える。
「……大体、この量の賊が毎日のようにわいて出てくるのはおかしい。こいつらはどこから来ているんだ?」
「ルイス、アレストはなにか言っていた?」
「何も……」
「チッ……嫌な予感がするな。王宮近郊だけでこんなに賊が出ているということは、辺境の村なんてもっと酷いかもしれん。一度偵察に出てみるか」
そう言ってメルヴィルがルイスに背を向ける。するとアンジェがメルヴィルの肩を掴んだ。
「ちょっとメル!どこ行くのよ」
「だから偵察だ」
「あんたね……騎士団に所属してるなら国王や王子の命令を待つのが普通なのよ……」
「離せ、俺は行く」
「リヒター!この馬鹿力止めて!!!また力づくで逃げようとしてるわよ!!」
(平和だ)
ルイスは思わずくすりと笑った。
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