第2話

〜朝 大広間〜


「ギャハハ!!!!!」

早朝、アレストの笑い声が王宮に響く。

「あんた、また捕まったのか!!ヤバ!ヤバ!!」

「……チッ、うるさい……」

ルイスとアレストの目の前にいるのはメルヴィルだ。まるで罪人のように手錠をされ、座っている。扱いが余程屈辱的なのだろう。声に覇気がない。ポニーテールまでうなだれているように見えた。

「ひーっ、くくく……懲りないなァ。ええとなんだっけ、メ……」

「メルヴィル」

「そうそう!メルヴィル!あんたとは20年以上は知り合いだからな。顔は忘れないんだぜ」

アレストがメルヴィルの顔を覗き込むと、メルヴィルがすかさず唾を吐きかけた。

「きゃっ!」「貴様!王子になんてことを!」

ルイスも他の騎士団員と同じように驚く。煽ったのはアレストだが、あれでも王子だ。ただでさえメルヴィルは騎士団で王子を護るという使命を果たしていないのに……。

「……」

「……ギャハハ!!!ギャハハ!!!あんたほんっと面白いな!!王子を侮辱するなんて、俺じゃなかったら死罪だぜ!」

「お前以外にはやらん」

「ふーん???そんなに俺のことが好きか?光栄だねぇ」

「黙れアレスト」

今度は手錠をされた手の中指を立てる。アレストはまた大喜びして破顔する。

「ヤバ!!ヤバ!やっぱあんたといると楽しいぜ……なぁ、今夜は俺の部屋で寝ないか?昔みたいに一緒にさ」

「気色の悪いことを言うな」

「なんだよォ、つれないなァ。久々に会えたってのに。1年は会っていなかったんじゃないか?」

「覚えていない。寄るな。情報は取りに帰っていたから問題ない」

「とは言ってもなァ。あんまり自由に動かれちゃ困るんだぜ?俺にも立場ってモノがある」

「お前に言われたくない」

ルイスは仲が良いんだか悪いんだかわからない会話をしているアレストとメルヴィルをハラハラしながら見つめる。

「大丈夫ですよ。あの二人はいつもああですから」

後ろから声がして振り返ると、リヒターが書類を持って立っていた。

「ぼっちゃん、少し話があるのですがよろしいですか?」

リヒターの声にアレストが息を整えながら頷く。

「あ、あぁ。なんだ?」

「最近、賊の動きが活発になっています。裏でなにか大きな……」「たしかにな。でもそういうことは父上に相談した方がいいよなァ。何故俺に持ってきたんだァ……?」

アレストの声色が変わった。リヒターはハッとして辺りを見回す。

「失礼しました。王子、今のは……」

「ああ、分かってるさ。後でな」

冷ややかな声。先程ゲラゲラ下品に笑っていた男と同じものとは思えないそれに、ルイスは身震いした。





【この日の昼もルイスはまた依頼の賊討伐に行きます】



【戦闘後】


〜夜、アレストの部屋〜


「…………」

「ぼっちゃん、朝は無礼を……」

リヒターが頭を下げる。本を読んでいたアレストだったが、それをパタンと閉じて

「ふふふ、いいさ。だが今後は気をつけてくれ」

と優しく言った。リヒターはほっと胸を撫で下ろす。

「で……なんだって?」

「はい。朝言いかけたのは、賊を裏で操っている人物がいるかもしれないということです」

「それが俺のこれに関係している、と?」

「……まだ確信は持てませんが、そろそろ動くとは思い……」

「あんたにしては歯切れが悪いな、リヒター。しっぽを掴んだんじゃないのか?」

リヒターの目が泳ぐ。アレストの言う通り、リヒターにいつもの自信がない。

「それは……いえ、まだ証拠がないので、分かり次第お伝えします」

「あぁ、頼むぜ」



リヒターがアレストの部屋を出る。


「……くくくく……あいつもお人好しだねぇ。だがなリヒター……もし身内を敵に回すようなことになったとしても……野望は果たさなきゃならない。それは変わらないさ」

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