第31話
「しねないだろ、そんなことされちまったら」
まるでこれからしぬような言葉にルイスが驚く。
「アレスト……?」
「ん?あぁ、次の店に行くか?ギャンブルもしたいしねェ……」
勝手に解釈したアレストが立ち上がる。酔っていても財布から正確に金を出して慣れた手つきで会計を済ませていた。
賭博場に向かう途中、アレストがぽつりぽつりと語り出した。
「相棒、あんたは俺と約束をしたよな。あの日……実験の日の朝、いつもみたいに2人で討伐に行ったときに」
(実験?)
初めて聞く。
「あの日の朝、あんたが俺を庇って腕に怪我をして……『しぬな!』って狼狽える俺に『そんなんでどうするの』って言ってたな。『私がしんでもあんたは逃げて生きてよ』って。嬉しかったぜ。しかし」
アレストが赤い顔を下に向ける。
「約束、果たせそうにない。すまない……」
ルイスの肩に寄りかかる。
「俺、もうすぐしぬんだ……」
アレストがルイスの心臓の辺りに手を当てる。
「……本当にしんでいるな。あんたは」
(え!?)
自分の心臓は動いているはずだ。
「俺もあんたのところに行く。だから向こうで会ったら仲直りしようぜ」
「……」
アレストの頭を撫でる。
「ふふふふっ……あったかいなァ、あんたの手は。しんでいるのにねェ……。不思議だ……」
「アレスト……」
あぁ、アレストはしのうとしている。砂時計を割る剣で大陸を救えるのならば、自分がしんでもいいと思っている。
(しんでほしくない)
と、思うのはわがままだろうか。
(そうか、砂時計の創始者もきっとこう思ったんだ)
砂時計の呪い。それで苦しんでいるのは他でもないアレストなのに。悪いのは砂時計を創った人なのに。
(分かる気がする。大切な人に永遠に生きていて欲しい気持ち……)
「ぼっちゃん!!ルイス!やっと見つけましたよ!」
「2人とも無事だったか!良かった!」
リヒターとベノワットに見つかってしまった。
「ギャハハ!!ヤバ!ヤバ!逃げようぜ!」
アレストがルイスの手を引いた。咄嗟のことに体がついていかず、ルイスがその場に前のめりに倒れる。
「っ!」
「あっ」
アレストの表情が強ばった。
リヒターの足音が止まる。
「はあっ……やっと追いつきました。ぼっちゃん。みんなのところに戻りますよ」
「あ……リ……」
「リヒターです。アレスト、早く」
「軍師サンが倒れてる」
リヒターが見ると、「大丈夫?」と聞いたベノワットに「大丈夫。ちょっと擦りむいただけ」と言っているルイスが。
「ぼっちゃん、さっきあなたが手を引いて転ばせたんでしょう?」
「え?」
「まだ酔っているんですか?」
「いや、なんか一気に酔いが覚めた気が……」
歯切れが悪い。
(また夢でも見ていたのか?でもたしかに俺は相棒と賭博場に向かっていたが……)
アレストの表情を見たリヒターの顔も曇る。
(記憶障害が酷くなっている?まさか人の顔や名前だけではなく少し前の自分の行動も忘れてしまうようになったのか?ぼっちゃんの砂が著しく減っている?)
リヒターが焦る。砂時計は正確に1000年を刻むものだと思っていたが、もしかして変化しているのかもしれない。
「リヒターさん!アレスト!戻ろう!」
ベノワットの声に顔を上げる。そうだ。今はツザール村に向かわねば。そこできっと何かが分かる。
【夜 道中】
「!後方、砂の怪物だ!」
ベノワットが後ろを指さす。
「この辺は平和だと思っていたが、突然わいて出てきたな」
「私たちをつけている人がいるのかもしれませんね」
「人はいないですね。いや、砂の怪物になったのか……」
「ツザール村に行くってバレるのはまずいわ!はやく殲滅しましょう!」
アンジェの声にルイスたちが頷いた。
【戦闘開始】
【戦闘終了】
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