第38話
〜シャフマ王宮近郊の街〜
【砂の賊が現れて人を襲っていたので賊討伐をします】
「助かったぜ、アントワーヌサン」
レティアに治療してもらった傷をさすりながらアレストが笑う。
「すまない。本当はもっと早く着くつもりだったんだが……」
「いや、合流できたんだ。十分さ」
「アントワーヌと話をつけてあったのね!」
アンジェの明るい声に、アレストが頷く。
「アントワーヌサンには悪いが、ストワードのごたごたが収まって来たらシャフマ王宮に来てもらうように言ってあったのさ。国王を動かすのはさすがに気が引けたが、非常事態だからねェ……」
「お父様が亡くなって半年以上も経っているのだ。ボクが国王として動く、当然のことなのだよ」
「ありがとう。あんたのその行動力にはいつも助けられているぜ」
「君に言われずとも。トルーズク大陸の未来のためなのだからな」
アントワーヌが自分の立派な胸板をトンッと叩く。
「……アントワーヌ殿?」
「おお!君もいたのだな!リーシー殿!」
アントワーヌがリーシーを抱き上げる。リーシーは高さが怖いのかアントワーヌにぎゅっと抱きついている。
「フートテチとの交渉は上手く行ったようで安心したぜ。アントワーヌサン、本当にあんたは最高の国王だねェ」
「君の気持ちを……いや、トルーズク大陸のためなのだ。それだけなのだ」
アントワーヌが首を振る。
「で、メルヴィルとミカエラはおそらく王宮の地下に監禁されている」
アレストが王宮の地図を出す。
「何故地下なのですか?」
リーシーが聞くと、アレストは腕を広げてため息をついた。
「シャフマ王宮の地下はちょっとした牢があってねェ……。盗賊なんかを監獄施設に引き渡すまで閉じ込めておく簡易的なものなんだが……」
「なるほど!そこに2人が閉じ込められている、ということなのだな」
「ではすぐに地下に向かいましょう!」
「リーシーサン、俺もそうしたいところなんだが」
王宮は完全に封鎖されている。
「しかもタチが悪いのが、ラパポーツ公はシャフマ王宮に待機している騎士団をころしていないというところだ。つまり、半年少し前と同じ顔をして王宮のために働いている。という体になっている」
身内だったのだから、誰も疑わない。
「俺たちは入れないのに、王宮はいつも通りなのか」
ベノワットが言う。
「さぁて……どうしたもんかねェ……何か良い方法は……」
「おっ!あんた、珍しい服を来ているじゃねぇか!」
アレストに声をかけたのは、道を歩いていたおじさんたちだった。
(あ!あの人たち、前にこの街の酒場で見たことがある)
アレストとお酒を飲んだ時にお世話になった人たちだ。あれから一度も行けていなかったが。
「ええと、悪いね……俺は顔を覚えられ」
「ガハハハッ!兄ちゃん潰れるまで飲んでたもんなぁ!しかしこんなところで集まって、何か困っているのか?」
平民は王子の顔を知らないのだ。本来王子は王宮から出られないのだから当然だ。
「実は、王宮に用があるんだが入れてもらえなくてねェ」
「兄ちゃん、もしかして出禁になったのか?王宮と取引がしたいんなら、こっそり忍び込ませてやってもいいぜ!」
「「「え!」」」
「兄ちゃんはお得意様だから特別だぜ!丁度王宮に食料を運ぶ予定があるから、荷台に乗りな!そっちの小さい赤毛のボクも乗るといい」
「わ、私は25歳です!」
と、いうことで
アレスト、ルイス、アンジェ、リーシーは酒場の店員たちが運ぶ食料に紛れて王宮に忍び込むことになった。
他のメンバーは王宮近郊で待機。アレストたちの奇襲でラパポーツ公の魔力が弱まったら一斉に突撃する作戦だ。
「ギャハハ!!意外なところで俺の人脈が役立っちまったねェ!!」
「アレスト、あんたこれが終わったら絶対リヒターから大目玉食らうわよ。隠れて飲みに行っていたなんて、リヒターが許すわけないわ!」
荷台で揺られながらアレストとアンジェが話している。
「でも、アレスト殿のおかげでここに忍び込めたのです。感謝します」
リーシーが頭を下げる。
「ふふふ、いいのさ。俺もあんたも目的は同じだからねェ……可憐なお姫様2人を俺たちで救い出そうじゃないか」
「メルがいつお姫様になったのよ!」
「ミカエラはお姫様というには少々豪快すぎる気がしますが……」
〜シャフマ王宮 地下〜
「ラパポーツ公。戻ったぞ」
「スティール公……。!…メルヴィル」
ラパポーツ公がメルヴィルを抱きしめる。
「メルヴィル……半年ぶりだな。会いたかった……。私はお前とシャフマを永遠にするために生涯を尽くしてきた……。シャフマの光になってくれ……」
「断る」
メルヴィルの低い声に2人がハッとする。
「麻痺薬が切れたか!?」
「いや、体は動かせないようだ。……メルヴィル、私の言う事が聞けないのか?」
「俺はそんなこと望んではいない」
ラパポーツ公がフッと笑う。
「お前もじきに分かる。シャフマ王宮の永遠を刻む存在になることの尊さが」
「あのボンクラ王子のようになれというのか」
パシン!!ラパポーツ公がメルヴィルの頬を叩いた。
「お前はあんな人間ではない。あれは失敗作だ。代替わりしたのが悪かった。今度はもっと上手くやれば良い」
「1000年の時を生きればいい。いや、1万年……それ以上でもいい」
「……狂っている」
メルヴィルが眉を寄せる。
「お前らは感謝すべきだ。あのボンクラが自殺しないことに対してな」
「それ以上あの失敗作の話をするな。メルヴィル」
「……」
「お前が何と言おうと私たちの計画は覆ることはない。邪魔者が来る前に終わらせるぞ」
地下室の扉が閉められた。
……一方、地下2階のある一室では
「なんだ?ここ」
短い髪の大柄の女性が起き上がる。ベッドに雑に寝かされていたのだ。体が痛い。
「あれ?肉は?……あんじゃん!!」
ベッドの隣にあった机の上に美味しそうなステーキが。
「え!これ、あたし1人が貰っていいのかよ!なんか知らねーけどラッキー!!」
大口を開けて食らいつく。フートテチ王国の王妃、ミカエラが目を覚ました……。
〜地下通路〜
「よし、兄ちゃんたち。出てきていいぞ」
アレストたちが荷台から出てくる。
「ありがとう、助かった」
ルイスが礼を言うと酒場の店主が驚いた顔をする。
「よく見たら姉ちゃん、アレストの『相棒』じゃねぇか。一緒になれたんだなぁ。うっ…ううっ」
「な、泣かないで」
「だってあいつ、ずっと昔の女の話ばかりするから……本当に良かったぜ。ほんとどうしようもねぇやつだけどよ、よろしく頼むぜ。また酒場にも来てくれよ」
「もちろん」
「……王子であるあいつが王宮に入れないなんて妙なこともあるんだな。ま、事情はわかんねぇけど……役に立てたようで良かったぜ」
(そうだ、バレてたんだった……)
「アレストも姉ちゃんも相当な『ワケあり』ってやつだな!」
しばらく歩くと、たくさんの白い扉がある道に出た。
「……」
アレストが真剣な顔をして歩く。
(牢屋というよりも実験室みたいだ)
警戒しながらも地下を観察してしまう。
「静かで不気味ね……」
「向こうも極秘の実験……いや、実践のはずだからな」
「メルヴィルの体に砂時計を入れる、か」
ルイスが呟く。
「あれ、何?」
アンジェが白い扉の丸い窓から中を覗く。ルイスも見ると、5人の子どもたちがベッドに寝かされていた。
「……砂の材料?」
「ま、まさか。ルイス、怖いこと言わないでよ」
「おい、あまり見るものじゃない。……しかし、そうだろうな。メルヴィルの砂時計用に集められた『砂』だろう。おそらく、地下2階にもまだたくさん……」
アレストが歩きながら言う。
「……あいつらは、あの子たちをころすために誘拐したってこと?」
「……」
アレストの手が震えている。他の部屋にもたくさんの子どもが寝かされていた。どの子も肉付きが良く、長生きしそうな男の子ばかりだ。
「なにが永遠だ。寿命の前借りが美しいものか」
(アレスト……)
アレストの砂時計は人の死によって創られている。ルイスはそれがとても悲しいことだと思った。
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