第37話

【王宮近郊】


「やっと王宮か……ここまで敵の足取りは掴めず、か」

ベノワットが拳を握りしめる。道中、アレストはずっと暗い顔をして一度も笑わなかった。

「……大丈夫?アレスト」

ルイスが恐る恐る声をかけると、アレストがくいっと口角を上げた。

「ん?大丈夫だぜ?なにもないさ」

(嘘だ。無理やり笑っている)

考え事をし過ぎているのか、焦っているのか。あるいは両方か……顔色が悪い。王宮が見え始めてからさらに、だ。

それをリヒターに言おうとしたときだった。砂の中から砂の賊が出てきたのだ。

「ぐっ……しつこいですね!ぼっちゃん!下がっていてください!……ルイス!」

ルイスが頷いて戦闘態勢になる。


【戦闘】



「ふうっ……倒した。よし、行こうか、軍師サン……」

アレストが立ち上がる。下がっていたとはいえ戦闘は戦闘だ。アレストは強すぎる自分の魔法の反動でボロボロになっている。

「ぼっちゃん!休みましょう!危険です!!」

「っ……!うるさい!!!」

アレストの大声だ。焦燥している。そんな声を初めて聞いた。

「メルヴィルに砂時計が入れられたら終わりだ!!あんたが一番分かっているはずだろ!!!リヒター!俺の邪魔をできる立場なのか!?」

「あ、アレスト……」

さすがのリヒターも驚いて後ずさる。

「俺はどうなってもいい!!」

アレストは王宮に向かって走り出した。

「アレスト!」

ルイスがそれを追いかける。

(何で王宮内に入ろうとしているの!?)

分からない。敵が王宮にいるかなんて分からないのに。アレストは真っ直ぐに進む。何が分かっているのだろうか。

しかし、

バチンッ!!!!!

大きな音がして、アレストが宙を舞った。砂に重い身体をぶつける。

「うぐっおっ……な、なんだ……これ」

見えない壁があるようだ。王宮を囲っている。

「ヴァンス様の魔法……いや、似ているが違う!!!ラパポーツ公の魔法です!皆さん、伏せて!」

リヒターの言葉に全員が伏せる。瞬間、風魔法が頭を掠めた。

ガッ。

「う゛っ……」

踏みつける音の後に低い唸り声がした。アレストの声だ。ルイスは目を開けようとするが、砂嵐のせいで何も見えない。しかしアレストが倒れていて、踏まれていることは分かる。絶体絶命だ。このまま割られたら……。

「もう用済みだ」

冷ややかな男の声がする。またアレストの腹を踏む音。

「砂時計だけ取ればいい。貴様はいらない」

「ラパポーツ……公……!メルヴィルを返せ……」

「貴様の砂時計を回収したらな」

今度は殴る音。これだけの魔力を持っていながら、純粋な暴力を使っている。ルイスは寒気がした。

「ぼっちゃん……!」

「リヒターか。平民の貴様が王宮に居られたのもヴァンス様の寛大な御心のお陰。だが、私はそれが気に入らなかった」

その言葉にリヒターがラパポーツ公を睨みつける。

「信じていたのに……私は最後まであなたを……」

「……意外とお人好しだな。娘とその母をころしたらしいが、そのときも迷っていたか?」

「っ……何故それを!」

「ふん、やはりか。その情報を吐け。そうしたらアレストは解放してやる。ただし、メルヴィルは私の息子だ。権利は私にある」

(リヒターが、人をころした?)

あのリヒターが?ルイスは驚いて固まってしまう。

「言いません!2人の情報が悪用されるのならば、私はこの場でしにます!!!」

「リヒター……」

アレストの声が消えそうだ。割れるかもしれない。どうしたら……。

砂の怪物の声がする。ラパポーツ公が連れてきたのだろう。このままではシャフマ王宮騎士団が壊滅してしまう。

(何か攻撃をしよう、アレストから気を逸らさなければ!)

ルイスが起き上がろうとする。しかし、何者かに頭を抑えられた。

「ルイス……!今は、耐えてください……!」

リヒターだ。

「でも、アレストの時計が!」

「……大丈夫です」

リヒターがそう言ったときだった。

ビュンッ!!!!!

砂嵐に風穴が開く。

力強く投げられた手槍がカランと音を立ててラパポーツ公の真横に落ちた。


「かわしたか。ここでころしても良かったのだが」

(この声は……!!!)

ラパポーツ公の魔法が弱くなり、砂嵐が晴れていく。

白馬に乗った、金髪の大男。

「ストワード王宮騎士団!!突撃せよ!!!」


「アレスト!!ストワード国王、アントワーヌが参ったぞ!!!」


「くっくくく……遅いぜ。もうシャフマ王宮にいるかと思ったのに、いなかったから焦っちまった……」


アレストが安心したように笑った。


「もう半年前の俺じゃないさ。なぁ?軍師サン」

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