第35話
「で、あんたは俺と何が話したかったのさ?」
「……アントワーヌ殿とあなたに全面協力をする、と」
「それはあんたの従者から聞いたぜ?名前は忘れちまったが」
リーシーが首を傾げる。
「え?私は従者を遣いに出してなど……あ!ヨンギュン!まさか……」
リーシーが頭を抱える。
「失礼しました。私が行くから良いと言っていたのに、従者が先にあなたに伝えに行っていたようですね。最近上の空だと思っていましたが、また分身を動かしていたのですか……」
「分身?なんだそれは?」
「ヨンギュンは特殊な魔法を使うのです。分身は触られれば消えますが、自分の意のままに動かせる魔法です」
「へぇ、便利なもんだねェ」
「しかし、こうして会ってくださったことでフートテチ王国の気持ちがはっきり伝わりましたよ。ありがとうございます、リーシーさん」
リヒターが頭を下げる。
「そ、そうですね!無駄足ではなかった、ということです!」
リーシーが鼻を鳴らした。
「だが捕まったのだろう。計算が甘い」
「うくっ、そ、その通りです」
「メル……こんな小さな子に厳しいこと言わないの!」
「私は25歳です!!」
飛び跳ねて抗議するリーシーはとても成人男性には見えない。
「とにかく!あなたたちがこれからどこへ行くか教えてください!協力しますから!」
一行はリーシーと極秘の話をするために小さな宿に入る。
「なるほど、ペルピシで最終決戦をするつもりなのですね」
「そこで敵の幹部さえ潰せば……いや、『理解らせば』良い。俺の砂時計をあいつらの目の前で割る。それだけで十分さ」
「ころさなくてもいいのですか……?ストワード、フートテチ、そして何よりあなたのシャフマ王国の民を砂時計のためにころしていた人たちですよね?」
アレストが目を伏せて言う。
「……いいのさ。あいつらが時計を信じなくなれば、きっと前に進めるだろう?」
「アレスト、あなた……」
「まぁ、俺が例の剣を使えば呪いの砂は全て消えて、あいつらの計画を潰せるから!だが!!!ギャハハ!!あいつらの悔しそうな顔を早く拝みたいもんだねェ!!」
(性格が悪い!)
わかっていたが、やはり性格が悪い!
「……わかりました。砂の賊の件、そして三国で内部分裂を狙う扇動行為……許せません。ペルピシでは必ずあなたに協力しましょう。アレスト王子」
リーシーがアレストの前に手を差し出す。アレストはその小さな手を力強く握った。
「ごめんなすって」
「!」
どこから侵入したのだろうか。気づくとリーシーの後ろにヨンギュンが立っていた。
「国王様、心配しましたぜぃ。ささ、あっしと一緒に帰りましょ」
「ヨンギュン!どうしてここが……!」
「いいからいいから。ではシャフマの皆様、さらばでござんす。また近いうちに会いましょ」
ヨンギュンはリーシーを抱き抱えて去って行った。
「ギャハハ!!あんなに身軽な従者サンもいるんだねェ!」
「オッホン!!……ぼっちゃんが食生活を改めていただければ私にもあれくらい……」
「リヒターはさすがに年齢的に難しいわよ。……あら?メルはどこかしら?」
「さっきまでこの部屋にいたんだが……」
「ん?メ……?どこに行ったんだ?」
ルイスも辺りを見回すが、いない。知らないうちに出て行ったようだ。
(なんだろ……なんか嫌な予感がする)
「チッ……見失ったか?」
メルヴィルは宿の窓から見えた男の人影を追っていた。先程までピッタリと後をつけていたはずだが……。
「あいつ……どこへ行った。必ず俺の手でころしてやる」
「メルヴィルくん」
後ろから声が聞こえて振り返ると、そこにはメルヴィルが探していた人物が立っていた。
「チッ……!!スティール公!!」
メルヴィルが剣を構える。
「よくもベノワットをあんな目に……!」
スティール公。ベノワットの父親だ。
「冷静ではないな。悪い癖だ。君の父上も言っていた。君は少々荒っぽい。そんなことでは」
そんなことでは簡単に、我々に捕まるぞ。
メルヴィルの身体が前のめりに倒れる。
「こ、この臭いは……麻痺薬か……?」
「ころす訳にはいかないのだよ。少々手荒だが、許してくれ」
スティール公がメルヴィルの体を軽々持ち上げる。
「ははは、剣士になっても父上の血には抗えないものだな。細くて軽い……」
(クソが……好き勝手言いやがって……)
メルヴィルは気を失ってしまった。
「なんだ?外が騒がしいねェ……」
「もしかしてメルが砂の賊とたたかっていたりして!」
アンジェが窓の外を見ると、砂の賊が平民を襲っているのが見えた。
「!!砂の賊が現れたわ!」
「それは大変です!すぐに向かいましょう!」
「そうですねリヒターさん、きっとメルヴィルもそこにいます!軍師殿、指示を頼む!」
【戦闘です】
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