第45話
賊の討伐を終えた彼らは武器を下ろす。
「……なんだったんだ?妙に強かった」
「砂の呪いを強めている……?うっ……」
アレストが賊だった砂をすくい上げる。血が混じっていた……。
「改造しているのか。呪いを強めて寿命を縮めていているようだねェ……しかしこんなことをしたら負荷がかかって上手くコントロールできなくなるだろう。あいつらも必死ということか」
改造を施すくらいに切羽詰まっているのだろう。
「ラパポーツ公……」
「……」
メルヴィルが血を見て顔をしかめる。
「ベノワットが砂の賊にされかけたときも、もっと前にティッキーが砂の怪物にされたときも思ったけれど、いくら永遠や神のためと言ってもあんな悲惨な方法で人間を生贄にするのは間違っていると思うわ」
アンジェが言うと、ベノワットも続けた。
「神は大量の人間の命を捧げないと生み出せないのならば、そんな神はいらないよな」
(そうだ。砂時計はそういう仕組みだ……)
犠牲になるのは所有者だけではない。砂も容器も、人間だ……。
(私も……)
〜ペルピシ議会場 内部〜
3つの席がある。アレストは一番に西側の席に座って嬉しそうに目を細めた。
「ア……さんもリ……さんも座ろうぜ!!!」
アントワーヌとリーシーを手招きするアレスト。
「アレスト……。リーシー殿とボクは前に一度座ったことがあるからそんなにはしゃがな……」
「ふふん!!」
リーシーが東側の席に座ってふんぞり返っている。
「……」
アントワーヌがそれを見つめる。
「あ、いえ……ええと!前のときはまだ王子でしたから!国王になって初めて、座りますからね!!別に嬉しいとかじゃないです!」
「ふふふ。リーシーサン、素直になれよ。このペルピシ議会場の椅子に座るのは男の夢だろう?」
アレストが椅子の背もたれに体を預ける。
「ここに座れるのは各国のトップだ。王族として生まれ、国王になった男しか許されない……」
うっとりとした表情で語る。
「俺は歴史は重んじない主義だが、父上からこの席の偉大さを聞いて一度座ってみたかったのさ。くくくくっ……ま、普通の椅子ってところだな。もっとふわふわしているかと思っていたのにねェ……」
そう言いつつも嬉しそうだ。
「……じゃあ、ここで宣言しようか。騎士団の皆もこっちへ来てくれ」
3つの国の騎士団の長たちが椅子に座っている王族の男3人に跪く。
シャフマからはベノワットが出た。リヒターが生きていたらリヒターだったが。
アレストが立ち上がり、深呼吸をする。厚めの唇がゆっくりと開く。
「シャフマ王国は、解体する」
(この宣言をするために議会場の席に!)
アレストの宣言の後に立ち上がったアントワーヌとリーシーが続く。
「シャフマ王国のその後はストワード王国国王である私と」
「フートテチ王国国王である私が治めます」
議会場にいる騎士団から拍手が上がる。
「シャフマ王国は本当に終わるのね」
「フン……」
「ということで、俺は今から王子でも国王でもないぜ」
アレストが腕を広げて破顔する。
「ギャハハ!!やっと自由ってわけだ!!ま、俺は今までも十分自由に生きてきたがねェ!!!」
(……しまらないけど、アレストらしいかも)
「さて、宣言も済んだしそろそろあいつらが来る頃だろう。シャフマ騎士団……いや、元シャフマ騎士団だな。最後の仕事だぜ。
砂時計をぶっ壊して、シャフマ王国を本当の意味で終わらせるぜ!!!」
騎士団から歓声が上がる。
「ふふ、いつも従者サンがやっていた士気上げもやってみると案外気持ちいいじゃないか……」
アレストは嬉しそうに目を細めている。
「あぁ、そうだ。従者サンにはやるなと言われていたことをやるのを忘れていたねェ……」
やるなと言われたことなのにやるのか。
「お別れさ。しぬ前に挨拶をしておこうか」
アレストが騎士団に挨拶をする、と言って前に出た。
「今まで俺のためにたたかってくれてありがとう。これからは三国合同になるだろうが、くれぐれも内乱なんて起こさないでくれよ?俺の犠牲が無駄になるからねェ……」
「俺が犠牲になる理由は、これ以上砂時計の呪いによる被害者を増やさないためだ。そしてそれは砂時計が消えた後もそうだぜ。せっかく止めた呪いを違った形で復活されたら困る」
「俺は……シャフマ王国、いや、トルーズク大陸には『永遠の砂時計』なんていらないと思っている。超人的な神の力なんてなくても、人間は寄り添うことができる。俺を作った、愛があればねェ……。仲間割れなんてしたら俺を裏切ることになるし、なによりもあいつらの思うがままだぜ。悔しいだろ?くくくく……」
「……あいつらも同じ人間だ。それだけは忘れないでくれ。あいつらはあいつらなりの正義を持っている。それを最後まで尊重した結果今日になった。しかし、今度は目の前で否定してやるのさ!!!俺がしぬことでねェ!!!」
アレストがぐぐっと体を反らして笑う。
「さぁ壊せ!!!1000年続いたシャフマ王国に背く、極悪人になるのさ!!!!!歴史書に載るのは俺だけだから心配はいらないさ!!!」
心底嬉しそうだ。こうなったらアレストは止められない。
「……もうすぐだ。もうすぐ、時は満ちる」
アレストが右手首に着けた腕輪を見つめる。
「砂時計は1000年を告げる」
ルイスがアレストの部屋で目を覚ましてから丁度2年が経つ……。
ちょうどその頃
〜シャフマ王国 東の村〜
「ヤバい!間に合うか!?」
フードに金髪をしまった少年、ロヴェールが全速力で走っていた。
「アレストに伝えねぇと!」
「砂時計をひっくり返したら、最悪な結末になっちまうって!!」
「どうしたんだ?ボク」
「ちょっ……!いそいでるんだけど!邪魔!」
そのとき、地鳴りのような鳴き声がした。
「ぎゃああ!!怪物だ!!」
小さな村で砂の怪物が現れたのだ。
「っ……怪物が暴れてる!ううっ、俺、アレストのところに行かなきゃ……」
「怪物だ!くっそ、やるしかない!皆!!」
「怖くないぞ!!もう負けない!」
「あいつらの好き勝手にはさせないわ!」
村人たちがそれぞれ武器を取って、応戦しようとしていたのだ。馬に乗った自警団も駆けてくる。
「む、無茶だよ……シャフマ王国騎士団の精鋭でも苦労して倒してるのに、ただの村人たちがたたかうなんて……」
ロヴェールはそう言ったが、村人たちは雄叫びを上げて怪物に突進して行く。
「も、もう……!!こんなの見せられたら、俺もたたかうしかないじゃん!!」
ロヴェールは踊り子だ。直接はたたかえないが、力を上げることはできる。
「寄り道だけど!やっぱ俺も人間の心には逆らえないってやつだな!」
【戦闘】
(今回は例外的にロヴェールと自警団を動かします)
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