第49話

「……」

「……」

「暇だねェ」

「……」

「しりとりでもする?」

「……」

「……こんなに来ないのはさすがにおかしいな。もしかして、先に誰かにころされたか?いや、計算高いラパポーツ公に限ってそれは……」

(あ、急に真面目モードになった)

無視されたことが地味に精神に来たのか。少し悪い事をしたかもしれない。


「これが神とは笑わせる」


低い男の声がして、2人がハッと後ろを向く。

「……あ?」

アレストが素っ頓狂な声を上げる。

「ラパポーツ公の声がしたのに、どこにもいない!?幻聴魔法か!?」

「なるほど、それでも騙せたかもしれん」

「うっ!?」

ルイスが苦しそうに首を押さえる。

「な!?軍師サン!?……!ま、まさか!あんた、自分を砂にして……!」

砂の塊が男の姿になる。その手はルイスの首を絞めている。

「砂時計を渡せ、アレスト」

「……!」

「早くしないとこの娘をここから放り投げるぞ」

「ふ……なんだよ、そんな卑怯な手に俺が乗るとでも?」

アレストがルイスの持っている剣に気づかれないように後ずさる。断頭台は狭く、大人3人が乗ると空いた空間などほとんどなかった。

(ストワードの戴冠式前にシャフマ王宮に侵入してきた砂の賊と同じ原理か!!やはりラパポーツ公はあのときから……)

(しまった……ここで今すぐにしんじまえば目標は達成だが、そんなことをしたら軍師サンが……)

「アレスト!!!」

そのとき、断頭台の真下から少年の声が聞こえた。ラパポーツ公が驚く。

(!隙あり!!!)

アレストがラパポーツ公に突進する。手が緩み、ルイスが解放される。

「軍師サン!」

「わ、私は大丈夫。それより……」

「くっ……仕方ない。最終手段だ!!」

ラパポーツ公が2人に腕を伸ばす。アレストがルイスに覆いかぶさった。

「あ!あいつ……!」

断頭台に半分登っていたロヴェールが息をのむ。

「アレスト!!!狙いはお前だ!!離れろ!!」

ラパポーツ公がアレストの背中に腕を入れた。アレストの、背中に。

「……!!」

ルイスが目を見開く。

(そこは砂時計の模様が!)

腕は貫通し、アレストの背中に入っている。ロヴェールが駆け上がってくる音が遠い。アレストは脂汗を浮かべて俯いている。

「はあっ、ぜえっ、ぜえっ……」

ルイスは剣を握った。

「そうだ……貫いてくれ、今すぐに……!!」

「何を言っている?失敗作にも最後の役目を与えてやろうというのに……。

さぁ!シャフマの神よ!!!その姿を見せろ!!!我々に安寧を!!!シャフマに永遠を!!!!!」

ラパポーツ公が腕に力を込める。

「ぐあああっ……!!!!!」

(アレストの瞳が……!!)

段々と、赤く染まっていく。何故かそこから目を離せない。ルイスとロヴェールと同じ真っ赤な瞳だ。

「軍師……サン……!!!俺を、ころし……て……!」

アレストの頭から、大きな角が生える。真っ黒な巨大な翼が影になり、ルイスを覆う。口からは牙が飛び出し、巨大なしっぽが音を立てて床を打った。服は破れ、大きく開いた胸元には真っ赤なあの砂時計の模様が発現した。

「な、なんだ!?この悪魔は!!!!!」

ラパポーツ公が腰を抜かしてその場に崩れ落ちる。

悪魔。そう呼ぶにふさわしい怪物が、ルイスを真っ赤な瞳で見る。

「……あ、アレスト……?」

「〜〜〜〜、〜〜……ーーー」

(何を言っているの?言葉が違う?シャフマ語じゃない?)

「離れろ!!!」

ロヴェールがルイスの前に立ちはだかる。

「姉さん、逃げろ!!こいつに言葉は通じねぇ!!」

アレストだった悪魔は、くるりと後ろを向いてラパポーツ公をしっぽで吹き飛ばした。

「……!!」

断頭台から落ちる彼を目で追う気にはなれなかった。この高さから落ちたら終わりだ。

「なにボーッとしてんだよ!砂時計を逆さにされたんだぞ!下部にたまった砂が砂時計の中で暴走してる!はやくころさねぇと!!」

ロヴェールがルイスに剣を握らせる。

「……アレストは、どうなるかわかんねぇけど!!!あいつはしぬ覚悟でここまで来てるんだろ!?このままじゃ、本当に永遠しねない悪魔として完成しちまうぞ!人をころして寿命を得ることしか考えられない悪魔に!!」

「……!」

「そんなの、人間のあいつが望むかよ!!なぁ!姉さん!!!」

ロヴェールがルイスに叫ぶ。ルイスは意を決して剣を握った。

「私が、アレストをころさなきゃ……!」

割るんだ。砂時計を。



【戦闘前】

ベノワット「な、なんだあの悪魔は!?アレスト、なのか!?」

ロヴェール「砂時計が中で暴走しちまってる!はやく割りに行け!」

アンジェ「え!?ロヴェール!?どうしてここにいるのよ!?」

ロヴェール「説明は後!ルイスの剣でしか攻撃は通らないから気をつけろよ!

!?……砂の賊が怪物に……!?」

ベノワット「悪魔が現れてから、呼応するように敵の人間が怪物になってしまったんだ……」

ロヴェール「砂の呪いが強くなっちまってるのかよ……!早くしねぇと、大陸がぐちゃぐちゃにされるぞ!!」

メルヴィル「……アレスト……」


【戦闘開始】

【勝利条件】悪魔の撃破

【敗北条件】ルイスの敗走



【戦闘終了】


ルイスが悪魔の胸に剣を突き刺す。

「グオオオオオオッ………!!!!!!」

悪魔がその場に倒れる。メルヴィルたちが固唾をのんで見守る。悪魔の角が、牙が消えていく。

「……もっと、だ……」

「アレスト!」

「……それは、俺の名前か?……あんたが誰かはわからないが、俺のことをころしてくれるんだな?その剣で……突き刺してくれ……」

ルイスの手が震える。上手く力が入らない。

「ふふふ……遠慮しなくていいのに……」

重ねられたアレストの手も震えていた。

「俺、最期は人間だ……しぬのが、怖い……」

アレストの瞳は紫に戻っている。その人間らしい表情を見てルイスの目頭が熱くなる。

ぽたり、ぽたり……アレストの胸にルイスの涙が落ちる。

「ん……もしかしてあんた、俺の仲間の1人か?そんなに俺の事を想ってくれるなんて、嬉しいねェ……」

アレストが、ぐっと剣を握った。

「ありがとう。しかし、水はダメなんだ……砂に悪いから……」



ー俺は砂漠の砂だ。


ーだからいつも乾いていないといけないのさ。


ーだが、あんたは俺のオアシスなんだぜ。相棒。


ー乾きを忘れさせてくれる、オアシスさ……。


アレストの言葉を思い出して、ボロボロと涙が溢れる。

胸に剣を深く突き刺しながら……。


ー相棒、何をしているんだ?あ、砂時計をひっくり返しちまったのか?せっかく時間をはかっていたのに。

ーごめん、我慢できなくて。

ーふふ、堪え性がないねェ……。

ーそうじゃないの。砂時計がかわいそうで思わず。

ーどういうことだ?

ーこの砂時計は3分を刻むでしょう?終わったらまたひっくり返して3分を刻む。

ーそんなの当然だろう?何度もひっくり返して使うんだからさ。

ー外から力をかけない限り、砂時計は壊れないでしょう?だから、永遠になってしまうわ。この砂時計は3分を永遠に繰り返す……。そんなの、かわいそうじゃない?

ー……永遠が、かわいそう?

ー分からない?

ー……俺には、よく分からない。


俺は、永遠を刻む砂時計を壊してはいけないと言われているから。

そんなことを初めて言われたら、戸惑っちまう。


ーあ、もうすぐ3分。早いわね


ー……まだだ。

最後まで落ちないと、

正確な時間がはかれないだろ?


アレストが相棒の腕を掴む。


ーもう、アレスト。私の話聞いてた?

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