砂時計の王子【ゲーム版】
まこちー
序章
主人公デフォルトネーム……ルイス
男・女の選択はできますが、アレストの場合かなりセリフが違う仕様があるため、今回は女主人公を想定して文章にします
【序章】
目の前の机に一つ。小さな砂時計が置かれている。
「……まだだ」
低い男の声が聞こえた。白い大きな手が伸びて、ルイスの華奢な手首を掴む。
「最後まで落ちないと」
ルイスの赤い瞳に男の黒髪が映る。
「正確な時間がはかれないだろ?」
「……起きた、のか」
目を覚ますと、ベッドの上だった。
「くっくく……本当に上手くいくとはな。そしておかしいくらいに『時間通り』だ。あいつ、本当に『1年』をはかったんだな。几帳面なやつだぜ」
ぶつぶつ言いながらベッドに近づいてくる。明かりは1つしかついていない。ルイスは明かりをつけて欲しいと言おうとしてふと目の前で止まった男を見上げた。
(……?)
「……どうした、あいぼ……」
何か言いかけた男が首を横に振る。
「ええと、あんたの名前……なんだっけな。呼ばなきゃとは思っていたんだが」
あぁ、初対面だったのか。ほっと安堵する。どうりで名前が分からないはずだ。
「あんたの名前、俺に教えてくれよ」
「ルイス」
「ルイス……ルイス、ルイス……うん、そうだな。たしかそんな名前だった」
「あなたの名前は何?」
ルイスが聞くと、男は紫の瞳を見開いた。
「……まだ終わってないのか」
盛大なため息をついてルイスの向かいのベッドに座り込む。
「いや、そんなはずはない。たしかにあれは消滅した。さっき背中も見た……」
またぶつぶつ言い出した男をきょとんとして見る。
「どうしたの?」
「ん?なんでもないさ。それより俺の名前だったな。ええと……俺はア……。
おっと、もう忘れちまった。たしか1時間前にアイツから聞いたんだがな。そのアイツの名前も思い出さないわけだが」
「忘れた?自分の名前を?」
「あぁ、俺は人の名前と顔をすぐに忘れちまうんだ。悪いね」
「それは自分のことも?」
ア、しか名前を覚えていない男が頷く。「困ったもんだね、これがあるから不便でたまらないのさ」と苦笑い。
「ぼっちゃん!」
大きな男の声がして扉の方を見る。鍵をかけていたんだった、と男が黒い前髪を弄りながら立ち上がる。
扉を開けると、重そうな鎧に身を包んだ髭面の中年男が飛び込んできた。
「外で戦闘が起きています!どうやら海賊が王宮近郊の村を襲っているようでして」
「ええと、あんた誰だっけな。顔は覚えてるが……。あ、名乗るついでに俺の名前教えてくれ」
「私はリヒターであなたはアレスト王子!」
「あ、そうだったそれそれ。アだけは覚えてたぜ」
「いいから!はやく王宮の裏に逃げてください。この部屋には一応見張りをつけてルイスの安全だけでも確保しますが、あなたは万が一死んだら一大事にな……っ!?ルイス!目を覚ましたのですか!くっ……聞きたいことは山ほどありますがとりあえず今は逃げてください!ルイスも動けるのならば王子と共に!いいですか、あなたはシャフマ王国の騎士団の一員として王子をお守りするのですよ!病み上がりといえど」
リヒターが言葉を続けようと息を吸い込んだ瞬間、アレストの手がルイスの手首を掴んだ。そのままリヒターとは反対方向に引っ張られる。駆ける。ルイスの視界にはアレストの後ろ姿。
「くっくく……ルイス。こいつの話は長いから逃げながら聞くんだぜ」
廊下を走る。裏?どこだろう。知らない道を2人で走る。
「裏口には騎士団が待機しています!!ルイス、すぐに指示を出して騎士団を動かしなさい!私は表に行きます!」
リヒターの声が廊下に響いた。
(つ、疲れた)
裏口に着くと座り込んでしまう。体力がない。まるで何ヶ月も横になっていたかのような感じだ。
「目を覚ましてそうそう悪いね。いやぁ俺もあんたとたくさん話したいことがあったんだぜ。しかしこうなっちゃ……くくくく……っ……!ギャハハ!!!!!」
先程のアレストの笑い声とは全く違うトーンの笑い声が聞こえて、ルイスの肩がびくりと跳ねる。思わずアレストの方を見ると、両手を広げて盛大に破顔していた。
「ギャハハ!!!こんなの初めてだぜ!夜の王宮を『合法』で走れるなんて、もう二度とないかもしれない!なんて……気持ちいいんだ!!!ヤバ!!ギャハハ!!!」
「え……」
「はあっ……はあっ……ん、……あぁ、取り乱しちまったな。リヒターが逃げろと言った辺りから面白くてたまらなかったんだが、なかなか、笑えなくてなァ……笑う時間が、必要だった、のさ……。はあっ、もう大丈夫だ。よし、向かうか」
今度はにやりと口角を上げて笑う。どうやら表情が豊かな男のようだ。
「軍師サン、『久々の』戦闘だ。腕が鳴るな。
……行こうか」
(久々の……?)
裏口の扉を開けると
血の臭いが鼻腔をついた。
【勝利条件・敵将の撃破】
【敗北条件・ルイス、アレストの敗走】
アレスト「おっと。裏口の方にも賊がいたみたいだな。むしろこっちが本命か?考えやがる」
ルイス「……」
アレスト「どうした、軍師サン。まるで初めてみたいな顔して。慣れてるはずだろ?そりゃあここ数ヶ月は戦場に出なかったが……」
兵士1「王子!危ないです!!下がってください!」
アレスト「あぁ、分かってるさ。俺もたたかいたくてたまらないが今は我慢するぜ」
兵士2「ルイスさん!!意識が戻ったんですね!本当に良かった……。さぁ、指示を頼みます!」
アレスト「いいか、ルイス。あそこに見える男が海賊のリーダーだ。あいつさえ大人しくすれば他の賊も逃げる。……あ、俺のことも守ってくれよ。くっくく……こう見えても王子サマなんでね」
〜戦闘終了〜
アレストがルイスの方に歩いてくる。
「さすが軍師サンだ。的確な指示だったぜ」
「……アレスト。私は……」
「ん?……おっと、あっちも済んだようだな」
「ぼっちゃん!!!ルイスも、無事だったんですね!」
リヒターが泣きそうな顔でアレストに抱きつく。
「うおっ、よせ。俺は男に抱きつかれる趣味はない」
「はっ……これは御無礼を。感激して……。さすがルイスです。数ヶ月経っていても軍師の手は落ちていないようで」
「あぁ、それなんだがな」
アレストの紫の瞳が揺れる。
「どうやら、こいつは……初めてらしい。そうだろ、軍師サン」
(……!)
気づかれていた。
「え?どういうことです?」
「あんた、忘れてるのは俺の名前だけじゃないだろ。眠る前のこと……リヒターのことも、どうしてここにいるのかも、そして軍師だったことも。忘れているんじゃないか?」
ルイスがゆっくりと頷く。リヒターが「そんな」と下唇を噛んだ。
「では、やはり王子の記憶の喪失もあれによるものだと……」
「これで確証が持てたな。命は助かるらしいが、眠る前の記憶が飛んじまうなんてまずいぞ」
記憶喪失。やはりそういうことだったのか。ルイスは自分のことも、アレストたちのことも覚えていないのだ。
「まぁ……死ぬよりはマシか。ふぅ……これしかないんだったら『やる』しかないよなァ。リヒター」
「……ルイスが証明してくれましたからね。これで進めましょう」
2人がわからない話をしている横で、ルイスは自分のことを思い出そうと深呼吸をした。しかし、なにも思い出せない。アレストの話によれば、眠る前の自分は軍師で王国軍の騎士団を動かしていたらしいが、先程の戦闘でもアレストの説明を聞かなければ指示をだせなかった。深いところで覚えていれば自然と体が覚えていたりするのかもしれないがそれもなかった。
「……そろそろ戻りましょう。もう夜も遅いです。王宮の敷地内とはいえ、外にいては何が起きるか……」
リヒターが裏口の扉を開ける。アレストとルイスは中に入って部屋に向かって歩き出す。
「はいはい。また賊が攻めてくるかもしれないしな」
「うう……油断しました」
「仕方ないさ。今日は父上がいないんだ。結界が薄くなってやがる」
「結界?」
「あぁ。俺がこんなん……人のことがわからないからな。普段は王宮に強力な結界が張られているのさ。妙な輩が紛れ込んだらまずいだろ」
リヒターが長い襟足を整えながら「主(あるじ)……ヴァンス国王の魔法です。国王しか使えない魔法がありましてね。……王宮の重要な機密事項なので毎日あなたに言っていたのですが、これも覚えていないということは本当に記憶がないんですね……」と低い声でぼやいた。
「ごめんなさい」
ルイスが謝ると、アレストが目を細めて困ったように腕を広げた。
「謝るなよ。あんたの記憶喪失は俺が全面的に悪い。
……だが、父上がいないときも結界が薄くなることはほとんどなかったんだがな」
「たしかに最近は妙です。王子の魔法はなんともないですか?」
「俺の方はなんともないさ。もっとも、使う機会なんてないがな」
「勝手に使われたら困りますよ」
アレストは余程大切に扱われているらしい。身長が180あるかないかの大の男だというのに、まるでお姫様のように心配されている。それはリヒターからだけではなく、王宮内の廊下で会ったたくさんの兵士たちからも感じた。
(なにか理由があるんだろうか)
おそらく眠る前の自分は知っているだろう。アレストのことを。そして、自分がどうしてこうなったのかも。
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